新型コロナウイルスは間質性肺炎
新型コロナウイルスは間質性肺炎という動画が非常に拡散されました。
そのため、「新型コロナウイルスは間質性肺炎を起こすのですか?」とよく尋ねられるようになりました。
確かに、新型コロナウイルスは、間質性の炎症を起こします。
しかし「新型コロナウイルスは間質性肺炎である」という説は正しいのでしょうか?
ここをご覧の皆さんも、同件に関してご心配されている方もおられるかもしれません。
わかりやすく解説します。
ウイルスと肺炎
ウイルスは2つのタイプの肺炎を起こしえます。
●呼吸器系ウイルスによる肺炎
病変が経気道的に拡がり、気管支、細気管支、肺胞に病変が認められ、初期には気管支肺炎に類似した所見。
※代表的ウイルス;インフルエンザウイルス、ヒトRSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、SARSウイルス
●ウイルス血症に伴う肺炎
すりガラス様陰影、網状影、小粒状陰影などがびまん性に認められる。血液に乗って肺に到達し間質性の炎症を起こす。
※代表的ウイルス;サイトメガロウイルス、 水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、 麻疹ウイルス
このように2つの形式があるのですね。
前者は気道を通って肺にやって来て、気管支や肺の実質(肺胞という肺の中の小さな袋)を侵します。
後者は血液に乗って肺に到達し、肺胞の外側の壁の部分(間質)を侵すのです。
しかし前者であっても、肺の間質にまで影響を及ぼすことがあります。
そのため、ウイルス性肺炎も様々な肺炎像を呈し、例えば新型コロナウイルスもそうであるとすでに指摘されています。
重症の間質の炎症から肺の線維化を起こす
ウイルス性肺炎も重症でなければ一過性の間質などの炎症で改善してきます。
しかし時には、強い間質の炎症から、肺が繊維化といって硬くなってしまうことがあるのです。
感染症による肺の線維化【日本内科学会雑誌 第94巻 第6号】
この文献によると、下記のようなウイルスでの線維化が報告されています。
・サイトメガロウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス
なかでもSARSは、ウイルスによる肺の線維化が注目されるようになったある種代表的な病気です。
次のような線維化の特徴があったとされます。
・胸部画像所見でびまん性の間質性の炎症を中心とした多彩な陰影
・回復から8カ月経過した患者の胸部画像の検討では、軽症から中等症までの患者では殆ど正常化
・重症からの回復患者では両側性に線維性病変が残存
ここからもわかるように、ウイルス性の肺炎は、全例が線維化を来すわけではありません。
そしてここが重要なのですが、一般的にはウイルス性の肺炎は「間質性肺炎」と呼ばないことが多いです。
もちろん文献によってはそう呼称している場合もありますが、基本的には別個のものとして扱われます。
例えば次の資料などにも下記のように書かれています。
「感染症や心不全を除外したうえで間質性肺炎を疑う」
また、間質性肺炎と診断したものが、新型インフルエンザによる肺炎とわかったため診断を変更した文献もあります。
迅速抗原検査が陰性で,間質性肺炎と診断された新型インフルエンザウィルス肺炎の2例
特発性間質性肺炎とは違う
今回、「間質性肺炎」を検索して、驚いてしまった方が少なからずおられました。
間質性肺炎を調べると、主として難病の「特発性間質性肺炎」を記載した文章がすぐに見つかるのです。
特発性間質性肺炎は原因不明の進行性の間質性肺疾患です。
次第に肺が線維化し呼吸不全を来し、予後も厳しい病気です。
このように原因不明の進行性病変が、新型コロナウイルスによる肺炎で(必ず)起こると心配されてしまったようです。
しかしこれは別の病態であり、新型コロナウイルス肺炎の軽症や中等症でこのような線維化を起こすことは一般に考えにくいと思われます。
しかも、日本集中治療学会が出しているECMO(体外式膜型人工肺)の文献だと、肺の線維化のマーカーであるKL-6やSP-Dがあまり上がっていない事例もあったり、肺胞上皮傷害に伴う線維化(間質性変化)を主体としたものではなく高度炎症が主体の可能性などが指摘されています。
【その他の特徴】
◎低酸素血症は高度であるものの、肺コンプライアンス(線維化だと悪化)は比較的良好である症例が多い
◎COVID-19における肺胞上皮障害が可逆性かは不明
以上のように、特発性間質性肺炎とはまた違った病態であることが透けて見えます。
最新のLancet論文でも
最新の中国発の論文で、有名医学雑誌Lancetに掲載された下記論文にも次のようにあります。
◎Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study
These findings indicated the appearance of interstitial changes, suggesting the development of fibrosis. However, since the natural history of COVID-19 pneumonia is yet to be fully explored, it is too early to label these lung changes as irreversible fibrosis.
【DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30086-4】
不可逆的な(戻ることのない)肺線維化が起こると結論づけるには早いと書かれています。
このように、ウイルス性肺炎と間質性肺炎は同一のものではなく、また必ず線維化を起こすものではありません。
様々な情報が流れていますが、引き続き見極めに注意が必要ですし、信頼できる情報源からそれを入手するように心がけるのが良いでしょう。
【お役立ち情報】コロナウイルスと消毒(よく尋ねられる有効な消毒液をまとめました)
◯ 62〜71%エタノール
◯ 0.5%過酸化水素
◯ 0.1%次亜塩素酸ナトリウム
なお、2020年現在、消毒用のエタノールは品薄状態が続いており、無水エタノール4と精製水1の割合で作成することが一つの解決策です。
posted with カエレバただし、 燃料用アルコールの「メタノール」と間違えないこと、無水エタノールは引火しやすいため火の近くで作成しないこと、また乾くまで擦り込むことが大切なので手からしたたる程度までの量を使用することなどが大切です。
次亜塩素酸に関しては下記のページが参考になります。
弱酸性次亜塩素酸水 除菌モーリス スプレータイプ(400ml)
posted with カエレバまた、新型コロナでのデータではありませんが、ウイルスの中でも新型コロナに近いSARSに関して、食器洗いに使う市販の中性洗剤も消毒作用があることが確認されています。
0.5%の濃度で「100万個」のSARSウイルスを倒すことができ、中性洗剤には薄めても十分に消毒効果があることがわかったとのことです。界面活性剤が同ウイルスに対して有効とのことです。
こちらも選択肢に挙がることでしょう。
花王プロフェッショナル ファミリーフレッシュ 業務用(4.5L)
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