新型コロナの重症化や死亡とビタミンDが関連しているのではないかとの研究が増えています。
最新の研究を紹介します。
新型コロナにかかったと報じられたトランプ大統領も診断後ビタミンDを服用したと報じられています。
米 トランプ大統領 新型コロナ“軽い症状 病院から執務行う”
ビタミンDの血中濃度が高いと重症化や死亡が少ない可能性
2020年9月25日、科学雑誌PLOS ONEに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とビタミンDについての論文が掲載されました。
イランで行われた研究で観察研究なので因果関係は強固ではなく、また診断された人の全てにPCR検査が行われているわけではないなどの問題点もあり、論文著者らもそれを認めています。
また、より大規模でランダム化された比較試験が必要なことは同じく著者らも指摘しているものです。
というわけで、相関しているということを示しているというものではありますが、興味深い研究だったので紹介したいと思います。
さらに本記事では、2020年冬を迎えるにあたっての、良いビタミンDの保ち方や摂取法についても解説していきます。
COVID-19とビタミンDの関係 研究結果は―
研究ではビタミンD【25(OH)D】の血中濃度が30 ng/mLというのを一つの基準にしています。
30 ng/mL未満の場合の相対リスクは
重症 1.59倍【95%信頼区間 1.05-2.41】
意識障害 1.07倍【95%信頼区間 1.02-1.13】
低酸素症 1.32倍【95%信頼区間 1.11-1.57】
とビタミンDの血中濃度が低い群で重症が多いというものでした。
また同様に血中濃度と死亡の関連も調べられています。
論文の図がわかりやすいのでそれで紹介します。
実線が30 ng/mLで、点線が40 ng/mL、赤丸が死亡者、白丸が生存者です。
直感的にわかると思いますが、実線より上の赤丸が少ないです。
つまりビタミンDの血中濃度が高い群での死亡者が少ないのです。
さらに点線を超える水準、つまりビタミンDの血中濃度が40 ng/mLを超えるとさらに死亡者が少ないのが見て取れます。
因果関係を示すものではありませんが、このような相関関係が認められたのです。
それではなぜ、ビタミンDが重症化や死亡と関連する可能性があるのでしょうか。
免疫と関連している活性型ビタミンD
ビタミンDは免疫と関連していることが示唆されています。
特にホルモンでもある活性型ビタミンDは体内において免疫に関しても重要な役割を担っています。
人の体には、相手を選ばずに異物を排除する方向に働く「自然免疫」と、特定の病原体を認識してそれに対応する免疫機能を駆使してそれを排除する、免疫系の学習の結果としての「獲得免疫」があります。
ビタミンDが活性化された活性型ビタミンDは、この自然免疫と獲得免疫の双方に働きかけます。
まず病原体によってトル様受容体(TLR; toll-like receptor)が活性化されます。それに反応して免疫細胞の一つのマクロファージが活性型ビタミンDを生成します。免疫細胞にも活性型ビタミンDを生成する力があるのですね。
そして活性型ビタミンDと結合したマクロファージも抗ウイルス作用がある物質(例えばディフェンシンやカテリシジン)を出して、ウイルスに対抗します。
これらが自然免疫と活性型ビタミンDの関連です。
獲得免疫に関しても興味深い働きをします。
B細胞を活性化したり、免疫グロブリンを合成し、さらに制御性T細胞の生成を促進します。
制御性T細胞(Treg細胞)はTh1やTh17細胞(IL-17を分泌します)産生を抑え、Th2細胞が優勢になります。
Th2細胞は、Th1細胞が関係する炎症に関連する物質(サイトカイン)や腫瘍壊死因子α(TNFα)を阻害して炎症を抑える方向で働きます。
ここで注目すべきは、新型コロナの治療薬の候補として挙がっているトシリズマブ(商品名アクテムラ)はIL-6の働きを抑えて、制御性T細胞を増やし、Th17を減らす方向に働くことです。
つまり活性型ビタミンDの作用と一部似た方向性で作用しているということになります。
新型コロナの重症化や死亡においてはウイルスそのものというよりも、身体内での免疫の暴走が関係していることが知られています。
活性型ビタミンDはこのようなメカニズムで過剰な免疫の暴走を抑えられる可能性があるのです。
2021年に否定的な研究も
中等症から重度の新型コロナの患者さんに高用量のビタミンD(200000IU)を単回経口投与するという、無作為化二重盲検試験も行われ、2021年に結果が発表されています。
この研究では、入院期間、死亡率、ICU入室、人工呼吸の実施に関して差はないとされています。
Effect of a Single High Dose of Vitamin D3 on Hospital Length of Stay in Patients With Moderate to Severe COVID-19
A Randomized Clinical Trial
さすがに重い方の病気の経過を変えてしまうほどの力を求めるのは難しそうですね。
ビタミンD摂取法 必要量は? 食事は?
ビタミンDは食事ばかりではなく日光中の紫外線によって生合成されます。
そのため、食事と日光浴の双方が重要となります。
ビタミンDの推奨摂取量は次のようになります。
●18歳以上 5.5μg/日以上(220IU/日以上)【上限 100μg/日以上(4,000IU/日以上)】
●妊婦 7μg/日以上(280IU/日以上)
●授乳婦 8μg/日以上(320IU/日以上)
※なおこれらのデータは慈恵医大のこちらのページがよくまとまっていますので、参考にしました。
重要なこととして上限量があるので、過剰摂取は避けるべきです。
厚生労働省によると日本人のビタミンD摂取量は平均値が7.5μgで、中央値が3.8μgとされています。
そのため、国民のビタミンDの平均摂取量は目安には足りているものの、実際にはあまり日に当たらない人やご高齢の方で不足する可能性が高いと考えられています。
食事と日光浴について説明します。
食事
ビタミンDを多く含むのは魚類ときのこ類です。
下記の書籍でも詳しく説明していますが(がんとビタミンD等についても解説しています)、サーモンやさんま、いわしの他、すじこやいくら、ひらめ、まぐろのトロなどによく含まれています。
日光浴
「2020」の冬を迎えるにあたって気がかりなのはやはり日光を浴びる時間の少なさです。
過度の外出手控えや在宅生活中心の状況で身体活動が減ることは、新型コロナに限らず他の疾患の発生・悪化リスクもありますので、密の状態を避けた外出および身体活動の時間を確保すべきです。
そしてその際に、日光を浴びることも重要となります。
例えば以下のような研究もあります。
体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定-札幌の冬季にはつくばの3倍以上の日光浴が必要-
夏ならば、木陰で15~30分で十分とされていますが、冬はどうでしょうか。
1日必要量の5.5 μgすべてを体内で生成するとした場合に必要な日光浴の時間を日本の3地点の札幌、つくば、那覇で調べました。
その結果、両手・顔を晴天日の太陽光に露出したと仮定した場合、紫外線の弱い冬の12月の正午では、那覇で8分、つくばでは22分の日光浴で必要量のビタミンDを生成することができるものの、緯度の高い札幌では、つくばの3倍以上の76分日光浴をしないと必要量のビタミンDを生成しないことが判りました。紫外線を浴びすぎるとシミやしわ、皮膚がんの原因となることから、最近極度に紫外線を忌諱する風潮も一部で見受けられますが、冬季の北日本などでは食物からのビタミンD摂取に加え、積極的な日光浴が推奨されることが今回の研究で明らかとなりました。
那覇はともかく、場所によっては1日あたりそれなり以上の日光への露出が必要なことがわかるデータです。
基本的には食事や日光浴を中心に行うことが、全体を考えた際に良いとは思います。
ただサプリを状況に応じて用いることも検討されるでしょう。
市販のものでも25μg/錠(1,000IU/錠)と十分な量が含まれています。
まとめ
因果関係はまだはっきりしませんが、ビタミンDの免疫への影響を考えると、欠乏させずに推奨量をキープすることは良さそうな印象はあります。
引き続き予防、食事、運動(と日光浴)に留意しながら、これからの冬も健やかに乗り切って参りましょう。
★ビタミンD製剤には安心の日本製で選ぶという手もありますね。