新型コロナウイルスに幹細胞治療を行い73名全員が回復したというニュースが報じられたため、話題になっています。
5月7日現在でどこまでわかっているか記事化しました。
幹細胞治療のニュース
今回大きく報じられたのはUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ幹細胞センターの研究結果です。
ただしまず重要な点として、まだ論文化されていないということが挙げられます。
論文化されていないものは、データなども詳しく見ることができませんし、検証することが難しいです。
つまり現段階では、その程度の科学的な根拠性ということになります。
またこの研究には比較対象群がありません。
比較対照群を置いた研究が、科学的な根拠を強く示すのには重要となります。
しかも新型コロナは自然回復することも十分ある病気であり、なおさらです。
つまり、薬を使いました、良くなりましただけでは、薬の効果ではなく自然回復かもしれないのです。
そのため、薬の群と偽薬(プラセボ)の群を設けて比較することが大切な意味を持ちます。
このように研究としては本当に初期のものです。内容は論文化されてくるとは考えられ、それを待ちたいところでもありますね。
以上のような限界はありますが、73人に使用して回復者が全員だったということで注目を集めました。
詳しく見ていきましょう。
幹細胞とは?
そもそも幹細胞とは何なのかということなのですが、幹という文字が付いているように、枝分かれして様々な細胞になることができる細胞です。
この幹細胞は体内の様々なところに存在しています。
今回の研究では血液から採取しています。
幹細胞を治療に用いる有名な病気には、血液のがんである白血病などの血液疾患があります。
血液の病気ではすでに確立した治療の一つですね。
今回の幹細胞治療の目的は?
今回の新型コロナにおいて、特に傷害を受ける部位は肺です。
報じられた幹細胞治療でも、肺の損傷した細胞を再生することを企図しているようです。
ただし幹細胞が直接肺の細胞に変化して再生するのではなく、幹細胞が分泌する物質などで、修復が促進されるという見解があります。
いずれにせよ、細胞修復を期待しているとのことですね。
他に重要な役割として、免疫反応を調節するというものがあります。
幹細胞は免疫の調節にも関与することが知られています。
今回の新型コロナウイルスによる肺炎では、免疫反応の暴走によってサイトカインストームなどが惹起され、全身の様々な場所が傷害されることが知られています。
幹細胞治療による免疫調節で、この暴走にブレーキをかけることも企図しているようですね。
UAEの研究では、患者にジェット噴霧法によって幹細胞を投与しています。点滴ではないということですね。
またこの治療では抗ウイルス効果は期待しておらず、あくまで炎症を抑えるという支持的な方向性での治療です。炎症の行き過ぎを抑え、肺組織を修復することが目的なのですね。
なお、肺が修復されるので、息切れや咳などの症状緩和も目指しているようです。
今回の幹細胞治療の結果は?
73名の患者が有害な副作用なしに回復したという良い結果でした。
臨床試験の最初のフェーズに成功したということで、これからフェーズを進めるようです。
フェーズ3でも良好な結果を対照群にたいして示せれば、実用化に弾みがつくでしょう。
なお73人の患者は治療前が中等症か重症で25%がICUに滞在していたということで、それなり以上に重症です。
一例も死亡を出さなかったことはすごいですね。
ただし、繰り返しですが、このように治療群だけで効果を示しても、のちに結果を出せなかった治療も多々あるので、まだまだ今後の進捗を見守る必要があります。
他の結果や今後の幹細胞治療の展望は?
ニューヨークの病院での重症患者の小規模研究も行われたようです。
12例の研究で、幹細胞治療を受けたARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者は83%が生存と出ています。
急性呼吸窮迫症候群を起こしているのは結構な重症なので、良い数字です。
このレポートでは、「標準的な治療を受けている患者は12%の生存」と他の研究のデータを援用して併記していますが、これだけではやはり何とも言えません。
ただし、感触としては悪くはないということにはなりますね。
ではどれくらいで実用化されるのか。
UAEの研究に携わっているファティマ・アルカービ博士によると「3ヵ月で市場に」ということです。
さすがに3ヵ月は厳しいと思いますけれども、ドンとアピールするのが海外流ですね。
なお臨床試験が登録されているclinicaltrials.govにも幹細胞治療は30件以上登録があり、世界中で研究されていることは間違いありません。
幹細胞の私見まとめ
さて、これらを踏まえて5/7現在の幹細胞治療についての感想を述べます。
まず「比較群がないので何とも言えない」でしょうね。
新型コロナでもヒドロキシクロロキンのように対照群を設けない研究では良さそうでも、実際に比較試験をしたらそれほどでもないという結果が出ているものもあります。
一群だけの研究ではやはり確たることは言えませんね。
ただ、研究を進めるということですし、現在進行形で研究も各所で行われているようなので、それ待ちでしょう。
あと値段が高そうな点も気になりますね。
一方で、5/7付でAERAに記事が掲載されており、日本でも幹細胞治療の治験を今後行う動きがあるようです。
また保険治療として認可された場合には2~10万円におさめたいというようなことまで書かれていました。
というわけで、日本でもこの方向からのアプローチが為されてくるようですね。
一方で気になる動きもあります。
日本でも早くも自費での幹細胞治療を宣伝している機関があるので注意が必要です。
これはまだ実験的な治療であり、評価が確立したものではありませんので、これに多額のお金をかける意義は乏しいでしょう。
話題のワードを元にした誘導も今後様々に出現してくると思われ、引き続き注意が必要です。
現在、各地域などで複数行われた疫学的調査により2020年5月初旬現在で人口の数%が抗体を保有している可能性があるなど、無症状の感染者も相当数存在すると見込まれています。
誰もが気が付かずに罹患している可能性もあり、自衛隊中央病院の観察的研究で見いだされた、若年者は「頻呼吸」、高齢者は「SpO2の低下」を見逃さず、引き続きそれぞれに予防対策を取っていきたいものです。
【SpO2低下を測定するパルスオキシメータは下記で紹介しています】
★記事はこちら→新型コロナウイルスとパルスオキシメーター 経皮的動脈血酸素飽和度SpO2
元々はこのドリテックのものが安く入手しやすいため、私も診療所で使っています。ただ最近は以前より入手しづらいようですね。
医療現場ではNISSEIのものがしばしば使われていますね(現在は欠品がちですね)。
日本精密測器 パルスオキシメータ クレール・ブルー BO-650
posted with カエレバざっと見てみると4月1日現在は次の富士コンテックのものが売られている中では安価だと思います。ただ、4月4日再確認するとこちらも欠品になったようです。急速に品薄になっていますね…。下記のリンク先から入って頂くと類するものも出てくるので、それで探して頂くと良いと思います。ただ繰り返しですが、製品としての機能は高価でも安価でもそれほど変わらないと思っています(個人的見解)。そのため、確実に届く、安い、この2点で選んで良いと考えます。富士コンテック パルスオキシメータ FC-P01/W ホワイト
posted with カエレバ特にご高齢の方、およびご高齢の方と同居のご家族、持病がある方は検討されても良いでしょう。