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新型コロナウイルス

新型コロナウイルスは「肺炎ではなく人工呼吸器が有害」との米医師説を検証

新型コロナウイルスと肺炎・ARDSの人工呼吸器設定とカイル=シデル医師

キャメロン・カイル=シデル医師の動画が話題に

最近、新型コロナウイルス関連では何でもニュースになり、海外の話題をそのまま日本語に訳して耳目を集めるような人が絶えません。

新型コロナに関して私も積極的にYouTubeで動画配信を行っているため、それらの内容の真偽に関してよく相談されます。

3/31にアメリカの医師であるキャメロン・カイル=シデルさんによって投稿されたYouTube動画が4月5日くらいから多数尋ねられるようになり、10日には動画化しました。

情報の伝播が非常に早くなっていますが、それが厄介な問題を生んでもいます。

しばしば日本語の紹介者は、メディアも含めて、右から左へ流しているようなやり方であることが多いのです。

実際、ある紹介者は次のように談話を翻訳・紹介していました。

「キャメロン・カイル=シデルというニューヨークの医師がYouTubeに2本の動画を投稿し、COVID-19は肺炎のような病気では全くないことを医療従事者に認識してもらうように懇願している。

これは酸素欠乏状態であり、人工呼吸器の使用は一部の患者にとって有益というよりむしろ有害であるかもしれない。人工呼吸器自体が高圧で作動するため、肺に損傷を与え、患者に広範な害を及ぼす可能性がある」

これだけを読むと確かに不安になるかもしれず、実際私にも相談が相次ぎました。

このような解説なしの紹介が誤解や疑念を生む温床となっています。今回のキャメロン・カイル=シデル医師の件もまさにそうだと考えます。

私は以前内科医として、人工呼吸器を患者さんに装着して離脱するまでを担当医として行っていたので感じますが、正直な話、今回のような事柄の解説は本当に実地の経験がある専門家ではないと難しいと思います。

解説していきます。

 

ARDS治療の人工呼吸器の基本

Yahoo!でも一般の方向けに人工呼吸器の基本的な知識についてご説明したので、ぜひそちらをご覧頂ければと思います。

人工呼吸器は全自動でもお手軽でもない 緊急事態宣言下に知っておくと良い人工呼吸器の誤解と真実

まず人工呼吸器が全自動のような考えを捨ててください。

人工呼吸器にはいくつも設定をするところがあるのですね。

その設定に、知識や経験が必要なのです。

だから人工呼吸器をいくら増やしても使える医療者が増えないといけませんが、その養成には時間がかかるのが通常です。

そして重要なこととして、人工呼吸器の間違った設定をすれば患者さんを悪くする場合もあるのです。

そのため、カイル=シデル医師の「人工呼吸器が肺の損傷を引き起こし」という発言は、医学の世界ではしごく当然のことを言っているだけです。

ただし「誤った設定ならば」という前提ですね。人工呼吸器自体を付けないほうが良いと言っているわけではありません。

特に今回、新型コロナウイルスによる重症の肺炎の後に起こってくる場合が示唆されているARDS(急性呼吸窮迫症候群)の際には、VALI(ヴァリ:人工呼吸器関連肺損傷) という病態が起こりえます。

ARDSでは高度の炎症によって血管透過性亢進(血管の中の水分等が漏れ出してしまうこと)を起こし、水が肺に貯留します(肺水腫)。

また肺のサーファクタントという表面活性物質が低下して肺胞が虚脱してしまうのです。つまり、しぼんでしまうのです。

そこである程度圧をかけてあげる必要があります。

ARDSガイドライン 上変曲点・下変曲点

ARDSガイドラインより引用】

ただ上変曲点とか下変曲点というものがあり、圧が少なすぎると肺胞が虚脱します。

しかし上変曲点を超えて圧をかけるとVALI(人工呼吸器関連肺損傷)のリスクが高くなります。

これはARDSの人工呼吸器治療を行う医師にとっては常識的なことです。

 

キャメロン・カイル・シデル医師の主張とは?

カイル=シデル医師がYouTubeで話していることは、このARDSに適した設定と違う呼吸器設定にする必要があるのではないかということなのですね。

先ほどもお伝えしたように、ARDS治療では肺胞の虚脱を防ぐため、PEEP(呼気終末陽圧)という圧をかけます。

PEEPとは、呼気終末時に気道内を設定した陽圧にすることで、呼気時に肺胞が虚脱するのを防ぎます。

カイル=シデル医師はMedscapeというサイトのインタビューに、次の方針が推奨されるのではないかと答えています

Do COVID-19 Vent Protocols Need a Second Look?

「PEEPを低くし、酸素レベルを上げる」

つまりこれは、これまでのARDSの治療とは反対方向の設定をしたほうが良いと主張しているのです。

人工呼吸器を付けないほうが良いとは一言も言っていないことにも注意が必要です。

 

キャメロン・カイル・シデル医師の真意とは?

カイル・シデル医師は先ほどのインタビューでドイツ・ゲッティンゲン大学のガッティノーニ医師の説を紹介しています。

そのガッティノーニ医師のインタビューはこちらです。

Is protocol-driven COVID-19 respiratory therapy doing more harm than good?

「ガッティノーニ博士らは、人工呼吸器の設定は生理学的所見に基づくべきであり、標準的なプロトコルを使用するのではなく、疾患の表現型に基づいて異なる呼吸治療を行うべきだとさらに説明しました」

「もちろん、これは概念モデルですが、これまでの観察結果に基づくと、これより優れたモデルはわかりません」と語ったとあります。

彼らの主張はこうです。

ARDS では低酸素血症から速やかに脱するため酸素吸入濃度を高く設定し、その後漸減します。そしてPEEP(呼気終末陽圧)をかけます。

しかしガッティノーニ医師の説では、肺の状態には2タイプの状態があり、それによって設定を変えることを提案しています。

ARDSでは一般的には肺コンプライアンスが低下し、肺が硬くなります。

ARDSの場合は肺のサーファクタントの効果が減弱し、肺が縮みやすくなるなどのためです。

ただガッティノーニ医師は、この硬くなるパターンだけではなく、肺コンプライアンスが良いパターンもあるということを指摘しています。そのためPEEPをかけずに高濃度の酸素を使用することを提案しています。

一方、日本でも集中治療医学会がECMO(体外式膜型人工肺)に関しての報告で、新型コロナウイルスによる肺病変は「低酸素血症は高度であるものの、肺コンプライアンスは比較的良好である症例が多い」と指摘しています。

またCOVID-19関連肺炎の病態が、肺胞上皮傷害に伴う線維化(間質性変化)を主体としたものではなく高度炎症が主体の可能性も示唆しています。

そのため、カイル=シデル医師やガッティノーニ医師の考えもあながち間違いではないかもしれません。

ただしこれもまだ仮説であり、今後より知見が集積されていくでしょう。

 

今回のまとめ

カイル=シデル医師が主張していたのは、今回の新型コロナウイルスによる肺炎は”一般的な”肺炎とは異なり、またARDSと異なった状態の肺である可能性があるため、設定によっては有害となりうることでした。

すなわち、至極まっとうな指摘でした。

一方で、このように高度な内容ですから、残念ながら日本で紹介されているものを見るとカイル=シデル医師の言葉尻を捉えての間違った理解が為されていると思います。

重度の呼吸不全の場合に人工呼吸器を付けなければ、亡くなるのは明白です。

ただその使い方に関しての指摘であり、当然人工呼吸器をつけたせいで生きる人が死ぬという話ではありません。設定次第で、救えた人がそうでなくなるかも、と言っているのですね。

それに関しても、まだ解明の途上です。

皆さんにお伝えしておくこととして、新しいことに安易に飛びつかないことは大切です。

特に日本語で出ているものは、誤解を強める方向で紹介している場合があります。

医学の世界の重要な事柄として、本当に力があるものは必ず研究され、時間をかけて世に出てくるということがあります。

逆に、今日「これが効く」「これで亡くなる」という新しい説が出ても、それだけで終わるということはよくあります。

だから、新しいニュースが出ても、ある程度話半分に聞いておいて、時間をかけて続報があるかを待ったほうが良いと思いますね。

カイル=シデル医師の指摘自体は非常に興味深い事柄ですが、もともと呼吸器の設定は現場の医師も考えながら最良を探しています。

正直、呼吸器の確保は何とかなります。ただこのような呼吸器の設定を知り尽くしている医師や医療者の数には限りがあります。

私も実際に呼吸器の調整を行ったことがありますが、それは決して簡単な作業ではなく、知識と経験を活かしてベストのところに持っていきます。

そこで今、私達が皆で頑張っている、「重症者を増やしすぎない」そして集中治療室を守るという話になるのですね。

そしてまた自衛隊中央病院が見出した重症化の徴候である若年者は「頻呼吸」、高齢者は「SpO2の低下」を見逃さず、引き続きそれぞれに予防対策を取っていきたいものです。

【SpO2低下を測定するパルスオキシメータは下記で紹介しています】

★記事はこちら→新型コロナウイルスとパルスオキシメーター 経皮的動脈血酸素飽和度SpO2

元々はこのドリテックのものが安く入手しやすいため、私も診療所で使っています。ただ最近は以前より入手しづらいようですね。

医療現場ではNISSEIのものがしばしば使われていますね(現在は欠品がちですね)。

ざっと見てみると4月1日現在は次の富士コンテックのものが売られている中では安価だと思います。ただ、4月4日再確認するとこちらも欠品になったようです。急速に品薄になっていますね…。下記のリンク先から入って頂くと類するものも出てくるので、それで探して頂くと良いと思います。ただ繰り返しですが、製品としての機能は高価でも安価でもそれほど変わらないと思っています(個人的見解)。そのため、確実に届く、安い、この2点で選んで良いと考えます。

特にご高齢の方、およびご高齢の方と同居のご家族、持病がある方は検討されても良いでしょう。

 

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