身体の症状を和らげるのが緩和ケアという誤解
「身体の症状がないので、まだ緩和ケアは必要ないのですが」
メッセージを頂戴すると、よくそのようなことが記されています。当然のお考えだと思います。
このサイトをご覧になっておられるような皆さんは、緩和ケアが末期に限っていないことをご存知でしょうから、すでに一般的な認識の先をいっておられます。
しかし、認識されている症状の有無とは別に、定期的に緩和ケアを受診したほうが良いという結果が海外で出ているのです。
定期的な緩和ケア外来の受診がもたらした結果
海外ではこの分野は様々に研究されています。
詳細は、下記の3つの記事をご参照頂ければと存じますが、
早期緩和ケア外来が目指すもの 出費・費用の減少「トータルで安上がりに」
膵臓癌 早期からの緩和ケア外来介入・定期受診で余命の延長もある?
特に非小細胞肺がんでは、臨床研究という場ではありますが、定期的に緩和ケアを受診した群で、生存期間中央値が長かったので話題となりました。
1つのがんに対する治療に匹敵するくらいの余命の延長が示唆されたからです。
そればかりではなく、緩和ケア定期受診群では、生活の質は良く、抑うつは少なかったのです。
そしてまたより多く、先のことに関して話し合えていたということも見逃せません。
早期からの緩和ケアの意味
上述の研究群は、新たな地平を緩和ケアに拓くことになりました。
緩和ケア=末期というのが第一世代の緩和ケア、
症状があって初めてかかるのが、第二世代の緩和ケアとすると、
症状がなくても定期受診するのが第三世代、最新の緩和ケアです。
そして、症状がなくても定期受診するのが早期緩和ケアです。
ではそれをする意義はなんでしょうか?
がん治療医の押川勝太郎先生は、「がんの防災」という考え方を提唱されています(アクティブ緩和ケア)。
患者さんが自ら動き、緩和ケアを受け、自らの中にある病気に対する力をより強化することで、また正しい知識を得ることで、問題を起こらないようにする、というのが「症状がなくても」緩和ケアを受ける、早期緩和ケアのメリットなのです。
もちろん抗がん剤などの治療中においては、医療システム上の問題もあって主担当の医療者だけではカバーできていない部分の副作用対策や心理的な支援も可能となります。
また、生活の質を上げるアプローチである緩和ケアの主役は病を患っておられる方で、緩和ケアの専門家はその支援をすることによって、もともと持っている力を引き出すこととも言えるでしょう。
それが問題を起こらなくさせたり、起きても早く対応することで心身全体への波及を抑えたり、あるいは先の準備を万全にして有事に困らないような形を構築しておくことなのです。
まとめ
まだまだ緩和ケアに限らず、問題が起きたら対処するという考え方が主流です。
しかし健康や予防の大切さが言われる現在、病気になってもそれは同様なのです。
特にがんなどの内科的、総合的、全人的な配慮が必要な病気にとっては、支える医療者にも広範な知識や経験が必要となります。
症状が出たら緩和ケア、という考え方から一歩進めることで、よりよい時間を過ごせる方が増えるのではないか。
早期からの緩和ケアをクリニックの名前に冠して活動しているのは、そのような思いからです。
なお、進行がんと診断された時から緩和ケアをしたほうが、診断後3ヶ月経って緩和ケアを始めた群よりも、(たった3ヶ月の違いなのに!)1年生存率が有意に高かったという論文を紹介した下記のページもよかったらご参照ください。
診断時からの早期緩和ケア定期受診で1年生存率が向上する【遠隔相談で】