期待していたリリカが神経の痛みに効かない・・・落ち込む前に読んでください
神経の痛みによく効く”特効薬”なんて聞いて、プレガバリン(商品名リリカ)を飲んだのに、さっぱり効かない。
多少痛みは良いかもしれないが、めまいや眠気、ふらつき、むくみが強くて、続けられなかった・・・。
そんな方がここを読まれているかもしれません。
安心してください。
わりと良くあることです。
私は緩和ケア医なので痛み治療の専門家で、リリカの処方経験は豊富で、かつ自らでの使用歴もあるので、この薬剤を大変よく理解しています。
また、リリカなどの神経の痛み止めについても易しい専門書を書いている専門医です。
その専門家の立場から「リリカが効かない」理由についてわかりやすく解説していきます。
リリカの保険適応の広さが招いた万能薬幻想
リリカの日本の2019年現在(追記※2022年段階でも同様)の保険適応は「神経障害性疼痛」「線維筋痛症に伴う疼痛」です。
神経障害性疼痛とは、以前医学界では「神経因性疼痛」と言われた、いわゆる神経の痛みのことです。
神経痛はいろいろな種類があります。
糖尿病での末梢神経障害、帯状疱疹後神経痛、坐骨神経痛、外傷性神経損傷など。
また、神経が痛みに関連しているとされる疾患もあります。例えば、線維筋痛症、複雑性局所疼痛症候群、慢性腰痛などです。
リリカは、保険適応上、魔法のような「神経障害性疼痛」という何でも使用できる適応症を持っていることは下記の記事でも述べました。
そのため、2018年も日本の全薬剤の売上4位【986億円(前年比5.9%増、前年も4位)】という驚異的な販売実績を誇っています。
リリカと類似する薬剤である新薬タリージェも、259億円の売り上げを見込んでいるそうです。
それくらい売れているのですね。
痛みにしっかり対応されることは良いことです。
ただこのリリカ、本当に神経障害性疼痛の大半に奏効するのでしょうか?
リリカの広範な使用が問題になっているのは日本だけではない
リリカが坐骨神経痛に対して、痛みを統計的に意味のある程度で下げることができず、一方で有害事象は増えたという研究が2017年に発表されました。
Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica(英語)
ある論文では、リリカも含まれるガバペンチノイドの34のプラセボ対照ランダム化試験(約4200人の患者を対象)の結果を次のようにまとめています<参考;Markedly Increased Off-Label Use of Gabapentinoid Drugs for Pain Management(英語)>。
なおプレガバリンの商品名がリリカです。ガバペンチンの商品名がガバペンです。
ガバペンチノイドに含まれるのが、リリカ、ガバペン、タリージェです。
まとめの結果は下記です。
◯ 糖尿病性神経障害に対するガバペンチンの使用を支持するのは弱い証拠のみです(同適応症にはプレガバリンのみが承認されています)。
◯ 非糖尿病性の痛みを伴う神経障害に対するガバペンチンの使用を裏付ける証拠はごくわずかです。
◯ 腰痛や坐骨神経痛をマネジメントするためのガバペンチノイドの研究結果は概して否定的です(※筆者注;効かない可能性が示唆されているということ)。
◯ (プレガバリンが承認されている)線維筋痛症に対して、アメリカ食品医薬品局では認可外のガバペンチンを使用することが、臨床的に意味のある利益をもたらすかどうかに関しては最小限の証拠のみです。
◯ ガバペンチンとプレガバリンはどちらも帯状疱疹後神経痛のマネジメントに承認されていますが、研究がメリットを示唆していない急性帯状疱疹の疼痛によく使用されています。
◯ 他の疼痛症候群(例、外傷性神経損傷、複雑性局所疼痛症候群、火傷、鎌状赤血球痛)に対するガバペンチノイド使用の少数の研究では、臨床的に重要な有益性は示されていません。
以上のように、研究が示唆するのは神経障害性疼痛の万能薬という効果ではないのです。一方でよく使用されているのは海外でも同様で、ある論文では、2016年にはガバペンチンが米国で第10位、リリカが第8位で一般臨床医もよく処方する傾向について警鐘が鳴らされています。
同論文では、ガバペンチノイドの副作用である鎮静やめまいに言及されています。例えば、坐骨神経痛の試験では、プレガバリンを服用している患者の40%がめまいを報告したとのことです。
どんな薬剤にも良い点・悪い点があり、メリット>デメリットとなる場合に薬剤は処方されます。
痛みがあればすぐにリリカ、あるいは神経痛ならばリリカという機械的な処方は避けられねばならないでしょうし、患者さん側は本当にリリカが効く可能性がある病態なのかを処方医とよく相談することが大切でしょう。
特に高齢の方の場合だと、めまいやふらつきで転倒し、外傷を起こしたり、そこから二次的な疾病や障害をもたらさないとも限りません。また当然のことながら、運転が禁止の薬剤であり、これらの薬剤を用いて運転するようなことがあると、他害を及ぼして人生に関わる事態にならないとも限りません。
リリカは良い薬剤ですが、しっかりと効く病態に、情報を十分提供されて、決まりを遵守して治療を受けることが肝要でしょう。
リリカが効かない場合は?
リリカが効かない場合はどうしたら良いのでしょうか?
得てして時間が少ない一般外来では、「では次はサインバルタにしましょう」「医療用麻薬はどうでしょう?」と機械的に次の薬剤処方となりがちです。
ただ前掲の論文にも示されているように
Patients who are in pain deserve empathy, understanding, time, and attention.
痛みを感じている患者は、共感・理解されること、時間をかけること、そして注意が払われるのに値します。
慢性の痛みがある方は、十分医師と相談して、最善の治療を決めてゆく必要があります。
そのため、やはり専門家の診療を受けることが良いと考えられるでしょう。
がんではない場合の慢性の痛みは、ペインクリニックの医師や一部の緩和ケア医が、がんの場合の慢性の痛みは緩和ケア医が、それぞれの専門家になります。
あの薬剤もだめ、この薬剤もだめとなる前に、専門的なアセスメント(医学的な判断)を受けて、よく理解した上で治療に積極的に参画することが、慢性の痛み治療において大切なことです。
少しでも多くの方が痛みから解放されてほしいと思いますが、このようにリリカは万能薬ではなく、効かないこともわりとあることなので、そうであっても悲観せずに、良い治療を受けてほしいと考えます。