(末期の話なので、体調が良くない方や、不安が強い状況の方は、無理に閲覧しないほうが良いでしょう。※腫瘍を罹患されている方に限りません)
私は緩和ケア医をしており、がんの患者さんなどの症状緩和の専門家で、進行膵臓がんや末期膵臓がんの患者さんの多数の診療経験があります。その経験と知識から、膵臓がんの末期の症状や様態について詳しく解説します。
膵臓癌の末期はどうなるのか? 最後の症状は何か? ・・・その前に
興味深い事実があります。
ここは早期緩和ケアクリニックのホームページです。
けれども、皆さんによく読まれているのは、末期に寄った緩和ケアの記事です。
まだまだ緩和ケアは末期のイメージなのだなとそこからも感じます。
診断時からすぐに緩和ケアを始める群と、3ヶ月後に開始する群とを比較すると、前者で1年生存率が良かったという研究があるくらい、早め早めから緩和ケアを開始するのが明らかになっているのに、です。
参考;診断時からの早期緩和ケア定期受診で1年生存率が向上する【遠隔相談で】
もちろん末期の対応も大切なことに異論はありませんが、早期からの緩和ケア、進行がんと診断された時からの緩和ケアが大切なのです。
膵臓癌の末期はどうなるのか? 最期の症状は何か?
どのがんでも、最後は身の置き所のない様態を取られます。
ただもちろん個人差も大きいことなので、それらがあまり強くない場合もあれば、身の置き所のなさが強く持続する場合もあります。
この様子は苦しそうで、「痛いですか?」と尋ねると頷かれることも多かったので、かつては倦怠感(だるさ)や痛みと捉えられることが多かったです。
最近の考え方では、不良な全身状態が脳に影響しての意識変容・意識混濁であるせん妄状態であるケースが多く存在することが知られています。だるさや痛みというよりもせん妄からの苦しさなのですね。
もちろんその他の苦痛の存在も十分想定して、意識を低下させない苦痛緩和策を十分図りますが、こと余命数日内の身の置き所のなさはそのような苦痛緩和策を十分に講じても難しい場合もよくあり、その際は意識を低下させて苦痛緩和する(注;安楽死とは別物の)鎮静という治療を行う必要性があります。
膵臓がんでも終末期のせん妄が十分出現しうるので、上記のような対策を行います。
悪液質、難治性の疼痛や通過障害が問題になることも
さて、そのように余命数日だと、身の置き所がない様子の苦しみが出現することをお伝えしましたが、その前も膵臓がんによる様々な苦痛症状が出る可能性があります。
悪液質という代謝障害(栄養の利用障害の合併)はよく起こり、やせが非常に進みます。これは十分に栄養補給を行っても、太い血管から高濃度の点滴(高カロリー輸液)を入れても同様です。
栄養が利用できないので、やせてしまいます。
これに伴い、立ち居振る舞いの障害が起こり、歩いたり、トイレに行ったりが困難になります。
これは膵臓がんに限らず多くのがんの高度進行期に起こりうる病態です。
他にも、大動脈周囲の神経叢(しんけいそう。神経が網目状になっている部分)に進展することでの難治性の神経の痛み(神経障害性疼痛)に悩まされる患者さんもいます。
また腫瘍が大きくなると、原発の場所にもよりますが、十二指腸や胃に浸潤する場合もあり、消化管の通過障害も発生しえます。
それで悪心や嘔吐になるケースがあります。
これらもなかなか手ごわい症状です。
膵臓がんに限りませんが、最終末期や高度進行期の苦痛症状はしばしば容易ではないものです。
熟練の緩和ケア医にとっても試される状況ですが、専門家が入っているのとないのとではやはり違うと考えます。
膵臓がんも、全がん共通の身の置き所のない様態、せん妄や、だるさ、立ち居振る舞いの障害の他に、難治性の痛みや通過障害が問題になりえ、十分な緩和ケア介入が必要ながん種であると考えます。
くれぐれも、最後になって緩和ケアをと依頼するのではなく、もっと早くから声をあげて頂くのが良いでしょう。