肺がん末期の症状と、どうすれば苦痛が少なく穏やかに元気で長生きできるのかを、緩和ケア医として多数の肺がんの患者さん(早期、進行、末期を問わず)診療してきた緩和医療専門医の私が解説します。
肺がん末期の苦痛症状の特性
どのようながんであっても、共通して様々な苦痛症状は出ます。
倦怠感はあらゆるがんに共通です。
食欲不振も起こるでしょう。
便秘も様々な原因から、かなりの頻度で起こります。
立ち居振る舞いの障害も、ほとんど必発するでしょう。
すべてを良くすることは難しく、つらいことですが、ある程度のことは人の最後の必定だと受け止めてゆく必要があります。
ただし、高度の苦しさからはできるだけ逃れたい、それは人間として当たり前の思いだと思います。
そしてそれを可能にするのは紛れもなく緩和ケアです。
しかし、最後の数日だけ緩和ケアを行うというのは、いかにも力不足です。
それなのに、そのような段階で初めて緩和ケアとつながる事例がまだ多くあることを、誰もが重く受け止める必要があります。
肺がんの末期が比較的入院が長いわけ
肺がんの末期は様々な苦痛が出現するがんです。
他のがんと同様に、痛みも問題になりますが、肺がんに頻度が高い問題もあります。
それはやはり侵される臓器である、肺の問題でしょう。
肺がんの最後の入院は比較的長いことが知られています。
例えば、 日本赤十字社医療センターの病院指標の緩和ケア科のところを見ても、肺がんが他腫瘍より入院期間が長いことがわかります。
それらは下記の病態が原因となりえます。
◎骨へしばしば転移するため、激烈な骨転移痛が問題となる
◎脳へしばしば転移するため、痙攣等の精神神経症状も問題となる
◎肺自体の病変や、気管の狭窄症状などで、高度の呼吸困難や咳が問題となる
これらの問題があるため、肺がんの高度進行期は手厚い緩和ケアが提供される必要があります。
治療の進歩が招いている誤った緩和ケア認識
肺がんは、実は他のがんと比べれば、最近は相対的には治療薬が多い腫瘍です。
罹患者が多いこともあり、次々に新しい薬剤が投入されています。
そのこともあるのか、治療時期が比較的遅くまでずれ込みます。
本来それとは関係なく、緩和ケアは早期から受けるべきです。
けれども、治療と緩和ケアが結びついていないという誤認識はまだまだ広く社会に存在しています。
医療者ですらそうです。
したがって、ぎりぎりまで治療をするということは、ぎりぎりまで緩和ケアを受けないという大変誤った状況を作り出してしまいます。
そして、これだけの苦痛症状を来す可能性のある肺がんに対する、症状緩和が圧倒的に不足しがちです。
さらには、先述したような、最後の最後に緩和ケアに紹介される、あるいはその段になってやっと依頼を希望する……ということが散見されるのも肺がんです。
痛み、脳転移の諸症状、息苦しさ、咳
どのがんも、最後は鎮静が必要になる可能性があります。
鎮静に関しては、下記をご覧ください。実際に患っておられる方やそのご家族は絶対に見るべきです。
年間100万人以上が直面する問題「苦痛緩和のための鎮静」紹介動画
末期肺がんは、しばしば高度の息苦しさを招来します。
最終末期においては、鎮静しか症状緩和できないケースもあります。
骨転移の痛みも、医療用麻薬を駆使して緩和する必要があります。
脳転移やがん性髄膜炎からの諸症状に関しても、ステロイドを活用したり、痙攣に対しては抗痙攣薬を適切に使う必要があります。
かなり広範な専門的知識が、十分な緩和ケアの提供のためには必要となります。
もちろん、ひと口に肺がんと言っても、最終末期の苦痛は千差万別です。
ただ概して、相当な苦痛が出うる、それも呼吸困難という苦痛症状の中でも厄介なものが出現する可能性が相応にある腫瘍なので、緩和ケアができる医師とつながるのは必須と言えましょうし、その感覚が希薄だと運任せになってしまいます。
肺がんは早期から緩和ケア。末期になる前に緩和ケアを受けるのはほぼ必須、と思っていただけると良いでしょう。
少しでも参考になれば幸いです。