ロキソニンが効かない時、どうする?
ロキソニン(一般名ロキソプロフェン)が効かない時、何を考え、どうすべきかを解説します。
実はロキソニンが効かないことは珍しくありません。
それはロキソニンが効きにくい痛みに使用しているためです。
どのような痛みに効きづらいのか、これから解説していきます。
なお、皆さんは痛み止めの専門家は、どの医師だかわかりますか?
痛み全般に関しては、ペインクリニックの医師が秀でていますが、ペインクリニックは麻酔科的処置(神経ブロックなど)を得意としています。
私のような緩和ケア医は(麻酔科だったら神経ブロックもできる場合もありますが)、主として薬で痛みの治療に当たります。
そう、緩和ケア医が痛み止め薬の専門家なのです。
私も多数のロキソニン処方歴があり、もちろん使用歴もあります。
その立場から解説します。
ロキソニンは良い薬剤
ロキソニンは良い薬剤ですね。
下記でも、カロナール(一般名アセトアミノフェン)との比較を紹介しましたが、
濃度が最大になる(一番効く時間帯)は
0.45±0.03(時間)
は30分程度と早いです。
そして血中濃度が半分になる時間は
ロキソニン 1.22±0.07(時間)
と1時間半に満たずに濃度が下がります(効果自体はもっと長く体感されることが多いです)。
速やかに効いて、あまり残らないのですね。
そのため、頭痛等で用いている方もいるでしょう。
このロキソニン、体のどこにどう効いているのでしょうか?
ロキソニンの作用
ロキソニンはNSAIDs(エヌセイズと呼びます。非ステロイド性抗炎症薬)に属します。
炎症を和らげる作用があります。
感染や外傷を起こすと、私たちの体は炎症を起こします。
炎症を起こす物質の発生を妨げる作用があるため、抗炎症作用・解熱・鎮痛作用があります。
ただ基本的には、痛みの伝達を和らげたり、脳へ移行しての強い作用があるわけではないので、限界もあります。
それは次のような病態の場合です。
ロキソニンが効かない痛み一覧
一般には、ロキソニンは効き方の立ち上がりが早いため、すっきり効く感じがあり、愛用している方もおられるでしょう。
しかしロキソニンが効かない痛み・効きづらい痛みもあります。
しばしばそれらの痛みに遭遇する場合が、皆さんもあるでしょう。
① 尿管結石の痛み
いわゆる「石」です。
尿管に結石がはまることで、激痛になります。
いくつかの痛みのメカニズムが合併しているとされていますが、尿管の攣縮(れんしゅく)が原因の1つとされています。
とにかく痛いので、ペンタゾシン(商品名ソセゴン)等まで使用する必要が生じることも多いです。
なお尿管結石の生涯罹患率は男性15%で、女性7%。男性は7人に1人、女性は15人に1人がかかるという病気なので、皆さんも(当然私も)この痛みは他人事ではありません。
② 胃痛
胃粘膜に関してはロキソニンはむしろよろしくありません。
胃酸から胃を守る防御物質の産生を抑えてしまうのです。
胃粘膜障害や胃潰瘍・十二指腸潰瘍の痛みは悪くしてしまう可能性があります。
③ 腸が動いての腹痛(最たるものは腸閉塞の痛み)
腸が激しく動いての痛み(腸蠕動痛。ちょうぜんどうつう)に対しては、ロキソニンは効果がないです。
腸閉塞の激しい痛みにはほとんどの場合、ロキソニンは無効です。
④ 片頭痛
しばしば緊張型頭痛を片頭痛や偏頭痛と呼んでいらっしゃる一般の方もいるようです。
医学的には片頭痛というのは、こういう頭痛だというのが定まっています。
片頭痛は、ズキズキと脈打つ感じの頭痛が繰り返し起こるものです。拍動性の頭痛とも呼ばれます。
また片頭痛には、前兆のないものとあるものが存在します。前兆があるものは、閃輝暗点(せんきあんてん)というギザギザした光が出る症状等が知られています。
前兆のない片頭痛は、ズキズキとする頭痛が数時間から3日間ほど持続するという特徴があります。
片頭痛はこれらの頭痛を繰り返すのが特徴です。
この(一般の方が頭痛でいう片頭痛ではなく)本当の診断が付いている片頭痛は、ロキソニンが効かないことも多くあります。
下の記事でも紹介したように、トリプタンやエルゴタミン製剤が治療薬となります。
⑤ 神経の痛み
専門用語では神経障害性疼痛と呼ばれる、神経の損傷等で引き起こされる、神経が関連している痛みです。
糖尿病性神経障害に伴う疼痛や帯状疱疹の後の神経痛、肋間神経痛や後頭神経痛など、人の痛みには様々な神経痛があります。
これらの神経の痛みに関しても、ロキソニンはよく効くとは言い難いです。
なお、がんも神経を巻き込むと神経痛を起こしますが、この神経痛も同様にロキソニンはあまり効きません。
⑤ がんの痛み
がんの痛みは、ある程度はロキソニンが有効です。
そして他の鎮痛薬とロキソニンを併せて飲むと、より良いケースは本当にたくさんあります。
一方で、がんの痛みは、ロキソニン「単独」で抑えられないことは、けっして珍しいことではありません。
あらゆるがんの痛みをロキソニンだけで済まそうとするのは妥当な治療方針ではないのです。
がんの痛みの場合は、必要ならば(ロキソニン等だけで緩和が難しければ)躊躇なく、医療用麻薬を用いたほうが良いでしょう。
なお、念のため記しておきますが、「ロキソニンが効かない」→がんの痛みではないか? と心配するのも、心配しすぎです。
上に書いてきたように、ロキソニンが効かない痛みも多々あるため、「ロキソニンが効かない、すわ一大事!」というのもやや大げさかもしれません。
大事なことは「診断」です。医学的なアセスメントとも言います。
診断に合った薬を使えば効きますし、診断に合った薬を使わなければ効きません。
緩和ケア医も含まれる痛みの専門家にかかるのも、しっかりとした「診断」を受けるためです。
書いてきたように、ロキソニンがそもそも効かないあるいは効きづらい病態にロキソニンを用いても、それは効きません。
それなので病態の見極めが重要になるのです。
ロキソニンが効かない場合は、痛みの専門家(臨床医)にそれを相談しましょう。
ロキソニン、こういう人は使っちゃダメ
一般的に言えば、ロキソニンは良い薬です。
けれども使ってはいけない人や注意するべき人はいます。
有名なのは下記です。
× 一定水準以上の腎臓の機能障害がある人
× 胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある人
× そもそも鎮痛薬が原因で起こっている痛み(下記参照)
これらの使ってはいけない人は、ロキソニンだけでなくNSAIDs全般を避けたほうが良いです。
腎機能障害がある人がロキソニンを使うことで、腎機能が悪化する可能性があります。
またロキソニンは胃粘膜障害を起こす可能性がありますが、胃の様々な疾患に関連するヘリコバクター・ピロリ菌を保菌していると、潰瘍のリスクはさらに高くなるので注意が必要です。
これらの病態に当てはまらない方でも、粘膜障害を軽減するため、ロキソニンの使用は空腹時を避けることが大切です。
ロキソニンと痛みのまとめ
ロキソニンは良い薬剤ですが、述べて来たように、効かないあるいは効きづらい痛みも少なくありません。下記のような痛みです。
・ 尿管結石の痛み
・ 胃痛
・ 腸が動いての腹痛(最たるものは腸閉塞の痛み)
・ 片頭痛
・ 神経の痛み(糖尿病性神経障害・帯状疱疹後神経痛・肋間神経痛・後頭神経痛など)
・ がんの痛み
ロキソニンが効かないからと言って、がんの痛みとは言えないです。
心配しすぎる必要はありませんが、続くようならば、緩和ケア医やペインクリニックの医師などの痛みの専門家に相談すると良いでしょう。
ロキソニンは使ってはいけない状態があるので、注意が必要です。
腎臓や胃腸が悪いと言われたことがある方は、医師と相談するのが良いでしょう。
一方で、それらに該当せず、また空腹時投与やみだりに使うことを避けるならば、ロキソニンは頼りになる鎮痛薬であることは間違いありません。