サインバルタを知っていますか?
皆さんはサインバルタ(一般名デュロキセチン)をご存知でしょうか?
サインバルタの内服を勧められている方もおられるかもしれません。
本記事では、サインバルタってぶっちゃけどうかを専門医が解説します。
サインバルタは抗うつ薬、ですが他の適応があります
サインバルタは、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という種類に属する抗うつ薬です。
ただし、おそらくここをご覧の皆さんは、サインバルタが痛みに効くかということでお読みになっているでしょう。
そう、サインバルタは痛みに効くのですね。
うつ病・うつ状態という適応症の他に、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」「線維筋痛症に伴う疼痛」「慢性腰痛症に伴う疼痛」「変形性関節症に伴う疼痛」があります。
サインバルタには20mgと30mgのカプセルが出されており、医師の処方で出される処方薬です。
20mgは148.5円で、30mgは201.4円です。保険適用なので、その値段の自己負担割合分がかかります。
1日1回朝食後の薬剤です。
糖尿病性神経障害に伴う疼痛(とうつ病・うつ状態)の時は、1日20mgより開始、基本は1日40mg、最大1日60mg。
線維筋痛症に伴う疼痛や慢性腰痛症に伴う疼痛、変形性関節症に伴う疼痛の時は、1日20mgより開始、基本は1日60mgです。
ただしいずれの場合も、「1週間以上の間隔を空けて1日用量として20mgずつ増量する」とありますので、どかんと多い量から開始したり、ぐんぐん増量したりしてはいけません。
副作用は、傾眠(20.9%)、悪心(16.8%)、便秘(9.7%)、めまい(8.3%)、倦怠感(6.7%)、口渇(6.1%)、頭痛(5.7%)などです<()内の数字は糖尿病性神経障害に使用時>。
サインバルタはなんで痛みに効くの?
よくある勘違いは、うつが改善して、痛みが緩和される、というものです。
実際には、下行性疼痛抑制系という神経系を賦活して、痛みを和らげるとされています。
下行性疼痛抑制系とは、脳から脊髄まで張り巡らされている神経系で、痛みを和らげる働きがあります。私たちはその神経系を元々持っています。
ところが慢性的な痛みがある場合は、下行性疼痛抑制系の機能が低下していたり、あるいは様々なメカニズムで痛みを増幅するように中枢神経系が変化していたりする場合もあります。
そこで、この痛みを和らげる神経系を活性化させるサインバルタの出番となります。
なお、同じSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に属するトレドミンやイフェクサーも同様の作用を示す可能性がありますが、2019年現在日本で痛みに保険適応があるのはサインバルタのみです。
抗がん剤の末梢神経障害(しびれや痛み)への効果
抗がん剤治療による末梢神経障害に関しては、保険適用にはなっていません。
けれども医学的には適応される症状であるので、しばしば用いられています。
2019年現在、日本でも一つの研究があります。
上の論文(英語)は下記に日本語でのまとめ(慶應大学の抄読会で用いられたもの)があり、内容が確認できます。
http://www.keio-palliative-care-team.org/medical/medical/read/2016/pdf/0420.pdf
パクリタキセル、オキサリプラチン、ボルテゾミブ、ビンクリスチンでの末梢神経障害に対しての効果を確認するため、サインバルタ40mg/日(開始は20mg)が使用されています。
症状がないのを0、症状が最大限強いのを10とすると、サインバルタ開始後4週でしびれと痛みともにおおよそ2/10程度の減少は認めたとのことです。
海外での類似する研究があります。
こちらだとサインバルタ60mgの5週間(開始は30mg)でプラセボと比較して0.73/10程度の減少を報告されています。
もちろん統計としては、意味のある差が出ていますが、後者の研究は1/10に満たない変化量なので、はたして「効いた!」という実感が得られるほどかは……?
がんの神経障害による痛みへの効果
抗がん剤治療からではなく、がんからでも神経障害からの痛み(神経障害性疼痛)を起こします。
はたしてがんからの神経障害性の痛みに効くのか?
その問いに答えようとする研究が日本で行われています。
医療用麻薬(正確にはオピオイド)やガバペンチン類(ガバペンやリリカ等)が無効な神経障害性疼痛への研究です。
2019年5月現在、結果が発表されるのを待っている状態ですが、がんからの神経障害性の痛みにサインバルタが効くのかが確かめられる貴重な研究になるでしょう。
他の鎮痛薬と比較するとどうか?
複数の研究の結果を統合したメタアナリシスの結果があります。
Pharmacotherapy for neuropathic pain in adults: a systematic review and meta-analysis.
何例使用すれば、1例の効果を得ることができるかという指標のNNTは、
サインバルタは6.4(5.2〜8.4)<()内は95%CI。以下同>
リリカは7.7(6.5〜9.4)
ガバペンチン7.2(5.9〜9.21)でした。
NNTは小さいほど、効果を得られやすいということになります。
値を見ると、サインバルタは確かに6.4ですが、リリカ等とも1前後の違いです。
突出した効果の印象はここからは感じられませんね。
なおその他の相違点に関しては下記でも書いています。
糖尿病性末梢神経障害による痛みまたは線維筋痛症、変形性膝関節症
Duloxetine for treating painful neuropathy, chronic pain or fibromyalgia.
様々な研究をまとめて解析して科学的根拠の高い知見を誰にも利用できるようにしているコクランライブラリーに、サインバルタの糖尿病性末梢神経障害による痛みと線維筋痛症についても掲載されています。
50%以上の痛みの軽減が得られる、最小治療数は、
糖尿病性末梢神経障害による痛みの場合は5
線維筋痛症による痛みの場合は8
とされています。
副作用で中止した人は16%とも記載されています。
また、変形性膝関節症の痛みに関してもいくつか研究があります。
プラセボと比較した際に、前者では(0-10のうちで痛みを表現した際に)-0.88、日本における後者の研究では(0-10のうちで痛みを表現した際に)−0.77の変化(減少)を認めたとのことです。
まとめと一専門家としての感想
私はがんの神経の痛みで時にサインバルタを処方することがありますが、効くケースは効くし、効かないケースは効かないとしか言いようがありません。
ただ、きれいさっぱり痛みがなくなりました、というケースは多くなく、これまでに挙げた研究での変化量とある程度印象も合致しています。期待が大きすぎると、ちょっと裏切られるかもしれませんね。
また副作用に関しても、やや不快感を伴うものが多く、合わない方には合わないです。
事前の予測はできないので、痛みを罹患されている方へのアドバイスとしては、(適応があれば)処方を受けてみて、そして可能ならばしばらく継続して、効果を確かめるのが良いでしょうね。
前掲の研究(Effect of duloxetine in Japanese patients with chemotherapy-induced peripheral neuropathy: a pilot randomized trial.)でも数週かけて痛みが減っていますし、その他の研究も数週間で見て効果を確認しています。
一方、うつに関して言えば、がんの患者さんの抗うつ剤としては、他に優先する薬剤があるかとは考えます。
ただし、痛み+うつの疑い、というケースに関しては、双方に効く可能性があるため、比較的優先されるのではないかと思います。
なお、サインバルタは急に中断すると、不安、焦燥、めまい、頭痛や筋痛、悪心等の中断後症状があらわれる可能性があるため、やはり痛み及び同薬の治療に慣れている「痛みの専門家」への相談が良いと考えます。