セレコックスを知っていますか?
ここをご覧の皆さんは、
◯セレコックスを自分か家族に処方されて気になっているか
◯セレコックスの痛み止め以外の効果が気になるか
のいずれかの方も多いと思います。
その疑問にお答えします。
セレコックスは鎮痛薬です。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬。エヌセイズと呼びます)に含まれます。
大きなくくりで言えば、ロキソニンや頭痛のイブと同様です。
しかしロキソニンやイブとは違った特徴があります。
それはCOX-2選択的阻害薬であるということです。
COX-2選択的阻害薬とは?
COXとはシクロオキシゲナーゼです。
シクロオキシゲナーゼによって、炎症を起こす物質が産生されます。
COXには1と2があり、以前のNSAIDs(ロキソニン等)は1も2も妨げる特徴を持っていました。
ところが、COX-1のほうは、消化管や腎臓の維持に働いています。
それなので、必要なCOX-1は邪魔せず、炎症に関連するCOX-2だけ邪魔すれば良い……ということが考えられ、そのために生まれたのがCOX-2選択的阻害薬です。
というわけで、めでたしめでたし……とならないのが薬剤開発です。
確かに、COX-2選択的阻害薬は、胃腸障害は少なめです。が、ならないわけではありません。
腎臓に関しては、COX-2もあるので、腎障害の発生頻度は変わりませんでした。
そしてむしろ問題になってしまったこともあります。
COX-1は血小板凝集を来たしますが、COX-2のほうを中心に邪魔するため、血栓のリスクを上げて心血管系の合併症を発現させる危惧があるのです。
そのため、緩和ケアの海外の有名な本(トワイクロス先生の緩和ケア処方薬。初版)では、COX-2選択的阻害薬はがんの痛みには推奨されないと記してあります。
ただ、私が気になっている点は他にもあります。
COX-2選択的阻害薬はどうも体感できる鎮痛効果が……
私が気になっているのは、どうもCOX-2選択的阻害薬は体感できる「鎮痛効果」が今一つのことも多いのです。
その証左に、セレコックスからロキソニンやボルタレン(※ただしボルタレンはややCOX-2選択的阻害薬寄りの性質を持っています)に切り替えると、鎮痛が進むことがしばしばあるためです。
痛み止めは、鎮痛効果が一丁目一番地です。
それなのでどうしても評価が辛くなってしまいます。
一方で、胃腸障害が少ないのは利点ですから、胃粘膜障害を起こしやすい患者さんや、絶対に胃腸障害を起こしたくない患者さんにはCOX-2選択的阻害薬が向いているのは確かです。
誰にとってもこの薬が向いているという絶対的な法則はなく、セレコックスが有用な患者さんも多くいるでしょう。
そんなセレコックスですが、痛み止め以外の領域でにわかに注目を浴びました。
悪液質の慢性炎症の緩和薬としてのセレコックス
高度進行がんの患者さんは高率に悪液質(あくえきしつ)を発症し、代謝異常からのやせや消耗の原因になります。
悪液質はがんが惹起する炎症等により、これらの消耗が進行します。単なる「食べていないから痩せる」ということではなく、栄養を利用できなくなっているのが悪液質です。
それならば「抗炎症薬を続ければ、悪液質の進展が抑制できるのではないか?」という仮説が成り立ちます。
そこで白羽の矢が立ったのが、胃腸障害の副作用が少なめのセレコックスでした。
ただ、多剤併用療法の一部としてのセレコックスが悪液質の諸症状を緩和することは示唆されたものの(A randomized phase III clinical trial of a combined treatment for cachexia in patients with gynecological cancers: evaluating the impact on metabolic and inflammatory profiles and quality of life.)、黄体ホルモン類似薬にセレコックスのあるなしで比較した研究では特にセレコックスがあっても改善効果は認めませんでした(Randomized double-blind clinical trial of combined treatment with megestrol acetate plus celecoxib versus megestrol acetate alone in cachexia-anorexia syndrome induced by GI cancers.)。
なかなかセレコックスだけでは、悪液質の強力なメカニズムを抑制できないのが現実だと思われます。
まとめ
セレコックスも痛み止めとしては有益な薬剤です。
胃腸障害を起こさないわけではないので、対策は必要です。
悪液質に関しては単独では力不足です。
セレコックスを飲んでも痛みが続くようならば、担当医と相談しましょう。
あるいは緩和ケア医と相談しても良いでしょう。痛みを緩和するには他にも様々な方法はあります。