乳がん末期の症状と、どうすれば苦痛が少なく穏やかに元気で長生きできるのかを解説します。
乳がん末期の苦痛症状の特性
どのようながんであっても、共通して様々な苦痛症状は出ます。
倦怠感はあらゆるがんに共通です。乳がんも例外ではありません。
食欲不振も起こるでしょう。
便秘も様々な原因から、かなりの頻度で起こります。
立ち居振る舞いの障害も、ほとんど必発します。
すべてを良くすることは難しく、つらいことですが、ある程度のことは人の最後の必定だと受け止めてゆく必要があります。
ただし、高度の苦しさからはできるだけ逃れたい、それは人間として当たり前の思いだと思います。
そしてそれを可能にするのは紛れもなく緩和ケアです。
しかし、最後の数日だけ緩和ケアを行うというのは力不足です。
それなのに、そのような段階で初めて緩和ケアとつながる事例がまだ多くあることを、誰もが重く受け止める必要があります。
乳がんそのものでは最期とならない
もちろん重要な器官ではありますが、乳腺自体は肝臓や腎臓と異なり、重度の障害が死に直結するわけではありません。
すなわち乳腺にあるがん自体で死に至るわけではありません。
皆さんもご存知のように、転移が生命に影響します。
骨への転移は、乳がんにおいてもしばしば起こり、強い疼痛から生活の質に影響することがあります。
十分な緩和ケアが必要です。
もちろん抗がん剤などのがん治療が効いているうちは、症状も抑えられるのが通例です。
抗がん剤の奏効が悪い時期になると、症状も一般的に強くなりますので、積極的な症状緩和策が必要です。
最期に至りうる乳がん末期の病変とは
次の病変は、最後の病態となりえます。
◎肺の癌性リンパ管症や難治性胸水で呼吸不全となる
◎脳へ転移し、脳転移やがん性髄膜炎となる
◎肝転移が著明に進行し、肝不全となる
ただ、注意しなければいけないのは、肺や肝臓でも、あくまで著明に進行した場合である、ということです。
乳がんの例では、「肺転移や肝転移が複数ある」程度の場合は、特にまだ治療法が残されているような際は、まだまだ死を強く意識する必要はありません。
これらは相当進行した場合なので、肺転移や肝転移があるから末期と考えるのは早計ですし、現在すでにそれらが指摘されている方も諦める必要はありません。
あくまでごく高度に進行した場合なので、わけて考えましょう。
治療の進歩が招いている誤った緩和ケア認識
乳がんは、実は他のがんと比べれば、最近は相対的には治療薬が多い腫瘍です。
罹患者が多いこともあり、次々に新しい薬剤が投入されています。
そのこともあり、治療時期が比較的遅くまでずれ込みます。
本来それとは関係なく、緩和ケアは早期から受けるべきです。
けれども、治療と緩和ケアが結びついていないという誤認識はまだまだ広く社会に存在しています。
医療者ですらそうです。
したがって、ぎりぎりまで治療をするということは、ぎりぎりまで緩和ケアを受けないという大変誤った状況を作り出してしまいます。
一般的には長期生存が期待できる腫瘍であるからこそ、その期間を乗り越えるために早期緩和ケアの併用が肝要となります。
乳がんは悪液質の頻度が低い
乳がんは悪液質の頻度が他のがんほど高くないため、がんの終末期で悪液質を合併している方に特有の極度のるいそうは少ない印象があります。
一方で、最終末期になると、先述したような諸病態からの高度な苦痛症状や、せん妄等からの身の置き所がない様態が出現する可能性があります。
乳がんも、最後は鎮静が必要になる可能性があるのは例外的ではありません。
鎮静に関しては、下記をご覧ください。
年間100万人以上が直面する問題「苦痛緩和のための鎮静」紹介動画
肺の病変は高度の息苦しさや難治性の咳を招来します。
脳転移やがん性髄膜炎からの諸症状に関しても、ステロイドを活用したり、痙攣に対しては抗痙攣薬を適切に使う必要があります。
肝転移はごく高度になるまでは顕著な症状を欠きます。逆に高度の肝不全で死期が迫った場合は、倦怠感や身の置き所がない様態が強くなるので、鎮静なども検討せねばなりません。
このように、かなり広範な専門的知識が、十分な緩和ケアの提供のためには必要となります。
もちろん、ひと口に乳がんと言っても、最終末期の苦痛は千差万別です。
ただ、いざとなってから緩和ケアを求めるのは、運次第のギャンブルとなります。
乳がんも早期から緩和ケア。末期になる前に緩和ケアを受けるのが大切、と思っていただけると良いでしょう。
少しでも参考になれば幸いです。