乳がんに限らず皮膚浸潤・転移が出ると生じるにおい
乳がんに限らず、皮膚浸潤や転移、腫瘍の皮膚への露出があると、特有の臭気が出現しえます。
なぜそのような臭いが出るのでしょうか?
基本的に、嫌気性菌による感染と、腫瘍組織の壊死によって発生する物質が関係していると言われています。
がんによって起こっている潰瘍の深部の感染巣で、嫌気性菌は揮発性の短鎖脂肪酸を発生させ、それが特有の臭気の原因になっているとされているのです。
乳がん、頭頸部がん、舌がん、歯肉がん等が皮膚への進展を来す代表的な腫瘍ですが、他の腫瘍も皮膚転移は起こすことがあり、多くの腫瘍において起きる可能性がある病態です。
乳がんに関しては、転移性の乳がんの実に30%が起こすという見解(★★★皮膚転移の実際の画像があるのでクリック注意★★★)もあり、珍しいことではありません。
上の文献はアメリカのものですが、5%5-FU軟膏やイミキモドクリーム(日本では適応外)などが使用されています。
皮膚転移のにおいの他の症状は
皮膚転移はにおいの他にも厄介な症状を起こします。
それは痛みと出血です。
痛みに関しては、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)等や、医療用麻薬を用いて緩和します。アセトアミノフェン(カロナール)の単独では症状緩和は一般に難しいことも多いです。
出血も、においと同様にしばしば緩和に難渋する症状です。
においと同様の一部対策薬が有効であったり、意外に知られていないのですが、放射線治療も出血の制御に有効です。
ざっくりいうと、痛みの制御に関しては痛み止め等の鎮痛薬、においは局所感染症治療薬や腫瘍治療薬、出血は腫瘍治療薬や放射線治療などがそれぞれ効果を示します。
皮膚転移のにおいの対策は? ロゼックスゲル
皮膚転移のにおい対策には、販売されている薬剤ではあまり良いものがなく、病院の院内で調剤した外用の薬剤が使われていました。
2015年に、嫌気性菌に効果がある抗生剤のメトロニダソールの外用剤であるロゼックスゲルが発売されました。
ただ101.1円/gと高い値段の問題があるので、採用されている病院とそうではない病院があるようです。
保険適応症は「がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減」と広いので、その点は良いです。
保険適応症の範囲が狭いと、使用できる病気が限られてしまうからです。
においに関しては、上記のメトロニダソール外用剤を使用すれば良いのですが、あくまで対症的な方法ではあります。
そして出血等の他の病態には無効です。
それなので別の方法を行っている施設もあります。
モーズ軟膏(Mohsペースト)で治療する
モーズ軟膏(Mohsペースト)という外用剤を院内で調整して、治療にあたっている病院があります。
モーズ軟膏は塩化亜鉛+亜鉛華でんぷん+グリセリン+蒸留水の製剤です。
塩化亜鉛がタンパク質を変性させるので、これを外用することにより皮膚腫瘍を変性壊死させ、さらに壊死した組織を固定乾燥させ、それを除去(デブリードメント)することにより露出した腫瘍のボリュームを減らすことも可能であり、臭気にも有効です。
日本でも論文がいくつも出ています(★★★いずれの文献も皮膚転移の実際の画像があるのでクリック注意★★★)。
緩和ケア領域における Mohs ペーストの有用性―出血のコントロールの観点から―
外来通院下でMohsペーストを用いてchemosurgeryを行った末期下顎歯肉癌の1例※
モーズ軟膏の良いところは、腫瘍自体の量を減らしたり、出血を抑制したりすることが期待できるところです。
一方で、局所の刺激性はそれなりにありますし、太い血管の近くに腫瘍がある場合等には合併症のリスクがあるため(特に文献※に詳しいです)、適応には慎重さが必要です。
このモーズ軟膏も、皮膚浸潤・皮膚転移からの臭いを緩和できる可能性があります。
まとめ
皮膚浸潤・転移を伴う乳癌末期・進行乳がんの臭いと対策の局所治療について解説しました。
これは他のがんの皮膚浸潤・皮膚転移でも行える方法です。ただ施設ごとにできるできないはありますので、その点は注意が必要でしょう。
もちろん、局所治療以外でも、がんそのものに対する治療や放射線治療も腫瘍縮小や症状緩和に働きます。
様々な方法の優先順位を考えながら試行することが大切であり、また皮膚病変の緩和がしばしば容易ではないことを考えると、かかりつけ医療機関の緩和ケアの専門家への相談が望ましいでしょう。