がんの脳転移がわかった場合に知っておくことをまとめました
転移という言葉は、今も重い響きを持っています。
しかも脳転移というと、「脳」という重要な場所の転移ですから、より重みがのしかかってくるかもしれません。
一方で、血液が多く通過する脳もまた、転移の場所としてはよくある部位でもあります。
脳転移の難しい点は、除去すれば良いとばかりも言えないことです。
人間が人間として活動する上で重要な部分ですから、治療で重大な障害を出すわけにはいきません。必要な部位まで除去してしまえば、重大な障害や死に至らないとも言えません。
それなので、治療にもそれなりの配慮が必要です。
一般には脳転移はなかなか楽観視を許さないところがあるのは事実です。けれども脳転移においても長期に生存される例が出てきており、行える治療はしっかりと行うことが大切です。
脳転移は原発性脳腫瘍ではない
他の記事でも解説したことがあります。
脳転移は、転移性脳腫瘍という呼び方をすることがあります。
それなので、「脳腫瘍にもなってしまいました」と仰る患者さんもいます。
けれども、脳転移はいわゆる原発性脳腫瘍ではありません。
最近は脳転移にも奏効する薬剤があるため、元々のがんへの治療(のうちの脳にも移行性が良い治療)が脳転移にも有効というケースがあります。
●乳がん・・・ラパチニブとカペシタビンの併用療法。アベマシクリブ(参考文献。英語)。
●非小細胞肺がん・・・シスプラチンとペメトレキセドの併用療法。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のゲフィチニブやエルロチニブ、アファチニブなど。クリゾチニブやアレクチニブなどのALK阻害薬。ベバシズマブ(血管内皮細胞増殖因子<VEGF>阻害薬)。
●腎がん・・・スニチニブやソラフェニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬。
なお、もう一点説明すると、「頭蓋骨転移」で、「脳に転移してしまって……」と仰る方がいますが、頭蓋骨転移は脳転移ではありません。あくまで骨の転移ですから、その点には注意が必要です。治療も異なります。
脳への転移は進行すると症状を出す
脳への転移も多少ならば症状を来たしません。
けれどもある程度進行すると、様々な症状が出ます。
運動神経に影響する部位に転移が進展すると、麻痺等の症状が出現します。
小脳などに転移が進展すると、難治性のめまいやふらつきが出ます。
厄介なのは、これらの症状は、ステロイド以外にはそれほど緩和薬がないということです。
そのため、脳に転移した腫瘍自体を除去あるいは縮小するような治療が適しています。
転移の数や病気の進み具合など様々な要素から、最適な治療が決定されますが、手術や放射線治療などが行われます。
放射線治療もガンマナイフやサイバーナイフ、全脳照射など様々な方法があり、専門家によって好適な治療が提案されるでしょう。
脳には、「血液脳関門」が存在し、薬剤等の脳への流入から脳を守っています。
しかし脳転移の場合は、これががん治療薬の脳への移行を妨げることから、治療薬の中でも脳に到達するものはある程度限られます。
そのため、抗がん剤などの薬剤治療も効果が限定的であるケースもあり(※ただし先述したように、よく脳に移行するものもあります)、薬剤以外の治療も組み合わせる必要があるのです。
症状緩和のためにも、転移自体を縮小させる治療が他部位の転移よりもさらに重要なのが、脳転移なのです。
脳転移の末期の症状とは?
例えば、胃や乳腺は、たとえ手術で切除したとしても、それで生命維持が不可能となることはありません。
一方で脳は、生命維持のために絶対に必要な臓器です。
したがって、全てを切除することができません(当然ですね)。
脳の厄介なところは、守るために頭蓋骨が脳を取り巻いています。
したがって脳転移が大きくなってくると、周囲を圧迫して、脳圧が上がってしまうのです。
脳圧が上がりに上がると、脳は行き場をなくし、下方向に脳がずれてしまいます。
これを脳ヘルニアと言います。
また頭蓋骨と脳の間にある膜(髄膜;ずいまく)にがんが転移すると、がん性髄膜炎となります。
このがん性髄膜炎は多様な精神神経症状を来たします。
そして終末期には高度な意識変容・意識障害を起こしえます。
またこれらの病変は、せん妄をしばしば続発させます。
モルヒネなどの医療用麻薬は、このような終末期のせん妄には無効です。
そのような場合は、ミダゾラムなどの鎮静薬などによる鎮静をしっかりと施行することが、苦痛緩和に寄与してくれるでしょう。
脳転移では早期からの緩和ケア外来受診はマスト
脳転移があるということは、転移性のがんです。
転移のあるがんの場合は、必要性の自覚を問わずに「すぐに緩和ケアにかかる」のが早期からの緩和ケアとなります。
記事「緩和ケアはいつから?」も参考にして頂ければと思います。
時が経ってから、「そろそろかかるか」とご自分の中で早めにかかるのは、早期からの緩和ケアとしては遅くなってしまうので注意が必要です。
実際に、かかる時期の早い遅いで、予後が変わりうるとの研究もあるのです。
参考;診断時からの早期緩和ケア定期受診で1年生存率が向上する【遠隔相談で】
脳転移はいきなり出ることは稀で、他の転移が先駆することも多いです。
したがって、緩和ケアは直ちに受診する(併診する)べき病態と考えられます。
まとめ
脳転移は進行・再発がんでしばしば認められます。
脳転移があることは、がんのそれなり以上の進行を示唆するため、緩和ケアをすぐに受診するのが良いでしょう。その時点でもすでに「早期からの緩和ケア」ではなく、通常の緩和ケアの時期と言えます(※末期ということではありませんので注意が必要です)。
脳転移が指摘されたら早めに緩和ケア受診が望ましいですし、可能ならば脳転移が指摘される前に緩和ケアにかかれると良いと考えます。