腎不全末期の緩和ケアをどう受けるか?
腎不全末期の緩和ケアについては、以前も取り上げたことがあります。
がん領域でも、緩和ケアが十分普及しているかというと、そうでもないことは度々指摘されています。
ただ、がん以外はさらに緩和ケアの普及はまさしく途上です。
腎不全末期の緩和ケアは、以前から必要性を指摘されていますが、現状のところは、日本のそれに特化したガイドラインや保険適用薬は乏しいです。
けれどもそれは、腎不全末期に緩和ケアができないということとイコールではありません。
私も10年以上前から、腎臓専門医から相談を受けて、症状緩和に携わる経験が何度もありました。
一方で、条件が揃わないと腎不全末期の十分な緩和ケアが受けられるのは難しいでしょう。
どうやったら腎不全末期の緩和ケアを受けられるのか、一般の方向けに解説します。
腎不全末期の緩和ケア
腎不全末期の緩和ケアは必ずしも容易ではありません。
それは一見、日本ではやり方が確立していないように見えることと無縁ではありません。
一方で、海外では普通に腎不全末期の緩和ケアに関しても文献やガイドライン等が出されています。
医療用麻薬は、種類によっては代謝産物等が蓄積し副作用が大きく出る可能性があるため、腎不全が重度の場合はフェンタニルを使用するのが基本です。
上記のスコットランドガイドラインにあるようにせん妄は一般的なので、ハロペリドール等が必要となります。
最終末期の身の置き所のなさも、ミダゾラムをシリンジポンプで10mg/24時間などの投与による鎮静が可能です(保険適用外)。
上記のように、海外の文献等では様々な手段が記載されており、それらを援用して、適切に対応策を講じていくことが肝要です。
では具体的にどう緩和ケアを受けるか?
腎不全の最終末期に至る病態は2つあります。
①透析をしない決断を行い、腎不全末期に至る場合。
②透析をしていたが、何らかの原因で継続困難となり、中止に至った場合。
上記となります。
ただそのシチュエーションに至る場合も、A) 急にそうなる場合と、B) 次第にそうなる場合とがあるでしょう。
特にA) 急にそうなる場合においては、病院をそこから移るということが難しいため、十分に症状緩和が受けられるか否かは、その時かかっている病院の緩和ケアの力に委ねられることになります。
腎不全の緩和ケアにはある問題点があります。
それは、ホスピス・緩和ケア病棟は基本的に腎不全末期の患者さんを受け入れないということです。
これはホスピス・緩和ケア病棟の医療者がいじわるだからということではなく、がんとAIDS以外は緩和ケア病棟入院料が減算になるためです。それなので基本的に多くの病院が、がんの患者さんのみ入院可となっています。
またホスピス・緩和ケア病棟は、病院に支払われる報酬が定額報酬性なので、透析のような高価な治療を行うと病院はその費用を持ち出しとなるため、その点でも現実的に受け入れることができません。
そのため、最終末期まで、緩和ケア病棟やホスピスではない病院・施設で過ごすことになります。
問題はそこに緩和ケアに精通した医療者がいるかどうかという点になります。
まずは緩和ケア部門がその病院に存在するかをしっかり確認することです。
A)にせよB)にせよ時間的な猶予は厳しいことも多いので、比較的元気なうちから、透析が中止になった際の対応を十分尋ねておくのが良いでしょう。
中には透析クリニック等にお通いの方もいらっしゃると思います。
そのような場合は、状態が変化した際は、いずれかの病院で対応を受ける可能性が考えられます。
そのため、状態変化時に紹介・入院する病院で、そのような緩和ケア部門があるかどうかも確認しておくのが良いでしょう。
さらに難しいことに、現在腎不全の患者さんを拝見しても、病院の緩和ケア部門である緩和ケアチームも一切それに対して診療報酬を得ることができないため、腎不全末期の患者さんにボランティアで対応してくれるかどうかは病院によって異なります。
一切診ないという大病院もあるでしょう。
一方で、先ほど挙げた文献によると、痛みは高度進行腎疾患で一般的で、血液透析を受けている205人の患者さんを対象とした研究ではその頻度は50%であったとのことです<筋骨格痛が63.1%、透析関連痛が13.6%、末梢神経障害による痛みが12.6%、末梢血管疾患による痛みが9.7%>。このような痛みの問題だけではなく、透析が終了となると、身の置き所のなさ(尿毒症を主因とするせん妄から)が出て来て、症状緩和には専門家の知識が必要です。
2019年に話題になった公立福生病院の透析中止の件でも、中止後の苦痛が強く、「こんな苦しいなら透析した方がいい」との言葉もあったとのことです。
緩和ケアの専門家が関与していなければ、様々な手が打てずに、苦しんで最期を迎える可能性があります。
腎不全末期の苦痛に関しても診療してくれる緩和ケアの担い手とつながって、その時を迎えられればそれに越したことはないでしょう。
まとめ
腎不全末期の緩和ケアはまだ十分とは言えません。
けれども少数ながら、腎不全末期の緩和ケアにも関与してくれる緩和ケアチーム等があるでしょう。
そのような専門家がいる病院で、腎臓専門医だけでなく緩和ケアの専門家の関与のもとに、透析の中止・終了となるのが、苦痛緩和としては一番良いとは考えます。
鎮静等も含めて、必要な処置を講じてくれるかどうかは、担当医とも十分相談しておくことです。
ただ急変時には普段かかっているクリニックとは別の病院に搬送されることもあるでしょうから、その病院の体制や状況を確認することも大切となるでしょう。