前立腺がんの薬物治療
前立腺がんの薬物治療は
①CAB療法(combined androgen blockade)療法
②アンチアンドロゲン交代療法
③アンドロゲン受容体阻害薬(商品名イクスタンジ)やアンドロゲン合成阻害薬(商品名ザイティガ)
④抗がん剤治療<化学療法>(商品名タキソテールやジェブタナ)
等があります。
ホルモン受容体陽性の乳がん等と同じように、まずは内分泌療法で開始し、効いている間はそれを続け、効かなくなれば別の系統の薬剤に切り替えていきます。
残念ながら、転移があるような症例ではいつか効かなくなる可能性があるため、効果が不良になって来れば、次の薬剤に切り替えることとなります。
それぞれの治療が奏効する期間は(個人差はありますが)前立腺がんの場合は、一般に(他腫瘍と比較すれば相対的には)長めと言えば長めですが、使える薬剤自体はそれほど多いわけでもないという特徴があります。
2019年3月現在、他の腫瘍では使用できるようになっている分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の保険適用もありません。
免疫系の細胞も、あまり前立腺がんには注意を払わないという、いわゆる「cold tumor(冷たいがん)」であるという特性もあります。
そのため、これまで免疫系の治療の知見が乏しかったのです。
腎細胞がんではニボルマブとイピリムマブが使用可能になっている
すでに別記事で触れましたように、腎細胞がんではニボルマブ+イピリムマブ、商品名で言うとオプジーボ+ヤーボイという治療が保険適用となっています。
免疫チェックポイント阻害剤とは、がんが免疫細胞から攻撃を受けるのを逃れる仕組みをブロックすることで、免疫細胞ががんを攻撃して効果を発揮するという治療です。
これまではそのようながん細胞のずるい仕組みがあるために、免疫を単に活性化させても、がんはそこから逃れることができたのでした。
ノーベル賞受賞で話題になった本庶佑博士がその元となる発見をしたため、話題になりました。
免疫のブレーキを外す治療なので、過剰に自分の細胞や組織を攻撃して、自己免疫的なメカニズムから副作用が発生する可能性があります。
ニボルマブとイピリムマブでは外すブレーキが違うので、副作用も異なります。
ニボルマブでは甲状腺炎や甲状腺機能低下症、間質性肺炎が、イピリムマブでは大腸炎や下垂体炎が出現しえます。
併用では、単剤に比べるとより広範囲の疾病に留意しなければならないでしょう。
前立腺がんにこのオプジーボ+ヤーボイが奏効
前述したように、前立腺がんは免疫系の攻撃をうまくかわしてしまう「冷たいがん」であると目されています。
しかし今年2月、アメリカ腫瘍学会で、下記の結果が発表されました。
62人の患者さんのうち、4人の患者さん(各コホートで2人)で完全奏効とのこと。
併用による副作用は、最も高頻度に認められた有害事象は下痢、疲労、皮膚発疹、悪心および甲状腺機能低下症でした。
4人の患者さん(各コホートで2人)が治療関連の有害事象で死亡したとのことです。
試験を終了する最も多い理由は疾患進行で、コホート1<第2世代のホルモン療法後に進行した群>の51.1%およびコホート2<化学療法およびホルモン療法後に進行した群>の44.4%がその理由で中止になったと記されています。
コホート1は25%(32人中8人)が治療に反応し、コホート2は10%(30人中3人)が反応したとのことです。
治療関連の有害事象での死亡が、完全奏効と同じ数で存在することは気になりますが、免疫チェックポイント阻害薬による治療に反応する前立腺がんの患者さんがいることが示されたことは大きいでしょう。
まとめ
これまで免疫治療に反応しにくい腫瘍だとされていた(「冷たいがん」とされていた)前立腺がんに、腎細胞がんですでに用いられている免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用で効果が認められました。
今後、前立腺がんに対する現在の内分泌療法や化学療法に、これら免疫チェックポイント阻害薬による治療が加わる可能性があります。
免疫チェックポイント阻害薬も副作用がある治療であり、抗がん剤治療と同じく、徹底的な支持療法(副作用の緩和を図る治療等)が必要です。
支持療法をしっかり併用することで、継続性や最大用量を長く使うことにつながり、それが良い結果に関係しうるでしょう。
早期からの緩和ケア受診は、治療中からが適切です。
免疫チェックポイント阻害薬が出てくるのは、一般的に、まだまだ病気の後のほうであり、それより前に緩和ケア外来に受診するのが良いと言えるでしょう。