新しい免疫療法CAR-T キムリアが承認
新しい免疫療法のCAR-T キムリアが承認されていますが、乳がんや肺がんなどの非血液がんには効くのか、今までわかっていることを解説します。
CAR-Tとは、患者さんから採取したT細胞に対して、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させる遺伝子改変を行って、その後体内に戻すという治療です。
アメリカ等ではすでに難治性または2回以上の再発を認める25歳以下の前駆B細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)や、再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)等で承認されています.
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は患者さんの数も多いですよね。
今回、日本で申請されているのは、CD19陽性のALLまたはDLBCLでの適応です。
主たる副作用は、サイトカイン放出症候群が知られており、発熱や悪寒などの症状が多い頻度で認められ、重度の低血圧や頻脈、呼吸困難を起こしたり死に至ったりするケースもあるようです。
値段は3349万3407円ですが公的医療保険の適用になので、高額療養費制度の上限しかかからないです。これが収入にもよりますが、数万円+αで受けられる可能性があるのが日本の凄さですね。
血液のがんではない固形がんにはまだまだこれから
一方で、血液のがんではない固形がんに対しては、CAR-Tはまだ初期の段階です。
参考;Novel T-Cell Therapies Make Inroads Into Solid Tumors(英語)
血液がんと異なって、抗原の異質性や腫瘍への到達の問題などが存在し、同様にはいかないとのことです。
一方で上の参考記事にあるように、5か6の前駆治療がある転移性乳がんの患者さんで、30ヶ月にわたって奏効している事例もあるとのことです。
ただ現時点では研究途上であることは変わりありません。
希望は持って良いですが、過剰な期待はできない水準であるとは言えるでしょう(現段階では)。
長生きが新治療をもたらす
私事ですが、私の叔父は40代前半で肺がんに倒れました。
2000年代の初期です。私はまだ研修医でした。
非喫煙者の肺がんで、発見された時は高度に進行しており、数ヶ月の命でした。
2007年に、肺がんの原因となる遺伝子の1つとしてALK遺伝子が発見されました。
ALK阻害薬が開発され、Ⅳ期肺がんでも無増悪生存期間(PFS)中央値は16.6ヶ月に及ぶ薬剤も出ています。
もちろん叔父にALK遺伝子異常があったかはわかりません。
しかしもしそうだったら、実際よりも長く生きられたことは間違いないと考えます。
けれどもその当時は、ALK遺伝子が知られておらず、検査も治療もありませんでした。
だから言えること、外来でもいつもお伝えしていることです。
「長く生きれば、新しい治療が出てくる可能性はある」ということです。
そして遅く病気になったほうが有利で、そのために健康を保つことも重要であるということです。
1分でも元気に長く生きるために早期緩和ケアを使いこなす
長期生存すれば、保険適応の新しい薬剤が使用できるようになる可能性が十分あります。
CAR-Tも固形腫瘍に対して様々な知見が集積されて、一般の臨床現場におりてくるかもしれません。
免疫療法といっても様々なものがあるため、一緒くたに考えて、他のものがご自身の病気に対して奏効すると捉えるのは正しい考え方ではない可能性があります。
それよりも、様々な知見が出てきている早期からの緩和ケアを使いこなして頂いて、新治療が出るまでに、「1分でも元気で長生き」を目指していただくのが良いと考えます。
早期緩和ケアは生存期間中央値の相対的な長さも一部で指摘されるなど、検証されている領域であり、証拠がない治療とは別物です。
生命力を毀損しないで、機を待つために、早期緩和ケアで「元気に長生き」して頂ければ幸いです。