緩和ケア=がんの終末期、という理解は過去のものになっています。
緩和ケアは当然末期に限らず提供されるものであり、病気もがんに限りません。
やけどにも緩和ケアがあるのです。
解説します。
やけどの緩和ケア
今回やけどの緩和ケアに関する英語文献を検索すると、下記の総説を見出しました。
興味深い内容だったので、ポイントを絞って引用解説します。
なおこの文献は英語ですが緩和ケア以外の部分も記載が充実しています。
痛み
痛みは、やけどを負った患者さんにとって最も一般的で厄介な症状です。
疼痛は患者さんによって大きく異なり、入院中に大きく変動することがあります。
多くの場合、やけどの痛みは激しく持続的ですが、痛みの強さは必ずしもやけどの程度に直接関係しているわけではないです。
やけどの痛みは次の種類があります。
・熱による損傷および組織破壊から生じる持続痛(強さが低〜中程度で長時間)
・創傷の創面切除、包帯の交換、理学療法等の手技から生じる激しい痛み
・予期せぬ突出痛
・術後疼痛(やけどの切除後、または皮膚移植に関連する創傷による)
その他のポイントは下記です。
●最適な疼痛管理は、創傷治癒、回復期の睡眠、日常生活活動への参加および治療にとって必要不可欠
●不十分な疼痛管理は、鬱病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)および自殺念慮等と関連
●やけど後の神経障害性疼痛は一般的(症状は灼熱感、刺す感じ等)
●末梢性神経障害の発生率は15〜37%の範囲
痛みの治療
(日本の保険適用外の使用法の薬あり)
◯オピオイド
◯ケタラール
◯プレセデックス
◯キシロカイン
×アセトアミノフェンとNSAIDsは激しいやけどの痛みの治療には適していない
△リリカ(遅発性の神経障害性疼痛に対して)
オピオイドが治療の標準です。
短時間作用型オピオイドは突出痛に使用されます。
多くのやけどのケースではオピオイド耐性が発現し、高い用量を必要とするとのこと。
やけどは痛覚過敏を起こし、これもオピオイドが効きづらい理由です。しかし、激しいやけどの痛み治療ではアセトアミノフェンやNSAIDsの役割はほとんどないとのことです。
オピオイドを使用しても、重度のやけどの治療を受けているほとんどのケースでは耐え難い痛みを訴えるので、ケタラールやプレセデックス、抗不安薬、プロポフォールなども使用されます。
他に、局所麻酔、脊髄または硬膜外オピオイド投与、マッサージ、認知行動療法、音楽療法などが創傷治療中の痛みの軽減に有効性が示されているとのこと。
そう痒(かゆみ)、神経障害、不安、睡眠障害、うつ病等は痛みの知覚を増大させますので、それらの治療も肝要です。
心理的な症状
主要な心理的問題は、うつ病とPTSD。
うつ病は、退院時の4%から退院後1ヶ月の54%までの頻度。退院後1年には10から20%までの範囲。
PTSDの発生率は傷害後1年で6〜33%。
生存者は、初期の精神医学的および社会的介入によって回復することができるとのこと。
家族のストレス
突然始まる家族のやけどに関連して、中程度から重度の不安やうつを示します。これらの症状は通常、最初の1年間で軽減します。
やけどをした患者のための一次および専門的緩和ケア
●緩和ケアは、患者と家族だけではなく、ICU等の医療者等への支援も含まれる
●やけどの治療にあたる医師がまず一次的緩和ケアも行う
【やけどのケアにおいて緩和ケア専門家が貢献しうる事柄】
•予後の不確実性、複雑な家族動態および死亡情報開示の状況でのコミュニケーションの促進
•死が迫っている患者の医学的管理に協力
•ICUで患者や家族へのやけど治療及びケアを、熱傷治療チームに加えて提供
•一次緩和医療スキルの訓練とロールモデルを提供
•熱傷ケア教育のための緩和ケアカリキュラム開発の支援
•メリットに乏しい治療の差し控えと中止に関するプロトコルの開発を促進
•ケアに当たる熱傷チームのレジリエンスを高め、つらさを軽減
熱傷の緩和ケアのまとめ
引用した論文では、下記のようにまとめられています。
●世界中で緩和ケアの専門家が大幅に不足している(←日本だけではない)
●理想的には、緩和ケアの専門家の介入は、終末期のケアだけでなく、より広い範囲の症状、コミュニケーション、および他のニーズを満たすために貢献できる
●ICUの熱傷治療において、プライマリケアとスペシャリストの緩和ケアをうまく統合できるかどうかは、熱傷チームと緩和ケアチームの相互の理解が必要
●目標は、熱傷チームが質の高い一次緩和ケアを提供しながら、必要に応じて患者や家族のための専門的な緩和ケアへのアクセスを確保し、熱傷チームのレジリエンスと満足を促進すること
●熱傷チームと緩和ケアチームの結合で、ICU緩和ケアを改善し、死亡率を増加させることなく、余分な医療リソース使用を低減することができる
以上のように、やけどの治療及び症状緩和は容易ではなく、患者さん及びご家族さらには主たる熱傷治療チームの心身の負担も大きくなるため、それらを直接・間接的に専門家として支援することが、やけどにおける緩和ケアの要点と言えそうです。