くも膜下出血や脳卒中に緩和ケアはあるのか?
くも膜下出血はたびたび話題になる疾患です。
くも膜下出血はそれ自体が直接死因になる厳しい病気です。
下記のようなデータもあります。
①病院に到着する前に10-15%死亡。
②最初の数日以内に10%が死亡。
③2週間以内に20%は脳動脈瘤が再破裂。
④発症から30日での死亡率は46%。
⑤生存者の約30%は中等度~重度の後遺症を残す。
⑥生存者の約1/3が良好な経過をとる。
救急の処置が必要になる病気です。
現在はがん以外でも緩和ケアが発達してきていることは何度か述べています。
救急の現場でも緩和ケアの必要性が指摘されるようになってきています。
一方で、下記の図でも、終末期に緩和ケアが必要となる疾患の上位に脳卒中が位置しているわけではありません。
日本では2019年現在、脳卒中やくも膜下出血と緩和ケアという言葉が結びついて紹介されることは稀でしょう。
ただ、周知の通り、日本の緩和ケアはこれまでがん中心だったことも事実です。
はたして、くも膜下出血等の脳卒中に関してはどうか?
調べてみると、驚くべきことがわかりました。
なお、脳卒中には
① 脳梗塞(脳の血管が詰まる)
② 脳出血(脳の血管が破れる)
③ くも膜下出血(脳の動脈瘤が破れる)
④ 一過性脳虚血発作(TIA)(脳梗塞の症状が短時間で消失する)
の4つが含まれます。
脳卒中にも緩和ケアがあった!
調べてみると、やはり脳卒中の緩和ケアを紹介する英語文献がありました。
ただ文献の数が少なく、世界的にも発展途上であるのは事実でしょう。
さて、いくつか紹介しましょう。
A 脳卒中の緩和ケアの効果
Satisfaction With Palliative Care After Stroke という文献によると、
遺族調査において、緩和ケアを受け、脳卒中で亡くなった方に関しての満足度調査で、
【満足】疼痛および呼吸困難の治療、情報の提供と意思決定の促進
【不満足】不安およびうつ病の治療、家族のニーズに注意が払われることや栄養療法に関して等
という結果が得られています。
全体的な満足度は10点満点の 9.04と高かったとのこと。ただし研究は小規模です。
B 脳卒中の緩和ケアの割合
Palliative care consultations in hospitalized stroke patients.
上の文献によると、アメリカの一病院のデータですが、脳卒中関連の相談は全相談のうちの実に6.3%を占めていたとのこと。
101件の相談のうち、31件が虚血性脳卒中、26件が脳内出血、30件がクモ膜下出血、14件が硬膜下血腫に関してだったそうです。
その後の全米の調査でも、脳卒中患者395411人のうち、緩和ケアのリソースは6.2%で使用され(正確には緩和ケアを病院で受けたというコード記録が残っている)、時間とともに増加傾向を示しているとのことです<Palliative Care for Hospitalized Patients With Stroke: Results From the 2010 to 2012 National Inpatient Sample.>
個々の患者さんに関しては、出血性脳卒中の入院患者さんは、虚血性脳卒中の患者さんと比較して30日死亡率が高いことが知られており(40% vs 15%)、出血性脳卒中のほうが虚血性脳卒中よりも急性期緩和ケアや終末期ケアのニーズは大きいとのことです<Palliative care consultations in hospitalized stroke patients.>。
C 具体的な脳卒中の緩和ケアの方法
Intracerebral hemorrhage for the palliative care provider: what you need to know.
上の文献には具体的な緩和ケアの内容が示されています。
・緩和ケア提供者は、困難な終末期の意思決定において患者、家族、および医療提供者を支援するためにしばしば相談される
・家族との相談は、緩和ケア提供者が神経科および脳神経外科の主要チームと連携して行う重要な介入
・人工呼吸器の抜管に対して決定が下された場合、呼吸困難または痛みに対してオピオイドを使用する
・緩和ケア提供者は脳内出血のICU患者とその家族にケアを提供する上で中心的な役割を果たすことができる
またPalliative care consultations in hospitalized stroke patientsによると、
脳卒中の緩和ケアにおいては、栄養と水分補給に関する問題が最も一般的に議論されている内容で、人工栄養/栄養チューブに関してが47例(101例中。以下同様)、自然栄養(20例)および静脈内輸液(14例) 、他に気管切開術(18例)、抗生物質(12例)、脳神経外科手術(8例)などがあるとのことです。
症状緩和というよりは、意思決定支援が大きな位置を占めていますね。
なお、下の文献に関しても、意思決定支援が記載されています。
まとめ 症状緩和だけが緩和ケアではない
緩和ケアというと名前が「緩和」なので、症状を和らげることだけが緩和ケアだとしばしば勘違いされています。
緩和ケアにおいては、治療の意思決定支援などが大切な要素になります。
脳卒中の場合は、ご本人の意思決定の力が障害を受けることもあり、ご家族への支援も重要となります。
緩和ケアは元々家族支援が含まれていますが、脳卒中においてはとりわけそれが大切になります。
今後の療養についてよく相談したりするのも、ご本人よりご家族がメインとなることもあるでしょう。
丁寧なプロセスを経て、脳卒中発症後の患者さんにとって最適な決断をご家族も含めて行ってゆくのが脳卒中の緩和ケアと言えるでしょう。