うつの改善で激変するのを見ると感じる、人の意思の曖昧さ
幸いにして私は、これまでの中では自分が診ていたがんの患者さんでは未遂の経験だけしかないですが、医師によっては既遂の患者さんも経験し、非常に大きなショックを受けます。
うつ病の患者さん自体はしばしば拝見することがありました。
うつについては以前も早期緩和ケア相談所のホームページで記しています。
難しいのは自覚がしばしばないことです。
リンク先でもエピソードを記しましたが、多少自分がおかしいという認識はあっても、自分では正当な意思として「治療を受けたくない」「死にたい」と思い込まれているので、難しいのです。
しっかり治療すると、うつ病時の言動と激変することがありますので、うつ病時の意思を了解可能な正当な意思として受け取っていたら、大変なことになっていただろうと感じます。
死にたいという場合は、精神科医のチェックを
がんの進んだ状態、あるいはがんの治療を長く続けている場合は、見ている側としても「大変だな」とお気持ちが慮られますし、その中に「もう死にたい」等の言葉が出ると、「わかるな」と思ってしまうのが、一般医療者かもしれません。
そうは言っても、先述の子供を手にかけた母親の記事からは、うつ病下の特異な思考過程が読み取れるように、もしかするとうつ状態からそのような気持ちに駆り立てられているかもしれないという疑いを持つことは必要です。
一般には、インターネットなどを中心に、「死にたいと言ったら死なせてあげれば良いじゃないか」「安楽死させれば良いじゃないか」等と、通常の精神状態の人が万策尽き果てて死を希求するという理解からの発言が、何かあると噴出します。
しかし、がんの患者さんの場合は、炎症性サイトカイン血症とうつとの関連もうかがわれます。
身体の炎症自体がうつを呼び込むのです。
たとえ今後日本の制度が変化したとしても、うつの評価はしっかりしなければ、病気に歪められた意思を正当な意思として判断する危険が常にあるのではないかと考えます。
「死にたい」という気持ちがたびたびある、身体疾患を患っておられる方は、例えばがんの場合は精神腫瘍学の精神科医など、身体疾患に詳しい精神科医のチェックを受けることが良いと考えます。
また、述べてきたように、しばしば「自分がうつ病だ」という認識を欠くことがありますから、さらに経時的に見ることで変化に気が付きやすくなるという側面もあり、緩和ケアなどの外来に継続的にかかることで、最初の発見を早く的確なものにする、という対処も有効だと思われます。
周囲も過度に心配する必要はありませんが、継続的に留意するのが良いでしょう。
まとめ
以前大病院で行っていた緩和ケア外来では、少なくない患者さんのうつ病を発見し、精神科医につないだり、可及的に治療を行ったケースもありました。
「治療をしたくない」あるいは「身体の症状がきつくて仕方ない」、それなので「もう死にたい」と仰っていた患者さんが、しばらく経ってもとに戻る姿を見て来ると、適切な診断と治療は欠かせないと考えます。
周りで見ている方も、以前と様子が違うようでしたら、しっかり精神科医などにかかってもらうように勧奨するのが良いと考えます(連れてゆくことも厭わず)。
普通の精神状態では、子供を手にかけたり、電車に飛び込んだり、いかに自分がつらくても難しいでしょう。
突き上げるような衝動に冒される状態があるのだ、それをしばしば身体的疾患からの炎症が助長することもあるのだ、という周知・理解が必要だと思いますし、大切な命をなくさないためにも、自他ともに十分な注意が必要だと考えます。