私はがんの痛みが専門ですが、頭痛の患者さんもしばしば拝見します。
がんの痛みの場合は、「例外的に」痛みを取り除くために医療用麻薬などを駆使しても、メリットが上回る公算が高いです。
けれども、がんが原因ではない慢性的な痛みに、長期間様々な鎮痛薬を使用することは、デメリットが上回る可能性があるのです。
私は常々、「がんが原因ではない痛みは慎重に治療を」と述べているのはそのためです。
実際、医療用麻薬を容易に処方するアメリカでは、鎮痛薬の過剰使用による依存などが大きな問題になっています(※日本での、がんの患者さんへの一般的な医療用麻薬の使用では依存にならないので、同列には考えないでください)。
1%が常用薬による頭痛
頭が痛いと不快になりますし、ガンガン痛いと不安にもなりますね。
私も頭痛持ちとまではいきませんが、たまに頭痛でカロナールを使います。
以前はロキソニンを使っていましたが、最近はカロナールですね。
ただ頭痛は、本当に危険なものは少なく、緊張型頭痛や片頭痛などが大半です。
そしてその次の頻度を誇るのが……
なんと、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)(MOH:Medication Overuse Headache)なのです。
疑い例も含めると頭痛全体の約1%になるとのことです。
どんな基準に当てはまると薬物乱用頭痛になるのか?
下が診断基準になります<引用;日本頭痛学会ホームページ>。
【薬物乱用頭痛(MOH)の診断基準】
A. 頭痛は1ヵ月に15日以上存在し,CおよびDを満たす
B. 「急性の物質使用または曝露による頭痛」に示す以外の薬物を3ヵ月を超えて定期的に乱用している
C. 頭痛は薬物乱用のある間に出現もしくは著明に悪化する
D. 乱用薬物の使用中止後、2ヵ月以内に頭痛が消失、または以前のパターンに戻る
エルゴタミン乱用頭痛: 3ヵ月以上の期間、定期的に1ヵ月に10日以上エルゴタミンを摂取している
トリプタン乱用頭痛:3ヵ月以上の期間、定期的に1ヵ月に10日以上トリプタンを摂取している
鎮痛薬乱用頭痛:3ヵ月を超えて、1ヵ月に15日以上単一の鎮痛薬を服用している
オピオイド乱用頭痛:3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上オピオイドを服用している
複合薬物乱用頭痛:3ヵ月を超える期間、1ヵ月に10日以上複合薬物を摂取している
ひと月で10~15日の薬剤使用なので、結構な頻度ですが、これに当てはまる頭痛が全体の1%程度にも及ぶとされているのですから、頭痛持ちの方で薬を頻繁に使用する方も少なくないのですね。
薬物乱用頭痛、そう簡単になってしまうの?
これを効くと、では痛くても我慢する! という方もおられるでしょう。
ただそう簡単になるわけでもありません。
下記が平均投与回数及び時間とされています<引用;https://medical.eisai.jp/products/maxalt/guidance/treatment05.html>
◯トリプタン 18回/月 1.7年
◯エルゴタミン製剤 37回/月 2.7年
◯鎮痛剤 114回/月 4.8年
このうち、トリプタンとエルゴタミン製剤は片頭痛に使われますね。
両薬ともに、血管を収縮させる薬剤であるため、そもそも使用するのが不適切な場合もあり、よく処方医と相談することが大切です。
参考;トリプタン系薬やエルゴタミン製剤が使用できない患者の片頭痛の予防・治療薬は?
基本的には、心臓や血管系の病気がある場合は使用できないので、注意が必要でしょう。
緊張型頭痛の場合や、片頭痛で上記のようにトリプタンやエルゴタミンが使用できない場合は一般的な鎮痛薬が使用されますが、それでも114回/月という毎日4回程度の使用を4.8年も続けると、リスクがあるわけですね。
ただ例のごとく、あくまでこれは「平均」ですから、もっと少ない量で短い期間で発症する人もないとは言えないため、その点の留意は必要でしょう。
薬物乱用頭痛の治療法は?
治療は下記になります<引用;薬物乱用頭痛の特徴と治療法>。
① 原因薬物の中止
② 薬物中止後に起こる頭痛への対応
③ 予防薬の投与
②は違う痛み止めを使用し、③は抗うつ薬のアミトリプチリンが緊張型頭痛と片頭痛で予防効果が認められているそうです。
ただ、ミイラ取りがミイラにならないように注意が必要ですね。
実際、原因の薬を中止できると7割に改善が認めるとされますが、長期的には約4割が再び薬物乱用を起こしてしまうのだそうです<前掲引用>。
容易なことではないですが、頭痛持ちの体質や習慣自体を(変えられるならば)変えることが大切でしょう。
頭痛体操で緊張型頭痛だけではなく片頭痛も予防
頭痛は薬だけに頼らないことが大切でしょう。
緊張型頭痛の自己対策には下記のような事柄が大切とのことです(NHK健康チャンネルより引用)。
・頭痛体操によるストレッチ
・正しい姿勢を保つ
・こまめな休憩を取る
・自分に合った枕を使う
・首や肩を冷やさない
・ぬるめの風呂でゆっくり入る
・日常的な運動を行う
日常の望ましい運動に関しては、長く健康でいられる可能性を増やすための実践的情報を集めた「1分でも長生きする健康術」で書きましたが、それも頭痛に有効でしょう。
他に、片頭痛の予防にも頭痛体操が有効とするものもあります。
片頭痛発作が増えると、脳内の頭痛回路が首の後ろにまで伝わり、痛みのしこりを作ります。頭痛体操は後頸部の筋群をほぐし、脳の痛み調節系に良い刺激を送ります。そのためストレッチ体操で片頭痛が予防されるのです。
なるほど、という感じですね。
他にも、気分転換等も重要でしょう。
まとめ
がんの痛みは、例外的に、鎮痛系の薬剤の積極的使用が望ましい病態です。
けれども、それ以外の痛みに関しては、薬剤だけではなく、生活習慣等の非薬物のケアもさらに重要です(※がんの痛みでも非薬物ケアは重要です。念のため)。
頭痛に関しても、ロキソニン等はよく効きますが、あまりに頻繁に使用していると薬物乱用頭痛などの弊害が生じる可能性もあります。
薬も大切ですが、それに偏らない、緩和ケア的な全人的な対策が重要です。