フェンベンダゾールががんに効く?
通院されている患者さんに教えて頂いたのですが、虫下し(駆虫剤)のフェンベンダゾールががんに効くという話が広まっているようです。
アメリカの小細胞肺がんを患ったジョーさんという男性が、体験談を2018年6月に上げたのが発端です。
その後瞬く間に拡散され、今回この件を扱ってからも複数質問を頂戴しました。
Yahoo!でも詳しく解説しましたので、そちらを見てもらいたいですが、現状の専門家の意見としては「様子見」と考えます。
虫下し(駆虫剤)のフェンベンダゾールは本当にがんに効くのか?
その理由を説明します
抗がん効果自体はありそう ただヒトにどれくらいの量でかは未知数
フェンベンダゾールはベンゾイミダゾール系の薬剤です。
フェンベンダゾールなどの虫下しは、がんに対する効果自体は持っているようです。
論拠は、下記の文献です(全て英語文献ですがご容赦ください。詳しく知りたい方は、Google Chrome等の「日本語に翻訳機能」などを使ってお読み頂ければと存じます)。
◎フェンベンダゾールは中程度の微小管不安定化剤として作用し、複数の細胞経路を調節することにより癌細胞死を引き起こす
→https://www.nature.com/articles/s41598-018-30158-6
◎ベンゾイミダゾール誘導体がKRAS変異肺がんの選択的細胞毒性薬として明らかになった
→https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30862488
またベンゾイミダゾール系と別系統のイベルメクチンにも抗がん効果はあるようです
◎イベルメクチンは、EGFR / ERK / Akt /NF-κB経路を介して癌細胞の薬剤耐性を逆転させます
→https://jeccr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13046-019-1251-7
今回のケースが広まる以前からも、ジョンズ・ホプキンス大学が、実験室の一部のマウスで神経膠芽腫の増殖が停止したことを偶然発見した後、2014年からフェンベンダゾールの研究を開始しています。
→https://www.khou.com/article/news/health/medicine-for-dogs-studied-as-possible-cancer-treatment-for-people/285-9ad9602a-bd7a-449e-b196-3e8d51bd28e2
がん治療薬としての可能性があるのかは研究されているのですね。
フェンベンダゾールの潜在的な抗がん剤としての可能性については2013年にも論文化されています。
→http://ar.iiarjournals.org/content/33/2/355.full
ただしこれらは、動物実験などの話であり、ヒトの結果ではありません。そのため検証はこれからです。
フェンベンダゾールはヒトに対して認可されている薬剤ではないので研究が進んでいなかった側面もあるでしょう。
一方で同じベンゾイミダゾール系のアルベンダゾールに関しては研究されています。
◎進行がん患者における経口アルベンダゾールの最大耐量を決定する第1相試験
→https://www.researchgate.net/publication/38081091_Phase_I_clinical_trial_to_determine_maximum_tolerated_dose_of_oral_albendazole_in_patients_with_advanced_cancer
こちらは初期段階の研究が行われていますが、2009年の発表であり、以後に続かないのが気になります。
いずれにせよわかっていることは多くないです。
韓国では社会問題化 副作用の懸念
日本でも隠れて実行されている方がおられるようですが、社会で大きな問題になったのは韓国です。
フェンベンダゾールの流行は、韓国のYouTubeチャンネルがジョーについて紹介した後、2019年9月初めに始まったとのこと(参考文献)。
ジョーに関する韓国語のYouTubeビデオは、アップロードから2か月後に200万回以上再生されたとのことです。
さらには米国で働く韓国人医師がYouTubeでフェンベンダゾールを紹介し、政府への働きかけを勧奨したことから、請願運動まで起こったそうです(参考文献)。
腸壊死での入院例や、死亡例まであったと報じられています(参考文献)。
動物においても、フェンベンダゾールには骨髄抑制の副作用があることがかねてより知られてきました。
→https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/fenbendazole
懸念されるのは、薬物代謝に関してです。
フェンベンダゾールは、主として肝臓に存在する体内の酵素CYP2C19を使って代謝されます。
その酵素が、日本人においては2割程度が低活性者なのです(欧米人より割合が多い)。
薬物代謝酵素の活性が低いと、薬物濃度が上昇します。
フェンベンダゾールに関してもそうで、すると予期せぬ高濃度からの副作用発生の懸念があるでしょう。
またCYP2C19に関係する薬剤がいくつかありますが、それらを飲んでいると濃度が変化する飲み合わせの問題もあります。
これらの情報からすると、夢の薬と期待するにはまだ早いと考えられ、一方で担当医に相談しないで行っているケースもあるようですから、骨髄抑制などの発生で重大な結果になることを恐れます。
情報の吟味には冷静さが必要
私自身は、できることは試してみたい、という気持ち自体は応援しています。
一方で
・高額なもの。生活が破綻する。
・健康被害が予測されるもの。
に関しては、賛成できません。生活の質が下がりますし、身体を傷めてしまっては元も子もありません。
フェンベンダゾールに関しては、「副作用が少ない」として情報が広まっていますが、一概にそうとは言えない懸念があり、よく医療者と相談し、慎重に判断されるべき事柄と考える、というのが現段階での結論です。
追記 アブラキサンやハラヴェンなどの微小管阻害剤は、フェンベンダゾールが微小管阻害作用があるため効果が重複し、副作用等の懸念があるので注意が必要です。微小管阻害剤は下記のものなどが該当します。
・パクリタキセル
・ドセタキセル
・アブラキサン
・ハラヴェン
・ナベルビン
・オンコビン