現在肉腫に特化した肉腫緩和ケアセンターはありませんが、当院でも肉腫の緩和ケアを行っています。
治療の専門家はいるが緩和ケアの専門家は少ない
肉腫は悪性腫瘍ですが、癌とは異なります。
癌は上皮細胞から生じますが、肉腫は上皮細胞ではなく、より内部の組織から発生します。
頻度は、癌よりもずっと少ないです。
年間、10万人のうち3.6人がこの腫瘍になるとされています。
癌と同様に、肉腫も様々な種類があります。発生元によって分類されます。
平滑筋や横紋筋等の筋肉、神経、脂肪、血管などの軟部組織や骨などから発生します。種類は50を超えるとされます。
平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、悪性末梢神経鞘腫、脂肪肉腫、血管肉腫、未分化多形性肉腫等の軟部肉腫や、骨肉腫、ユーイング肉腫、軟骨肉腫、癌肉腫などが知られています。
悪性中皮腫(ただし悪性中皮腫は肉腫と癌との中間の性質)も、肉腫と関連します。
一番多いのは軟部肉腫です。
緩和ケアの視点からの問題点としては、頻度自体が多くなく、しかも消化器科や整形外科、婦人科、小児科などでそれぞれ同じ肉腫でもその種類によって診療する科が異なり、肉腫の専門家も多くないですが、ポイントとしてはその専門家が在籍する病院に、必ずしも緩和ケアの熟練の専門家が在籍していないこともあるという点でしょう。
治療と症状緩和は並行して行う(早期からの緩和ケア)が必要ですが、それぞれの専門家は一致しないことのほうが多いです。
そのため通常は併診することが必要なのですが、前述したように同施設に在籍しているとは限りません。
したがって、私が提供しているようなサービスの利用が勧められるでしょう。
実際米国臨床腫瘍学会の患者向けページでも、早期からの緩和ケア利用の必要性が指摘されています。
私は緩和ケアの躍進期前に緩和ケア医になったので、ケースがよく集まり、肉腫などの緩和ケア経験も相対的には多いです。肉腫の緩和ケアにも経験と知識が必要で、これまでの緩和ケア診療が生かされています。
肉腫と治療
肉腫の治療は、外科手術や放射線治療が行われます。
成人に発生する肉腫は抗がん剤への感受性は高くないとされます。
アントラサイクリン系のドキソルビシン(アドリアマイシン)や、それを含む複数抗がん剤のレジメンがよく使用されます。
他にも、肉腫の種類によって有効性が示唆されている治療があります。
血管肉腫におけるパクリタキセルやドセタキセルなどのタキサン系抗がん剤や、ベバシズマブ(保険適用外)。
子宮平滑筋肉腫のドセタキセルとゲムシタビン(併用療法は保険適用外)。
皮膚線維肉腫やGISTのイマチニブ(商品名グリベック。線維肉腫には適用外)。
他に、パゾパニブ(商品名ヴォトリエント)、トラベクテジン(商品名ヨンデリス)が、悪性軟部腫瘍で保険適用となっています。
それぞれの薬剤は当然のごとく副作用もあるので、その対応が必要です。
公表されている情報での副作用は下記です。
ドキソルビシンは脱毛61.6%、白血球減少43.4%、悪心・嘔吐42.9%、食欲不振39.7%、口内炎22.2%などが知られています。総投与量が500mg/m2 を超えると重篤な心筋障害を起こすことが有名で、注意して使用されています。
パゾパニブは下痢54.2%、疲労52.5%、悪心48.3%、高血圧39.2%、食欲減退34.2%、体重減少30.4%、味覚異常27.1%、嘔吐25.4%があります。
トラベクテジンは悪心90.4%、好中球減少87.7%、GPT上昇71.2%、白血球減少64.4%、食欲減退63.0%、AST上昇58.9%、倦怠感54.8%、便秘47.9%、嘔吐39.7%などが知られています。
治療の副作用に関して、しっかりと対策することが重要になります。
肉腫と症状、緩和ケア
肉腫が進行するとどのような症状が起こるのでしょうか。
よくまとまった英語論文がありますので、そこから引用します。
Symptom Burden, Survival and Palliative Care in Advanced Soft Tissue Sarcoma
緩和的化学療法(症状緩和目的の抗がん剤治療)が行われている状況だと
痛み 50%→79%<終末期。以下同様>
息苦しさ 20%→44%
悪心・嘔吐 22%→35%
倦怠感 18%→33%
便秘 12%→17%
咳 6%→19%
食欲不振 8%→19%
このような頻度で苦痛症状が出現します。
各臓器や軟部組織、骨に転移するため、痛みが出現します。
また肺転移もよく認められる症状であり、息苦しさもそれなりの頻度で出現することがわかります。
悪心・嘔吐や倦怠感も起こります。
痛みや息苦しさには医療用麻薬が有効ですが、それだけで緩和できないことは肉腫ではない癌と同様です。
緩和ケアの薬剤調整の技術を駆使して、症状緩和にあたる必要があり、専門家の支援が望ましいでしょう。
まとめ
肉腫は多い腫瘍ではないため、また各領域に分散するため、それぞれの医師の経験症例数が多くありません。
一方で、緩和ケア医は幅広くがん(肉腫を含む)を診療するため、全体の経験量が多ければ肉腫の緩和ケア経験も多くなります。そのため肉腫の緩和ケア診療経験が多い医師もいます。
肉腫においては、治療の副作用対策や、肉腫自体の進行による痛みや息苦しさが問題となります。
早期から緩和ケアの専門家に関わってもらって、適切な支持療法や緩和ケアが提供されるようにすることが大切でしょう。