GISTとは
現在GISTに特化した緩和ケアセンターはありませんが、当院でもGISTの緩和ケアを行っています。
GIST(ジスト)といっても一般の皆さんには聞き慣れないかもしれません。
GISTとはGastrointestinal Stromal Tumorの略で、消化管間質腫瘍のことです。
10万人に1~2人しか発生しないまれな腫瘍です。そのため、3700人のがんの患者さんを拝見している私でも、GISTの患者さんの緩和ケア経験は10人未満です。
胃がんや大腸がんは粘膜から発生します。
それに対して、GISTは胃や小腸等の消化管の壁にできる転移・再発を起こす悪性腫瘍の一種です。
分類としては肉腫となります。
そして、粘膜由来の胃がん・大腸がんとは異なる性質を示します。
また胃や小腸からの発生が中心で、大腸や食道からの発生が少ない特徴があります。胃は7割程度を占め、原発としてはトップになります。
基本的には初期にはあまり症状がありません。腹痛や腫瘍からの出血での下血、貧血等を契機として診断されることもありますが、お腹が張るなどの一般的な症状から病院に受診し最終的に診断がつくことも少なくありません。
それなので、相当進行するか、あるいは症状が出る病気の進み方をしない限り、高度な苦痛症状を欠くことも多いですが、進行すると種々の症状が出現してくる可能性があります。
再発・転移GISTの症状
下記のような症状を進行すると来たします。
- 腹痛や腹部不快感
- 腸閉塞
- 嘔気・嘔吐
- 吐血
- 血便
- 疲労(貧血による。腫瘍の消化管出血から)
また他にも、転移部位として肝臓や肺、骨などが挙げられます。
そのため、
- 肝被膜痛
- 肺転移からの呼吸困難
- 骨転移からの痛み
なども起こす可能性があります。
一般的ながんと比較して、△周囲への直接浸潤、△リンパ節転移・浸潤が少ないことが特徴で、主に血液に乗って転移する血行性転移の様式を取ることが多いです。
GISTと治療
外科手術が可能な場合は、取りきるように手術を行います。
切除ができない場合や再発のリスクが高いと判断されるケースでは、分子標的薬を用いた治療が行われます。
第一選択は商品名グリベック(イマチニブ)という分子標的薬です。
再発高リスク群や腫瘍の破裂がある患者さんには、術後療法(3年間の内服)も行われています。
イマチニブは旧来の抗がん剤ではない分子標的薬なので、副作用も異なり、皮膚の発疹や、目の周りやふくらはぎのむくみ、吐き気、下痢、肝機能・腎機能障害、筋肉痛などがよく起こります。
イマチニブが効かなかったり、耐性が形成されて効かなくなったりすると分子標的薬のスニチニブが使われ、それでも効かなくなるとレゴラフェニブが推奨されます。
また2019年4月現在日本では未発売ですが、ラロトレクチニブが少数ながら適応となるGISTの患者さんもいます。ラロトレクチニブはトロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)融合タンパク質を選択的に阻害する新薬で、特定の遺伝子変異がある場合には効きます。
分子標的薬の治療の副作用に関しては、治療を終了すると改善してくるものが多いので、主として治療中の対策が求められます。例えばむくみに対しては利尿剤を用いて対応する等です。
GISTの苦痛症状と各対策
腹痛や腹部不快感
主として内臓痛に属するため、医療用麻薬(≒オピオイド)がよく効きます。
症状が強いならば、検討されます。
また内臓痛は、痛みとしての感じ方よりも不快感が前景に立つことがあるため、注意が必要です。
腹部不快感が実は内臓痛からというケースもあり、そのような場合は医療用麻薬がよく効きます。
腸閉塞
腸閉塞に関しては、余命が長く見込まれる場合は、外科手術も適応となります。
けれども、余命が短い月単位である場合には、薬物治療による腸閉塞緩和が適応です。
ステロイドやオクトレオチドを用いて緩和します。
嘔気・嘔吐
原因によって対処が異なります。制吐薬などで対応します。
出血症状
- 吐血
- 血便
- 疲労(貧血による。腫瘍の消化管出血から)
消化管の出血を止めることはなかなか容易ではなく、基本的には分子標的薬等による直接的な対がん効果に期待します。
肝被膜痛
医療用麻薬がよく効くので、その使用を考えます。
アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬を用いることもあります。
肺転移からの呼吸困難
息苦しさにも医療用麻薬は効きますので、それらを使用するほか、抗不安薬も息苦しさを緩和することがあるので、効果を見ながら調整します。
骨転移からの痛み
医療用麻薬や他の鎮痛薬を組み合わせます。
消化管出血と腎機能障害がなければ、非ステロイド性抗炎症薬を使うのが、痛みの緩和では有効なのですが、GISTは消化管出血をしばしば来たすため、使用できないこともあるのが難しい点です。
医療用麻薬単独だと高用量になることもあり、なかなか生活の質を保った加療が難しいケースもあります。
GISTの緩和ケアのまとめ
GISTも悪性腫瘍です。
そしてさまざまな苦痛症状を来たします。
治療自体の副作用対策も大切になります。
諸症状に関しては薬物を巧く使って緩和する必要があり、緩和ケア医とも早めにコンタクトを取ってことに臨むのがよいとは考えられます。
腫瘍サイズが小さく、顕微鏡での細胞核の分裂数が少ないものは予後が良いですが、その逆のものは予後も厳しいなど多様性があります。
高度進行期には多様な苦痛症状を来たす可能性もあるため、しっかりとした緩和ケアが必要となるでしょう。
また分子標的薬の治療が行われますので、副作用についても熟知している医師に対応してもらう必要があります。
私の運営する早期緩和ケア大津秀一クリニックは、希少がんの患者さんの通院割合が多く、サポートする機会が多いです。
また院長は消化器病専門医で、消化器腫瘍に精通しています。
大概の腫瘍の緩和ケア経験があるため、引き続き早期からの緩和ケアの一拠点として、希少がんの患者さんを緩和支援していきたいと考えております。