緩和ケアと緩和医療どう違うかを解説しますが、結論として、実質的にはほとんど同じと捉えて良いでしょう。
詳しく解説していきます。
各都道府県ごとの緩和ケアを調べてわかったこと
以前、各都道府県ごとの緩和ケアを調べて特集していました。
【まとめ】都道府県別緩和ケア情報(緩和ケア病棟・ホスピス、緩和ケア外来、クリニック)
都道府県ごとに緩和ケアの状況は違いますね。
当院では遠隔診療(オンライン診療)を用いて、緩和ケアを受けられないという状況をなくすことを大切な使命としております。
ただ必要な対応が為し得れば、各地域の緩和ケア提供元に患者さんをご紹介するということが最適であることも多いでしょう。
そのため、各都道府県の緩和ケア情報を集めています。
そこで改めて、緩和ケアの名前のバリエーションに気づきました。
改めて驚いた緩和ケアの名前の多様性
目を見張ったのは、緩和ケア系の診療科の名前の多様性です。
まず最初に確認ですが、ペインクリニックや心療内科、精神科と緩和ケア科は明確に異なります。
基本的には「緩和」がついていれば、緩和ケア系の診療科です。
見つけた名前を列挙します。
◎緩和ケア科
◎緩和医療科
◎緩和ケア内科
◎緩和ケア外科
◎緩和支持治療科(緩和支持療法科)
◎ホスピス科
◎がんサポーティブケア
等々です。
大学病院だと、緩和医療科で独立していることもあれば、腫瘍内科や麻酔科の中に設置されている場合もあり、後者だとホームページでは見つけづらい傾向がありました。
以前の勤務先に在籍時から、緩和ケア部門があると思われる病院に通っておられる患者さんやご家族から「緩和ケアがない」とご相談を受けることが度々あり、このような(組織上の位置づけによる)見つけづらさも関係しているのだろうなと感じました。
ではそれぞれの名称について簡単に説明しましょう。
色々な決まりにより名称選択が影響する
厚生労働省の通知により、医療機関が表示できる科の名称は決まっています。
それなので、対外的に表示する場合は、
「緩和ケア内科」「緩和ケア外科」
としなければなりません。「緩和ケア科」や「緩和医療科」は認められていないのです。
それなので、私の診療所が「緩和ケア科」や「緩和医療科」を名乗ることはできません。
ただし、病院の部門名として、「緩和ケア内科」や「緩和ケア外科」以外を付けることは制約がありません。
各名称ごとのニュアンスの違いについて
各名称ごとに、多少のニュアンスが違います。
名称から、その病院の緩和ケアがどのようなイメージを持って為されているかも(少なくとも想定し、目指しているものは)多少は汲み取れるかもしれません。
それについて簡単に触れます。ただし個人的な見解もあるのでご容赦ください。
◎緩和ケア科
最も王道の名前。私も診療所で名乗れるならば緩和ケア科としますが、緩和ケア科は標榜できません。
緩和ケアは医療だけではなく、ケア等幅広い要素を含んでいるので、過不足ない表現ではありましょう。
◎緩和医療科
特に緩和ケアの医療的側面を重視した名称。
緩和ケアは確かに「話を聴いて支えるケア」でもありますが、適切な症状緩和薬の使用も極めて重要な領域です。
実際に、薬剤の調整で患者さんの苦痛や状態ががらりと変わることは珍しいことではありません。
医療的側面にフォーカスした名前です。
私も10年以上前に出した最初の本『死学』のサブタイトルで「緩和医療のすすめ」を名乗りました。
れっきとした医療であること、その巧拙で激変すること、そのようなまさしく医療であることを知ってもらいたかったということもあります。
なお、緩和ケアの学会の名前も「緩和医療学会」です。もう1つ「死の臨床研究会」という緩和医療学会よりも歴史が古い研究会も存在しており、緩和ケア系の学会ではこれらがメジャーです。
◎緩和ケア内科
標榜するための名前。緩和ケアは内科的な側面も強いですから、標榜するには王道でしょう。
◎緩和ケア外科
これも標榜するための名前。外科が緩和ケア部門を率いている場合に、このような名称となっている場合があります。
緩和ケアは内科的な側面も大きいので、ちょっと不思議な語感はあります。
◎緩和支持治療科(緩和支持療法科)
支持治療、支持療法=サポーティブケアです。
サポーティブケアという言葉は、一般的緩和ケア+がん治療の副作用緩和の意味で用いられます。
したがって、現在の緩和ケアの内容を考えると、これが最も適正な名前である可能性があります。
がん治療の副作用緩和も、緩和ケアの守備範囲(ただしそれがメインではない)に入ることは多いからです。
しかし「緩和支持治療科」という名前は、一般の方にはいささかわかりづらいです。
名称としては最も正しいのですが、使いづらい名前でもあります。
◎ホスピス科
ホスピス・緩和ケア病棟、と確かに並べて称されます。
一般には、キリスト教的なバックボーンがあるとホスピス、そうではないと緩和ケア病棟と呼称されています。
緩和ケアが産まれたのは、ホスピスにおいてでした。
ホスピスは、中世の頃より、病に苦しむ方にケアを提供する場として存在していました。
緩和ケアと、ホスピスケアは、少し違うという感覚が専門家の中では一般的だと思います。
似ていますが、少し違います。
特に、厳しい状況の中にある方々に、スピリチュアルな側面を重んじ、単に医療的な側面ばかりではなく、宗教的なケアなども大切にしながら、人が人らしく生きて全うできることがホスピスケアだと、ごく簡単に言うならばそうなると思います。
そのような「ホスピスらしさ」を表現したい場合は、ホスピス科となるでしょう。
◎がんサポーティブケア
がんサポーティブケアは先述のように、一般的緩和ケア+がん治療の副作用緩和の意味で用いられることがあります。
実は緩和ケアを含んでいるのですが、「がん治療の副作用緩和」の意味合いがより強く理解されているケースもあります。
緩和ケアのような知名度は一般の方にはなく、市井ではあまり言葉も普及していないのが問題点と言えるでしょうか。
まとめ
緩和ケア系の科には様々な名称があります。
提供するものは基本的には同じですが、名称の付け方でその施設が何を大切にしているかの考えはある程度推し量れます。
個人的に思うのは、緩和ケアは内科でも外科でもなく、「緩和ケア科」です。
「緩和ケア科」と、診療所の看板にも堂々と書ける日が来ることを願ってやみません。