がんは味覚障害が頻発
がんの患者さんは味覚障害が頻発します。
がん治療、例えば抗がん剤治療や放射線治療は味覚障害とも関連します。
また、治療だけが味覚障害の原因になるわけではありません。
がん自体も味覚障害に影響しえます。
慢性消耗性の病態が亜鉛欠乏を招くことなども、関連していると言われています。
尿中などへの亜鉛の排泄が3倍になっているという指摘もあります。
また血液検査での亜鉛の値が、必ずしも亜鉛の実際の状態を反映していないとも言われています。
亜鉛が欠乏すると、舌の味蕾(みらい)が障害され、それが味覚障害と関連しているともされます。
がんが非常に進行すると、味覚異常は86%に達するという報告もあります。
そのような状況もあり、しばしば繁用されているのが、亜鉛製剤です。
ご存知の方もいると思いますが、処方薬のポラプレジンク(商品名プロマック)が亜鉛の欠乏の改善に使われています(保険適用外)。
ポラプレジンク75mgあたり、亜鉛の量は16.95mgです。
なお、日本臨床栄養学会が出している診断基準はこちら。
1. 下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす
1) 臨床症状・所見 皮膚炎,口内炎,脱毛症,褥瘡(難治性),食欲低下,発育障害(小児で体重増加
不良,低身長),性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不妊症
2) 検査所見 血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値
2. 上記症状の原因となる他の疾患が否定される
3. 血清亜鉛値 3-1:60µg/dL未満:亜鉛欠乏症
3-2:60 ~ 80µg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏
血清亜鉛は,早朝空腹時に測定することが望ましい
4. 亜鉛を補充することにより症状が改善するDefinite(確定診断):上記項目の1.2.3-1.4をすべて満たす場合を亜鉛欠乏症と診断する.
上記項目の1.2.3-2,4をすべて満たす場合を潜在性亜鉛欠乏症と診断する.
Probable:亜鉛補充前に1.2.3.をみたすもの.亜鉛補充の適応になる.
亜鉛欠乏の治療指針は下記です。
亜鉛として成人50 ~ 100mg/日,小児1 ~ 3mg/kg/日または体重20kg未満で25mg/日,体重20kg以上で50mg/日を分2で食後に経口投与する.症状や血清亜鉛値を参考に投与量を増減する.
慢性肝疾患,糖尿病,慢性炎症性腸疾患,腎不全では,しばしば血清亜鉛値が低値である.血清亜鉛値が低い場合,亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがある.したがって,これら疾患では,亜鉛欠乏症状が認められなくても,亜鉛補充を考慮してもよい.亜鉛投与による有害事象として,消化器症状(嘔気,腹痛),血清膵酵素(アミラーゼ,リパーゼ)上昇,銅欠乏による貧血・白血球減少,鉄欠乏性貧血が報告されている.血清膵酵素上昇は特に問題がなく,経過観察でよい.亜鉛投与中は,定期的(数か月に1回程度)に血清亜鉛,銅,鉄を測定する.血清亜鉛値が250µg/dL以上になれば,減量する.また,銅欠乏や鉄欠乏が見られた場合は,亜鉛投与量の減量や中止,または銅や鉄の補充を行う.
亜鉛欠乏→味覚異常というのは、比較的よく周知されてきています。
一方で、味覚異常があると、すぐに亜鉛を処方されて、それでおしまいというケースも散見されるようになりました。
それではいけません。
気をつけるべきこと、何でしょうか?
それは口腔内のチェック
重要なことは、口腔内のチェックです。
しっかりと口腔ケアができているでしょうか?
口腔内の乾燥や不衛生が味覚異常に関係すると指摘されています。
それをしっかりと対処していなければ、いくら亜鉛を使っても改善は遠いです。
口腔内の乾燥
アルコールは乾燥の元になるので、アルコールの摂取やアルコール入りの洗口剤は避けるのが良いでしょう。
乾燥の対処は保湿になりますが、頻繁なうがい(1日3〜8回程度)が良いとされています。
保湿剤や人工唾液も使えます。
抗がん剤治療等で食欲がなく、食事をしていない時もあるかもしれませんが、うがいは保湿だけではなく清潔の意味でも重要です。
アルコール入りのうがい液しか持っていないという場合は、500mlの空のペットボトルに水を500ml入れ、4.5gの食塩を入れれば生理食塩水ができます。それでうがいをするという方法もあります。
口腔内の清潔
上記のようなうがいと、歯磨きが重要です。
歯磨きは1日3回で、朝・昼食後と就寝前に行いましょう。
粘膜を刺激しすぎると口内炎などの元になるため、小さいヘッドで毛先が柔らかい歯ブラシが良いとされています。他にも、力が入りすぎないようにペンの持ち方で磨くと良いです。
当然のことながら、口内炎などがある場合は、その部位は刺激しないようにし、周囲の歯茎は磨くのが良いでしょう。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症は味覚障害の原因になっていることがあります。
舌や口腔粘膜に白色の付着物が認められることが多く、自分でも気にしていればわかると思います。
心配な際は、主治医やかかりつけの歯科医に相談しましょう。
軽症だと、前述したような口腔ケアのみで改善するとされます。
中等症以上だと、抗真菌剤のうがいが有効です。
ケナログやデキサルチンなどのステロイド軟膏は、悪化を招くので注意しましょう。
口腔カンジダ症が味覚障害の原因になっている場合は、それを改善させると味覚障害も良くなります。
味覚障害、亜鉛を服用する前に口腔ケア
このように、味覚障害を亜鉛欠乏と決めつけて亜鉛補充で機械的に済ますのではなく、十分な口腔ケアの併用あるいは先に行うことが重要です。
特に口腔カンジダ症などの改善可能な病態が隠れている時はそうです。
がん治療中などは、食欲が低下したり、倦怠感があったりしますから、口腔ケアの実施が不十分になりがちです。
けれどもそれ自体が、より味覚障害や、口腔内の状況の悪化を招きますから、歯磨きができなくてもせめてうがいは励行したいものです。
口腔を良い状態に保つことが、がん等の治療成功の一要素であると考えて、しっかり取り組んで頂くのが良いでしょう。