珍しい緩和ケアの専門家+老年病専門医が解説
私は緩和ケアの専門家ですが、老年病専門医も持っている数少ない緩和ケア医です。
現在は早くから緩和ケアを行う早期緩和ケアを中心の仕事としていますが、非常勤先では終末期の方や、施設に入居されている高齢者の方も拝見しています。
これまで2000人以上の方を看取ってまいりました。
そのご高齢の方の緩和ケアに精通している立場から解説します。
なお、タイトルは老人としていますが、どうもその名前でお調べになっている方が多いからあえてこの言葉を使用しています。
親御さんのこと等でお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。有益な情報を提供したいと思います。
老人の緩和ケアと病気
上の図をみてください。
病気の高度進行期に緩和ケアが必要となる病気が列挙されています。
AIDSはともかくとして、ほとんどが高齢者の方がなる病気です。
がんも基本的には年齢とともに増えます。
そのため、高齢になると緩和ケアが必要な病気になる可能性が高まります。
またさらに難しいことに、これらの病気が複数併存するのは珍しくなく、当たり前にあることです。
したがって、一つの病気だけではなく、身体全体に目配せした治療を受ける必要があります。
他の高齢者の医療における問題点を列挙しました
わかりやすくするため様々な問題点を下に列挙します。
① 十分な食事・運動療法が必要
昔は高齢者は少ない食事でも良いかのように捉えられていた時期がありました。
最近は考え方は真逆になっています。
つまりしっかりとした栄養を摂取し、運動も筋力トレーニングも含めて行い、サルコペニア(骨格筋量と骨格筋力の低下)やフレイル(加齢による衰弱)を予防することがとても大切です。
② なかなか新しいことに踏み出すのが容易ではない
全般的には、新しくより良いことに取り組むのが容易とは言えないのが高齢の方だと拝見していて感じます。
もちろん個人差はあります。
過度なストレスにならない範囲で、しかし、より良い生活習慣や予防を目指していただくことは重要です。
しかもそれは、病気になってからも重要なことです。
変化には時間がかかるので、腰を落ち着けて取り組む必要があります。
③ 人の言うことになかなか耳を傾けないこともある
性格にもよるので、一概に年齢では言えないと思います。
けれどもこれまでの人生で培ったやり方がありますから、なかなかそれを変えるのが難しいのは当たり前だと思います。
例えば医師との関係においても、(昔の医師患者関係そのままに)唯々諾々と言われるがままに従ったり、「先生におまかせします」と言って内容に無関心だったり、その逆に十分な理解がないままに治療をしない等の決断をしてしまってその後のこと等の準備ができていなかったり……等の様々な問題を生じやすいのも一つの特徴と言えます。
基本的にはご家族のサポートが必要だと考えられます。
④ 薬の副作用に注意が必要
高齢になると代謝も変化しますから、同じ薬剤でも副作用が大きく出る可能性があります。
また若年者には、例えばベンゾジアセピン系睡眠薬を用いても、それほどせん妄になりませんが、高齢の方の場合だと高率にせん妄になったり、転倒したりすることもあります。
不要な薬剤投与はできるだけ控えることが大切です。
一方で、持続する症状に対してなんら薬剤を用いないと、それはそれで症状が改善せず、二次的な問題を引き起こすこともあります。
例えば高齢者のせん妄でも、抗精神病薬によるせん妄改善(★通常の治療です)に関して、抗精神病薬自体は患者さんにとって良くない可能性がある<例えば認知症のケースでは死亡率上昇への関連が指摘されています。他にRisk of death with atypical antipsychotic drug treatment for dementia: meta-analysis of randomized placebo-controlled trialsなど>一方で、夜間の混乱が強いのに一切抗精神病薬を使用しないと、転倒や怪我などにつながりそこからまた消耗状態が深まる……ということもないとは言えまえん。
「そう、どちらにせよ難しい」のです。
このことを理解しての繊細な薬物調整が必要とされ、内科的な知識がとても重要になります。
⑤ 社会的支援体制の脆弱性へも目配せが必要
介護力が十分ある高齢者の世帯ばかりではありません。
独居や老老介護の場合もあります。
すると、いくら食事・運動指導や、服薬指導を行っても、一切やっておらず、また服薬も適当になっている……というケースもあります。
医学的な点のみや理想だけを追求するのではなく、現実的な実行可能な方法を突き詰めてゆく必要があります。
以上のようになります。
このように考えてくると、高齢者の医療の難しさがご理解頂けるのではないでしょうか。
これらを総合的に理解して、繊細な治療決定及び方針の策定、そして情報共有が必要になります。
選び方次第では大変なことになる施設・医療
さて、述べてきたように、高齢者の医療や緩和ケアは容易ではないものです。
そのため、どの医療機関にかかるのか、あるいはどの施設に入るのか、ということは極めて重要になります。
正直な話、それによっても激変します。
ただ非常に難しいのですが、外部からはなかなかそれはわかりません。
そのため重要なこととして、例えば施設ならば「合わなければ移る」ことを前提に考えたほうが良いでしょう。
また施設に入った後も、あるいは家で、在宅医を導入する場合は、比較できる場合は複数話を聞いて相談して決めたほうが良いでしょう。
超高齢者の場合は、特段何か病気がなくても、何らかの事象が起こることで急に衰弱することがあります。
すると、食べられない、動けない、という問題がいつか必ず出て来ます。
そのような場合に、ご自身は、あるいはご家族はどうしたいのかを事前によく話し合い、医師や施設と面談・相談する時には、その希望をはっきり伝えることです。
その上で、実際にそのような状況になった際には、どう対応しているのかを尋ねることは参考になるでしょう。
例えば食べられなくなった際の胃ろうや鼻からのチューブ、点滴など、相談することは様々にあるでしょう。
まとめ
高齢者の医療は、何をどこまで行うのかということが難しい問題です。
しかも、ご本人の意思がはっきりしない、「任せる」としか言わない等の話もよく聞くところです。
私も、親御さんが認知症や老衰で胃ろう・胃管をどうするか等のご相談をしばしば受けます。
薬の数が多ければ、当然様々な問題を起こしえますが、逆になければ良いというものでもなく、その取捨選択にも十分な内科・老年科の知識と経験が必要です。
がん治療においても、何をどこまで行うかの判断はしばしば難しくなりますし、また薬の諸調整にも繊細さが必要となります。
先述したように、医療機関や施設による差が大きいですので、老年者の医療やケアに習熟しているそれらを選択し、また緩和ケアにおいても老年の方への治療経験が多い医療者を選ぶのが良いでしょう。