【2020年2月8日更新】
乳がんの症状緩和
乳がんは一生涯に14人に1人がかかると言われる、珍しくない病気です。
乳がんと一口に言っても、早期や進行期、高度進行期でもかなり異なります。
また乳がんは、ホルモン受容体陽性か陰性か、HER2陽性か陰性か、がん細胞の増殖能力が高いかどうか等によって治療も変わります。閉経前か閉経後かによっても違います。
他のがんもそうですが、進み具合や状況、治療には多様性があります。
それぞれの進み具合における緩和ケアを考えましょう。
なお緩和ケアは末期だけではなく行うのが大切になっていますので、早期乳がんや局所進行乳がんにも緩和ケアは存在します。
早期乳がんの場合
早期乳がんの場合は、治るための治療になります。
腫瘍の大きさ等によって異なりますが、基本的に手術、術後放射線治療、術前・術後の化学療法が行われます。
化学療法も使う薬剤によって副作用が異なるので、抑えられる副作用はしっかり緩和することが大切です。これを緩和支持治療(支持療法)と呼びます。
手術後も化学療法やホルモン療法が行われます。
ホルモン療法は5~10年に及びます。
治療も長期化しますし、時間をおいての再発もないわけではありません。
うつのリスクもありますので、継続的に留意する必要があります。
一般人口における乳がん罹患女性723810人を対象とした多国間研究
上記のような研究もあり、自殺の危険性は診断後いずれの時期においても一貫して高く、がん罹患後25年以上経過しても同様と指摘されています。
がん診断時のがんの病期が進行した状態ほど、自殺率も高くなっていたと示唆されています。
一般に、がんの早期緩和ケアが目指しているのは、生活の質の向上のほか、うつの予防、生存率の向上です。
早期乳がんの場合の緩和ケアは、不安等の心理的問題や生活上の問題の改善支援を継続的に行うことで、上記のような良い結果を求めていきます。
局所進行乳がん(ステージⅢB,ⅢC)
術前化学療法ののち、腫瘍やリンパ節の縮小が認められれば、手術や放射線療法などの局所治療の追加が検討されます。
局所進行乳がんも、根治を目指します。
手術や術後放射線療法の後に、HER2陽性のケースでは分子標的薬(トラスツズマブ)の投与、ホルモン受容体が陽性のケースではホルモン療法が続いて行われることがあります。
進行した状態からの治療なので、一般に心身の負担は相対的に大きいです(それが前述の自殺率の相対的な高さに反映されている可能性があります)。
局所進行乳がんでも予後が他のがんと比べて悪いというわけでありませんが、早期乳がんと同様に、不安等の心理的問題や生活上の問題の改善支援を継続的に行います。
一般に、がんの早期緩和ケアが目指しているのは、生活の質の向上のほか、うつの予防、生存率の向上ですが、局所進行乳がんも早期緩和ケアによるそれらの効果を目指します。
(手術不能の)再発・遠隔転移ありの乳がん
再発・転移がわかったときのショックや心理的負担の程度は、最初にがんと診断されたときよりも強いとされます。
また根治不能となれば、基本的には腫瘍は進行し、それに伴う様々な症状が出てくるようになります。
一般の方にもイメージしやすい、緩和ケアが必要な時期です。
ただし、再発・遠隔転移ありの乳がんが、即末期というわけではありません。
当然のごとく、末期ではなくても、緩和ケアの適応となります。
疾病に対する治療としては、ホルモン療法や抗がん剤治療などが行われます。
完全に治るのが困難な状況となった際の治療の目的は、生活の質が保たれながら、できるだけ延命することです。
それによって人生のタスクが道半ばとならないように支援します。
進行した乳がんの緩和ケアについては下記のリンクで述べました。
下記のような症状が出現することがあります。
皮膚浸潤の痛み
がん性リンパ管症→呼吸困難
がん性髄膜炎→精神症状
吐き気
不安
抑うつ
リンパ浮腫
さらに病気が進んだ場合の、生命に関係することとなる末期乳がんの諸症状については下記で述べました。
がん性リンパ管症からの呼吸不全、がん性髄膜炎、高度肝転移からの肝不全などが起こってきます。
万一、余命が数日となり、上記の諸症等で身の置き所がない状況になれば、鎮静の適応が生じます。
できれば鎮静が検討される前に、十分なコミュニケーションが図れると良いでしょう。
まとめ
早期や局所進行乳がんにおいては、完治を目指し、それをアシストする(抗がん剤等の治療の副作用対策を含めて)早期緩和ケアが適応となります。
切除不能の再発や遠隔転移症例においては、一般的な緩和ケアが適応となります。ただそれは末期だからというわけではなく、例えば骨転移等による痛みが出現した際も、専門家による十分な緩和治療・ケアが必要だからです。
末期の乳がんにおいては、症状緩和を徹底します。最後は鎮静が必要になることもあるでしょう。鎮静は緩和ケア医が専門家です。
以上より、乳がんの全病期・状態において、緩和ケアを受ける適応があります。
特に、早期や局所進行例では、継続定期受診が良い効果を生む可能性について指摘されているため、早期緩和ケアの良い適応となるでしょう。一定以上進行した例では、もちろん全例緩和ケアの適応です。