抗がん剤治療中は安静に……は過去のもの
抗がん剤治療中は安静に、そのような考え方が以前はあったかもしれません。
けれども、現在それは過去のものになっています。
様々なデータが解き明かしてきたのは、人は基本的に身体活動を保つべきである、ということです。
特に、ご高齢の方にとっても栄養と運動が大切なことは近年特に叫ばれています。
生きている間は、残念ながら、なかなか休めないのです。そしてそのほうが、心身の衰えを少なくし、ハッピーに生活することにつながります。
抗がん剤治療中も消耗しやすい状況ですが、だからこそ安静にするのではなく、だからこそ栄養補給と運動を十分に行い、消耗をできるだけ減らす……と以前と考え方が変化してきているのです。
抗がん剤治療中の運動はメリットが多い
全般的には厳しめの結論が多いコクランレビューにおいても、下記のような結論がそれぞれ提示されています。
【乳がんの術後抗がん剤治療中の運動】
・疲労を少なくし、体力を改善。認知機能がわずかに向上する可能性
・有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングとの両方が有益
【乳がんの抗がん剤治療後の運動】
・健康関連の生活の質、身体的および社会的機能、不安、心肺機能、身体活動に好影響
【手術を含むがん治療中の全がんの患者さんの運動】
・運動は害ではなく、疲労を減らす可能性
【非小細胞肺がんの肺切除術後12か月以内の運動】
・運動能力および筋力を増加させ、呼吸困難を減らす
等と結論づけられています。他の研究でも、
【運動による長期的な好影響 乳がんと大腸がん】
・抗がん剤治療中に運動していると、4年後の身体活動水準も高かった
・運動内容は理学療法士の指導で週2回行う中等度から強度の有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ1回60分、および週3回の家で行う運動1回30分。18週間施行
【抗がん剤治療当日に運動してもらう 乳がん】
・抗がん剤治療当日に運動する群としない群では、前者のほうが運動性末梢神経障害が少なく、身体的健康スコアが高い
・当日運動群のほうがその後も運動を止める率が低く継続性が高い<対照群12.4% vs 運動群6.9%>
このように、様々な良い効果が示されています。抗がん剤治療当日まで運動させる研究には度肝を抜かれますね。それでも良い結果が出ているのです。
なお内容に関しては、有酸素運動と筋力トレーニングの双方が必要です。
『「がん」になってからの食事と運動』という、アメリカの対がん協会が出しているガイドライン(2012年第4版)では、1週間に150分以上の運動と、1週間に2日以上の筋力トレーニングが推奨されています。
かと言って、倦怠感が極度に強い時期までやみくもに運動しなくて良い
倦怠感緩和にも運動が有効と述べました。
「よし、じゃあ抗がん剤治療後のだるさ(倦怠感)が強い時期でも、はってでも運動するぞ!」と思った皆さん、ちょっとお待ちください。
そうは言っても、抗がん剤治療後数日から1週間程度は、だるさが強い時もあると思います。
そのような時まで強迫的に運動にいそしむ必要はないと考えます。
自然にだるさも改善されるので、それが強い時期は運動量を調節することも大切です。
なお、倦怠感の対策は下記となります(一部拙訳)。
◯倦怠感の水準をモニタリングする
◯すべきことの優先順位を決める
◯ペースを整える
◯任せられることは人に任せる
◯エネルギーが高い時間にやる活動をリストアップする
◯器具を使って労力を減らす
◯不要不急の活動は後回し
◯昼寝は45分以下(★2018年版では1時間未満)
◯スケジュールに基づいた日課を行う
◯一度に取り組む活動は1つにする
◯気晴らしをする(ゲーム、音楽、読書、社交活動等)
このようにエネルギー配分を考えて行動することが良いとされています。
もちろん家事等を行うのも身体活動の一環です。
臥床よりは起居(立ったり座ったり)、起居よりは歩行、ということで無理のない範囲で(だるさが強い時期は)取り組めば良いでしょう。
また抗がん剤等の治療中は特に、菜食主義・過度の食事制限等の誤った栄養対策を行って運動だけしていると、あっという間に筋肉量が減るので注意が必要です。
栄養療法を並行しなければ運動療法のメリットは得られ難いです。ここは大切な点です。
まとめ
最近私はむしろ「運動しなくちゃいけないのに、今日はだるいんです!」という相談を受けることも多いです。
皆さんたくさん情報収集され、意識が高いのです。
一方で人間は機械ではありません。
治療を受けていればなおさら思うようにいかない側面もあります。
休むべき時は休んでも、全体的な対策がしっかりしていれば取り戻せます。
強迫的になると、心身が消耗します。
長い目で取り組んでいきましょう。
なお倦怠感もだるさも、よく医療者と相談することが大切であり、話し合うことによってもだるさなどは改善の芽が生じます。
早期からの緩和ケア外来なども用いて、治療の負担は最小に、心身の消耗も最小に、治療を受けていただくのが良いと考えられます。