緩和ケアといってもいろいろ
何度も触れていますように、国の方針で緩和ケアが奨励されています。
問題は元々専門家も少なく、したがって指導者も少ない中、「緩和ケアをしていない」とすると不利に映り、「緩和ケアをしている」と表現すると有利になる環境が次第に進んで来ていることです。
もちろん独学でもある程度までできるようになるのは事実です。
ただ緩和ケアは様々な場所で提供され、それぞれの場を学ぶことで見えてくるものもあります。
多様な診療形態を経て来た自分としては、(緩和ケアチームではなく)緩和ケア病棟と在宅を経験しているのが望ましいと考えます。
それも短期間ではなく、良い点だけではなく、問題点まで把握できるというと、常勤1年は最低必要だと思います。
なぜその2つかというと、それぞれに特徴があるからです。
さて、インターネットを検索すると、「緩和ケアを行っている」というクリニックはよく見かけます。
なかにはがん治療クリニック(免疫チェックポイント薬ではない免疫治療を行うクリニックなども含まれる)も、緩和ケアを目玉にしていることもあります。
しかし、先述したように緩和ケアに関してはまだまだ施設差があります。
緩和ケアをそのクリニックがしっかり提供しているのかを確かめることが大切です。
その際に、医師の経歴はある程度参考になります。
重要なのは、緩和ケア病棟及びホスピスの勤務歴と、在宅医療の勤務歴です。
在宅医療から緩和ケア病棟に再度就職することは少ないので、在宅緩和ケアを提供しているとする医師の経歴に、緩和ケア病棟やホスピス常勤勤務歴があるかどうかは参考になるでしょう。
(もちろん経歴とは関係なく素晴らしい臨床を行っている医師もたくさんいます。専門家と名乗っている場合の見極め方は上記となります)
緩和ケア病棟・ホスピスと在宅における緩和ケア
緩和ケア病棟及びホスピスは、専門病棟だけあって、医療資源をがんの患者さんにフルに投入できる点に特徴があります。
緩和ケアは全人的医療であり、身体的側面ばかりではなく、精神的・社会的側面、そしてスピリチュアルな側面まで考慮して、治療・ケアにあたることが重要です。
では、それがはたして実践できているか。
一番実践しやすいのは、人員と時間が相対的にはある、緩和ケア病棟やホスピスです。
緩和ケアチームは病院によって人員不足だったり、大病院だと患者さんを診る以外の仕事が多く、全人的に介入できている場合ばかりではありません。
一人の患者さんを、全人的にとことん緩和ケアの側面から診療するという緩和ケア病棟やホスピスでの勤務歴は、緩和ケアの力量を上げるのに最適な場です。
実際、ある緩和ケア医の先生は、「やはりホスピス経験があると良い」と言っていました。
特にホスピスでは宗教的な側面からのアプローチも行われ、学びになるところが大きいです。
一方で、在宅緩和ケアも大変勉強になります。
確かに、在宅には相対的に苦痛が少ない患者さんも多く、「医療用麻薬の持続注射は不要」「鎮静は不要」と一部の在宅医の先生が仰る意味もわからないこともありません。
私もホスピス経験だけだったら、「なぜ先生方がそんなことを言うのだろう・・・?」と理解できなかったでしょう。
しかし、それらの処置が緩和に有効で必要な患者さんもいることは間違いありません。
したがって、在宅医を中心にやってきたら気が付かなかったことが、ホスピス医と在宅医の双方を経験したので見えたのでした。
こうしていろいろな施設で勤務すると、それぞれの長所や弱点が見えます。
統合的な視点で、最良の施設を眼前の患者さんに提案しやすくもなるのです。
がん緩和ケア(含がん治療)のクリニック選びの要点
基本的には、緩和ケアの本当の専門家の数はすごく少ない、と思って頂いて良いでしょう。
その中でも、特に在宅「緩和ケア」を表示されている場合、あるいはがん治療クリニックで「緩和ケア」を表示されている場合、勤務歴をよくご覧になって確認すると良いと考えます。
緩和ケア病棟やホスピスでの複数年勤務歴があれば、緩和ケアに関しては一定以上の経験を積んだことの証明にはなるでしょう(1年程度だと研修だけという場合もあるため)。
なぜこのようなことを書くかというと、裾野が広がったことの半面として、緩和ケア医と言えるのかどうか難しいところの「緩和ケア医」を表示するクリニックが増えたからということもあります。
苦痛は個人差が大きいため、ある程度の緩和ケア技術があれば、穏やかに過ごせる方も一定の割合でいます。
そのようなケースでは、医師の人柄優先で選んでも問題はありませんが、難しいケースの場合は如実に差が出ることがないとは言えません。
緩和ケアが自身にとってどれくらい重要なのかを考え、かなり重視するのならば、相応の経験を持つ医師にお願いするのが良いと考えます。