東京や大阪等の大都市にはがんクリニックはたくさんある
この記事をご覧の皆さんの中には、良いがんのクリニックを探しておられる方もいらっしゃるでしょう。
東京にもがん専門のクリニックは多くあり、その見分け方の一つを紹介したいと思います。
「先生、◯◯クリニックを知っていますか?」
聞かれることはよくあります。
これまで数多くの方を診療してきましたから、いろいろな名前は知っています。
けれども、それでも聞いたことがない名前に出会うこともあります。
それくらいたくさんあるということですね。
ただ、もちろんのことですが、がんクリニックと記してあるといってもいろいろです。
それを事前に知っておくことは大切です。
そして、がんクリニックに何を求めるのかをはっきりさせておくことです。
なぜかは後述します。
標準治療はいまいちなのか?
最近たくさんの論者が述べるようになりましたが、標準治療というのは実は相対的に安価で、科学的にも効果が証明されている良い治療です。
日本における標準治療すら、保険がカバーしてくれない国もあるので、日本は標準治療が保険でできるということはすごく良いことだと思います。
私は必ずしも標準治療だけを推進しているわけではありません。
例えば、胸水へのステロイド使用は、臨床的に効果があることを発表している医師は複数いますが、科学的根拠の高い研究が行われていないために、ガイドラインにも載っていません。
けれども、効く例が確かにあるために、私は使用します。
それなので、標準治療以外一切認めないという立場ではありません。
その視点からしても、標準治療は良い点がたくさんあります。
標準治療だからといって、劣るとか並とかではないことは知っておかれると良いでしょう。
標準治療のクリニックか非標準治療のクリニックか
がんクリニックを表示しているクリニックを判断する時は、まずは「標準治療が中心のクリニック」なのか「非標準治療が中心のクリニック」なのかを見極めることが大切です。
基本的には、非標準治療が中心のクリニックには緩和ケアの本当の専門家が在籍していることは非常に珍しいので、早期からの緩和ケアや、病状が進行した際の緩和ケアが受けられないことが多いです。
また非標準治療のクリニックは、科学的な裏付けが強いランダム化比較試験(一般の方に説明される際にはくじ引き試験などとも言われます)を経ていない治療が中心のケースもあり、するとそれは一種の「賭け」であると言えます。
治療の効果を評価する研究の信頼度水準の高低で、科学的な根拠は決まっていきます。
どのような研究が信頼性が高く、どれがそうでもないかは拙著「1分でも長生きする健康術」で詳しく記しています。
例えば、「10人にこの薬を使ったところ、8人に効果を認めた」というような結果は、信頼性はすごく低いです。
プラセボ(良いと思って使うと実際に良い効果を得られる)効果が否定できないからです。
私もよく外来で相談に乗っていますが、研究の読み方には慣れと冷静さが必要なので、わからなければご相談頂ければと思います。
いずれにせよ、たいして科学的な効くことを示唆する背景がないにもかかわらず、値段は高額な治療はたくさんありますので、注意が必要です。
次のようながんクリニックは注意が必要
たくさんありますが、
Ⅰ 適応外の抗がん剤や分子標的薬、オプジーボやキイトルーダ等の治療を自費で行うところ
Ⅱ 2019年現在効果が確認されている免疫チェックポイント阻害薬ではない免疫治療中心のところ
Ⅲ 食事でがんが治ると謳っているところ
Ⅳ ビタミンC大量療法(→プラセボとの比較試験を欠いているので、どれだけ寄与するかは不明確とアメリカ国立がん研究所のホームページに記載)や温熱療法(→標準治療になるためにはまだまだ研究が必要なことがアメリカ国立がん研究所のホームページに記載)などの効果を過剰に伝えているところ
などが挙げられるでしょう。
標準治療は名前が良くないので勘違いされていますが、一定の確率で効く可能性が研究という手続きで証明されている治療です。
それなので、様々にある治療の中では、勝算が相対的に高いのです。
それ以上の治療は、言ってみれば「おまけ」の可能性があります。
ただ、単なるおまけならば嬉しいだけですが、欠点もあります。
それは……
① 数百万円もかかるなど経済的な負担が強いものがあること
② それ自体の副作用なども当然出現する可能性があること
③ 極端な食事療法など、信じることが健康を害するものもあること
④ そもそも効かない病態に、効果を信じて副作用のある治療を希望して受けて逆の結果となってしまうこと
などが挙げられます。
これらの治療は、非常に高価なものもある一方で、標準治療と併用することの効果は明らかではないです。
また体が非常に弱っている際は、副作用が致命的になることもあります。
間質性肺炎なども要注意です。
適応外の抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬等による治療を、終末期に行えば死の危険があります。
このように、これらの非標準治療は、あくまで標準治療をしっかりやっている場合に、上述のリスクもあることを認識した上で、トライするかしないか、というものでありましょう。
科学的な根拠もあってお金をかけないことを考えるならば、プラスアルファの治療は必要ないので、がんクリニックにかかる意義は乏しいです。
いやいや、プラスアルファがあるのではないか(★ただし、それは科学的にはあまり証明されていませんが)と望まれて、経済的な要素や心身に問題がなければ、がんクリニックの門をたたくのも良いでしょう。ただしくれぐれも、非標準治療だけで良いとか、誤ったやり方に心を絡め取られないことです。
なお、私も「先生だったら何をやりますか?」と尋ねられますが、「何もやらないと思います」と伝えて驚かれることがしばしばあります。効かないのに大金を払うのは、私は嫌です。ただ、それはあくまで私の考えなので、公平に相談に乗ることを専門家としては心がけており、私的な感覚が助言に反映することはありません。
もちろん経済的な要素や心身に余裕があれば、やってみることは個々人の自由です。
ただ、結果は上述のように保証されている度合いが低く、アメリカ国立がん研究所など信頼度が高い機関は、過不足ない評価を行っており、そこでの記載(★上のⅣというところでリンクを貼っています)が妥当なものでしょう。
クリニックや病院を探すときに頼りになるのは?
がん等の治療は、基本が大切です。
基本の情報を得るための場所として患者会や早期緩和ケア外来があります。
ただ最近は、特定の医療機関とのつながりが強い患者会もあるので、何も情報武装しないで行くと、思わぬ方向に行ってしまわないとも限りません。
その点で、がんの最新の標準治療や全身に詳しい早期緩和ケア医がいる緩和ケア外来にかかることは、安全性が高く、ひいては誤った観念に囚われて決断を誤ることから生じる縮命を防いでくれるでしょう。
がんクリニックはたくさんありますが、自分のニーズに合わせて適切に使いこなす必要があります。
そのために、緩和ケア外来で相談してみるという手段があることは知っておいて良いでしょう。