痛いときだけ使うのはダメ?
正直な話、がんの痛みの患者さんに医療用麻薬を使うのは、安全性も高く、何ら怖くありません。
中毒やくせにもなりません。
意識が変容したり、性格が変わったりもありませんし、眠りこけることもありません。
イメージと裏腹に、有益でリスクの低い治療なのです。
けれども、まだまだ一般には、モルヒネなどの医療用麻薬を怖がる風潮があります。
しばしばテレビ等のメディアで、モルヒネなどの麻薬の乱用によって大変な状況になっている諸外国の状況が報じられたりすると、余計に恐れが生じることもあるでしょう。
ただ、諸外国と日本はかなり状況が違います。
・ アメリカ等のように痛み止めとしてがん以外の痛み止めに使うことはまだまだ躊躇があります(★これは、それでOKです)
・ 医療用麻薬ではない違法薬物としてのモルヒネ等のオピオイド(麻薬)が非常に蔓延しているというほどではない
そのような状況があります。
医療用麻薬を、がんではない痛みにみだりに使ったり、何でもかんでも症状に使用したりすれば、弊害が大きくなる可能性があります。
依存などに進展することもないとは言えません。
また違法薬物としての使用は論外です。
このようなやり方ならば、当然健康に大きな問題を発生させ、生活や社会に負の影響を与えます。
ただしこれは「日本の患者さんががんの痛みで医療用麻薬治療を受ける場合には、ほとんど関係ない話」なので注意が必要です。
ただそのような話を聞いていれば、躊躇が生まれるのも当然でしょう。医療用麻薬をできれば使いたくないという患者さんから時々出て来る希望が「頓服ではダメですか?」というものです。
頓服にもメリットがあります
頓服で使うメリットが存在する場合もあります。
内臓痛などの場合は、少量でも医療用麻薬使用による緩和効果を如実に感じられることも多いです。
そのため、何度か使っていただいて、医療用麻薬が怖くなく、よく効くものだということを実感してもらうと、本格的な開始をするに当たって安心して臨めるということが挙げられるでしょう。
患者さんによっては、そのような方法が向いている場合もあります。
しかし、頓服が向かない場合もあるのです。
頓服方式で良くないこと
がんの痛みではない場合は、そもそも頓服方式があまりふさわしくないと言われています。
がんの痛みの場合も、定時での使用は基本です。
痛みを頻繁に感じていると、より感じやすくなるケースもあるため、痛みはできるだけ抑えたほうが良いというような説明が為されることもあります。
ただ、定時方式の投与が向いているのは、それだけの理由ではありません。
それは下図を見て頂ければわかります。
なお痛い時に頓服で追加で飲む医療用麻薬を「レスキュー」と呼びます。
内臓痛などの場合は、オピオイドがそれほど多い量でなくても、よく効く場合もあるので、当てはまらないケースもありますが、上図のように頓服だけだと基本的な量が不足しており、そもそも効きが良くない、ということがあるのです。
そのため、例えば上図のaやbのような痛みに、
「良く効きますから、頓服ででも使ってみてください」
と勧めて、「そんなに先生が言うならば、よく効くかな」と思い切ってチャレンジしても、たいして効果が得られない場合があるのです。
すると、「医療用麻薬は効かない」という体感やイメージが形成されてしまいます。
実際は、上図の青線まで定時薬で濃度を上げれば、効くかもしれないのにです。
頓服だけだとこのようにそもそも量が不足しているケースもあり、骨転移痛や神経の痛み(神経障害性疼痛)などの場合はしばしばそのようなことがあります。
がんの痛みの場合は、基本的には定時薬を使って、その上で頓服薬(レスキュー)を適宜痛い時に追加で服用するというのが最適であることは知っておかれても良いでしょう。
医療用麻薬やモルヒネを痛い時だけ頓服で使うのは正しいかについてのまとめ
がんの痛みの場合は、モルヒネ等の医療用麻薬を痛い時に追加して服用するのは標準的なやり方です。
痛い時に追加する薬剤は速効性がないといけないので、オキシコドン(オキシコンチン)やMSコンチン、フェントステープなどのゆっくりと効く薬剤は選択肢になりません。
オプソ(モルヒネの速放製剤)やオキノーム(オキシコドンの速放製剤)などが使われます。
ただ、それ「だけ」だと基本的な薬物濃度が不足して、効果が今ひとつと感じるかもしれません。
また定時薬を始めたとしても、最初は濃度が足りずに、期待したほどの効果を得られないこともあります。
モルヒネなどの医療用麻薬は「基本増やして適量を見つける薬剤」です。これは忘れてはならないところです。
頓服だけだと効果がいまいちでも、定時薬を設定して増やせばそうでもないこともありますので、まずは適量への増量や調整が肝要です。
がんの痛みの専門家は緩和ケア医です。
まずは担当医に痛みの緩和を相談し、それでも症状の改善が今一つの場合は、一度緩和ケア医に相談してみるのが良いと考えます。