吐き気や気持ち悪さは様々な原因から生じる
がんの患者さんの場合、吐き気や気持ち悪さは多様な原因から生じます。
一般的に、私たちがよく経験する吐き気は食あたりなどの、胃や腸などの消化管が原因の吐き気です。
しかしがんの患者さんのケースでは、このような消化管由来の吐き気(末梢性の吐き気)以外の原因でもしばしば吐き気になります。
抗がん剤や医療用麻薬などによる吐き気は、脳内の受容体が刺激されて、症状が出現していることもある(中枢性の吐き気と言う)のです。
そのような時に、胃腸を動かす一般的な吐き気止めを使っても、あまり効かないことが多いです。
次なる対策が必要になります。
とはいえ、抗がん剤の吐き気対策は進歩している
一方で、抗がん剤による吐き気への対策は従前よりかなり進歩しています。
ドラマやTVのイメージで、ゲーゲー吐くのではないかと心配される方もいますが、そのようなケースは通常のがん治療病院では稀になりました。
しっかりとした対策が施されていることも多いので、それでも吐き気や気持ち悪さが出る場合は、その他の理由を考える必要があります。
他の原因もしっかり除外する
例えば、S-1などの消化器症状が出やすい抗がん剤では、そこから嘔気が出ている可能性もあります。
製薬会社のサイトによると悪心は27.6%で出現しており、初発時期の中央値は悪心15日、嘔吐23日、消失までの日数の中央値は悪心13日、嘔吐7日でした。
それなりに長引くのですね。
https://www.taiho.co.jp/medical/brand/ts-1/cse/cnt01.html
他、がんが進行すると骨転移の有無とは関係なく出現する高カルシウム血症も吐き気の原因になります。
吐き気は複合的な原因に依ることも多いですから、可能性があるものは全て挙げ、それぞれへの対処を考えます。
抗がん剤治療中は、ステロイド、5HT3拮抗薬、場合によってはNK1受容体拮抗薬などの吐き気止めは出ていることが多いですから、もしそれでも吐き気が出ている場合は、他の系統の吐き気止めで対策する必要があります。
オランザピンやロラゼパム
シスプラチン投与中の処方は保険適応となったオランザピンが、次なる対処薬として考えられます。
オランザピンは、ドパミン、セロトニン(5HT3)、ヒスタミン等の吐き気に関係している神経伝達物質の複数に作用し、脳等からの中枢性の吐き気に良い効果を期待できます。
添付文書には5mgと記してあるのですが、2.5mgでも良い効果を得られる場合もあります。
逆に5mgだと眠気が強く出る方もいらっしゃいますね。
オランザピンは中枢性の吐き気にはかなり良く効きますので、これでも効かない場合は、他の原因をさらにしっかり考える必要があります。
臨床の現場でみていて、比較的頻度が多いのは、予測性の嘔気ですね。
吐き気が続いていると、次第に吐き気の閾値が下がり、容易に吐き気や気持ち悪さが生じるようになります。
条件反射のような形になってしまうのですね。
ただこれをなかなか自力で抑えることも難しいです。
予測性の嘔気に対して有効なのが、ベンゾジアセピン系の抗不安薬のロラゼパムです。
実際、他の系統の吐き気止めがあまり効かなくても、ロラゼパムを足すことで非常に改善するケースもあります。
容易に吐き気や気持ち悪さを感じるようになってしまった悪循環を改善させうる対策ですね。
まとめ
吐き気や気持ち悪さもまた主観的な症状です。
もちろん嘔吐したり、ゲーとあげる様子が頻繁に起こるようならば、他覚的にもわかりますが、そうでない限り申告しないとわかりません。
吐き気は、症状緩和に良い薬剤がいくつかありますから、遠慮せずにしっかり医療者に対策を相談するのが良いでしょう。
一方で、吐き気や気持ち悪さは複数の原因が混在しているなど、比較的アセスメントには実力を要する症状です。
しばしば症状緩和にあまり詳しくない医療者によって、「胃が原因だね。胃酸を抑える薬剤を出しておくよ」「これは医療用麻薬の吐き気だね」等と、専門家の目からすると実際とは異なる病態で把握され、それによって治療に障害をきたしているケースもあるので(例えば、「医療用麻薬で吐き気が出たので、もう使いたくない」と実際は医療用麻薬が原因ではないのに、医療者の説明によってご本人はそう思い込まれている等)、症状が続いているならば極力緩和ケア科などの専門家の医師や医療者にかかったほうが良いでしょう。
冷たい食べ物にしてにおいを抑える、食事は小分けにするなどの様々なケアの方策もあります。
つらい症状ですから、なるべく早く抑え、遷延化から吐き気の閾値が低下するという悪循環はぜひとも防ぎたいものですね。このような”延焼”を予防するところに、早期からの緩和ケアが大切となります。