──それは“終わり”ではありません
がんの治療を続けてきた中で、
ある日、主治医からこう告げられることがあります。
「これ以上、有効な治療はありません」
「治療としては、ここまでです」
この言葉を聞いた瞬間、
頭が真っ白になり、息が詰まり、
「もう終わりなのだ」と感じてしまう方は少なくありません。
実際、外来でお話を伺っていると、
この一言が、時間が経っても心の中で整理しきれずに残っている方も多くいらっしゃいます。
ですが、この言葉の意味は、
多くの方が受け取っているものとは少し違います。
「治療がない」=「できることが何もない」ではありません
主治医が言う「治療がない」とは、多くの場合、
がんを小さくする抗がん剤
延命を目的とした治療
といった“腫瘍に直接向けた治療”が難しくなった
という意味です。
しかしそれは、
痛みや苦しさを和らげること
不安や混乱を整理すること
これからの時間を、少しでも自分らしく過ごすこと
ができなくなった、という意味ではありません。
医療が終わったわけではないのです。
なぜ、こんなにも絶望的に聞こえてしまうのか
多くの患者さんがこの言葉に深く傷つく理由は、
説明が短く、補足がないことがしばしばある
忙しい外来で感情にあまり配慮されているとは言い難く感じることも残念ながらある
「では次に何をすればいいか」が示されない
といった状況が重なりやすいからです。
その結果、
「見捨てられた」
「もう相談できる医師がいない」
と感じてしまう方も少なくありません。
これは、患者さんの弱さではなく、
医療の伝え方の問題であることが少なくないのです。
本当は「ここから考えること」がたくさんあります
治療が効かなくなったときこそ、
考えるべきことは多くあります。
今いちばん困っている症状は何か
入院せずに過ごす方法はあるか
治療をやめる・続けるの判断をどう整理するか
家族にどう伝え、どう支えてもらうか
これらは、5分や10分の診察では整理できません。
だからこそ、ここで緩和ケアが力を発揮します。
緩和ケアは「最期の医療」ではありません
緩和ケアという言葉から、
もう終末期
何もできない段階
を想像される方も多いのですが、
本来の緩和ケアはもっと早い段階から使う医療です。
治療が効かなくなったとき
治療を続けるか迷っているとき
主治医の説明に納得できず、混乱しているとき
こうした場面こそ、
一度立ち止まり、考えを整理する医療が必要になります。
また話を聴く中で、ご本人の希望がはっきりし、新たな治療が見つかったという事例もあります。
「今すぐ決断しなくていい」という選択肢
とても大切なことがあります。
主治医に「もう治療はない」と言われたからといって、
その場で全てを受け入れ、決断する必要はありません。
少し時間を置く
別の医師の意見を聞く
症状や生活を整えることを優先する
こうした選択は、
逃げでも甘えでもなく、ごく自然な判断です。
最後に
「もうできる治療はありません」
この言葉は、
“終わりの宣告”ではなく、
“これからをどう過ごすかを考える合図”
であることがほとんどです。
もし今、
どう考えていいかわからない
誰に相談していいかわからない
主治医の説明がつらかった
そう感じているなら、
一人で抱え込まなくて大丈夫です。
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