――「やめたい」と思うのは、逃げではありません
はじめに
がんの治療を続けている中で、
「本当に意味があるのだろうか」
「これ以上、体と心がもつだろうか」
「やめたいと思う自分は間違っているのか」
そう感じたことはありませんか。
この問いは、
多くの患者さんが一度は心の中で口にするものです。
そして、それは弱さでも、逃げでもありません。
「迷い」が生まれるのは、ごく自然なこと
治療を続けるかどうか迷う理由は、人それぞれですが、
実際の外来では次のような背景がとても多く見られます。
① 副作用やつらさが積み重なっている
治療は「一回」ではなく、「積み重ね」です。
最初は耐えられていたことが、ある時点で限界に近づくこともあります。
② 効果が実感できなくなってきた
画像や数値で「効いていない」と言われたり、
効果があっても実感が乏しいと、気持ちは大きく揺れます。
③ 「自分のための治療なのか」わからなくなる
家族のため
医師の期待に応えるため
やめると言い出せないから
そんな理由が前に出てくると、
治療の意味が見えなくなることがあります。
「治療を続ける」以外の選択肢は、存在します
ここで大切なことを、はっきり書きます。
治療を続けるか、やめるかは二択ではありません。
実際には、
治療のペースを落とす
内容を調整する
一度立ち止まって考える
生活を優先する期間を作る
こうした中間の選択肢が数多く存在します。
しかし、主治医との診察の中では、
どうしても「治療をどうするか」という話が中心になりがちです。
「一度、治療から距離を置いて話す」という選択
迷いが強くなったとき、
必要なのは結論を急ぐことではありません。
むしろ、
今、何が一番つらいのか
本当は何を守りたいのか
何を失うことが一番怖いのか
こうしたことを、
治療の判断とは切り離して整理する時間です。
緩和ケアでは、
治療を「続けさせる」「やめさせる」ことを目的にはしません。
あくまで、
今のあなたにとって、何が一番大切か
を一緒に確認することを大切にしています。
「やめたい」と思う気持ちの正体
「やめたい」という言葉の奥には、
実はさまざまな本音が隠れています。
もう少し楽に過ごしたい
誰にも気を遣わずに休みたい
自分の人生を取り戻したい
これらは、
生きることをあきらめた言葉ではありません。
むしろ、
「どう生きたいか」を真剣に考えている証拠です。
最後に
このまま治療を続けていいのか迷ったとき、
無理に答えを出す必要はありません。
迷っている時点で、
あなたはすでに十分、考えています。
一度立ち止まり、
治療とは別の場所で話すことで、
次の一歩が見えてくることもあります。













