がん家族が抱えやすい不安と、正しい支え方 ― 緩和ケア専門医がやさしく解説
がんの治療は、患者さん本人だけではなく、ご家族の心にも大きな負担がかかります。
しかし多くの場合、「支える側のしんどさ」は正面から語られにくく、気づいた頃には疲れ切ってしまっていることがあります。
私は緩和ケアの専門医師として、患者さんと同じくらい、いやそれ以上にご家族の不安や疲れが深く積み重なっていく姿を見てきました。
この記事では、がん家族が抱えやすい不安と、その支え方をわかりやすく整理します。
「どう支えたらいいのか分からない」
「弱音を言ってはいけない気がする」
そんな方にこそ届いてほしい内容です。
1. がん家族が抱えやすい“代表的な不安”
① この先、どうなるのか分からない
予後・再発・副作用・治療方針…。
“見通しのつかなさ”が最も強い不安を生みます。
② どこまで踏み込んでいいのか分からない
患者さんがどこまで話したいのか、
どこまで支えて良いのか、
線引きが難しいという声はとても多いです。
③ 間違ったらどうしようという恐怖
「言葉選びを間違えて傷つけたら…」
「治療の判断を間違えたら…」
家族だからこそ責任感が過剰に働きます。
④ 自分が参ってしまう“罪悪感”
本当は疲れているのに、
「自分が弱音を言ってはダメだ」と抱え込んでしまうことも少なくありません。
2. 家族ができる“正しい支え方”
① すべてを支えなくていい
がんの治療は長期戦です。
家族が“倒れないこと”が最優先の支え方です。
「休むこと」「頼ること」は、支えを放棄するのではなく、
“支えを長く続けるための戦略”です。
② 役割の分担をゆるやかに決める
看病・連絡調整・食事・通院の付き添いなど、
全部をひとりが抱えると破綻します。
家族内で
「できること」「得意なこと」
を分担するのが最も効率的です。
③ 感情を“共有”するだけで十分なことが多い
不安や怒りの感情は、解決策よりも
「聞いてもらえること」で半分以上軽くなります。
がん医療では、
“正しいことを言うより、そばにいること”に価値があります。
④ 専門家の力を借りる
緩和ケア外来は「痛み」だけを見る場所ではありません。
不安
悲しみ
気持ちの揺れ
医療者とのコミュニケーション
家族の負担
在宅か入院かの判断
こうした相談もカバーしています。
「家族がしんどい」という理由で受診しても大丈夫です。
3. 家族が“言ってはいけないこと”はほとんどない
ただし、言葉の温度は大切に。
よく聞かれる質問があります。
何を言えばいいのか分かりません。
どこまで踏み込んでいいのでしょう?
結論はシンプルで、
“否定しない・急かさない・結論を押しつけない”
この3つさえ守れば十分です。
例)
「次はどうするつもり?」
→ × プレッシャーになることも
「今の気持ち、どんな感じ?」
→ ○ 向き合いやすい質問
4. 家族こそ、相談していい ― 早期緩和ケアの役割
緩和ケアは、
“症状が出てから” 受けるものではありません。
海外の研究では、
早い時期から定期的に緩和ケアを受けた方は、
不安の軽減
正しい意思決定
入院の減少
生活の質の向上
家族の負担軽減
など、多くの恩恵を受けています。
特に家族にとっては、
気持ちの整理のサポート
医療者との橋渡し
「迷ったときに聞ける場所」がある安心
これが大きな意味を持ちます。
5. 「支え方に正解はない」 ― だからこそ相談してほしい
がん家族の悩みは、
正しい支え方が分からない
この気持ちは自分だけでは?
頼ってはいけないのでは?
という“孤独”から生まれます。
けれど実際には、
家族が悩むのは当然のことですし、
サポートを求めるのは弱さではなく“賢さ”です。
ひとりで抱え込まず、
緩和ケア外来や専門医を使ってください。
それが、患者さんを長く支える力にもなります。
🔗 当院では、患者さんの相談だけでなく“家族の相談”にも対応しています
がんの治療方針、気持ちの揺れ、生活や仕事との両立、
なんでもご相談ください。
オンライン相談も可能です。
👉 ご相談はこちら
https://kanwa.tokyo/clinic-information/early-palliative-care
🌸 まとめ
がん家族の不安・疲れは“当たり前”
支え方に正解はない
しかし正しい“距離感”と“相談相手”は必要
早期緩和ケアは家族の負担軽減にも大きく寄与
家族が参らないことが、最も大切な支え方














