令和2年度診療報酬改定が来る
緩和ケア医であり、診療所院長でもある医師が解説します。一般の方向けには各改定の【ポイント】をお伝えします。
一般の皆さんからすると、診療報酬改定がご自分たちに何か関係あるのか? と思われるかもしれませんが、実は相当あります。
と申しますのは、診療報酬が新たに設けられたり上がったりする分野は、医療機関が一生懸命取り組むからです。
診療報酬によって国は、発展させたい医療分野をコントロールできるのです。そして実際、しています。
ここをご覧の皆さんは、では緩和ケアの分野ではどうなのか、気になるところでしょう。
1月29日、改定内容が示されました。それに即して解説します。
なお、改定内容へのリンクはこちらです。
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また、詳細よりも大枠で解説します。
◎末期心不全への緩和ケア関連診療報酬拡充
いよいよ本格的に、心不全への緩和ケアに対して、緩和ケア関連の診療報酬が与えられるようになります。
これまでは、入院を主とした緩和ケアチーム活動で診療報酬が生じていましたが、それが外来にも拡充されます。
また、心不全の緩和ケアに関しては、特に緩和ケア医ではなくても、循環器医師で末期心不全の緩和診療経験がある医師でも、診療報酬が得られるようになりました。
病院ごとの差異はあるでしょうが、末期心不全の緩和ケアが発展することが予測されます。
【ポイント】末期心不全でも緩和ケアが受けられるので、知っておかれると良いでしょう。
◎緩和ケア外来の「外来緩和ケア管理料」
緩和ケア外来の診療報酬である「外来緩和ケア管理料」は
・従来通り医療用麻薬が処方されていないと算定できず
・緩和ケアチーム(所定の条件を満たす精神症状担当医師や看護師、薬剤師がいる必要あり)がないと算定できず
であり、私のような専門医が一人で行う緩和ケア外来は算定できないのは変わりません。
医療用麻薬を処方するだけが緩和ケアではないので、そうではなくても緩和ケア外来管理料は認められてほしいところですが、今回も特にそれは不変です。
ここが変わると、病院にもより早期からの緩和ケア外来に取り組む経済的動機が生じるのですが。
また、緩和ケアチームが存在しなくても診療報酬が生じれば、緩和ケア経験を経て開業した診療所医師の力もより早期緩和ケアに活かせると思いますが、今回は外来関連には大きな動きはないようです。
一方で、先述したように、末期心不全の患者さんにも外来緩和ケア管理料が発生するようになったことは大きな変化です。
【ポイント】がんの患者さんに関しては、緩和ケア外来に関する診療報酬は大きな変わりはないです。
◎緩和ケア病棟・ホスピス入院の「緩和ケア病棟入院料」
私も含めて一部の緩和ケア医師が問題を訴えかけ、ホスピス・緩和ケア協会も行政に報告していた「緩和ケア病棟入院料」の「全員の平均入院日数が30日未満でないと低い報酬になる」という条項は今回削除見通しです。
無茶な追い出しが減ることが期待されます。
一方で緩和ケア病棟が高い診療報酬を取るのに、次の新たな条件が加わりました。
[施設基準]
次のいずれかに係る届出を行っていること。
①緩和ケア診療加算
②外来緩和ケア管理料
③在宅がん医療総合診療料
①か②は「緩和ケアチーム」がないと、条件を満たしません。
③は名前の通り「在宅医療」をしないといけません。
つまりホスピス・緩和ケア病棟が、緩和ケアチーム活動か在宅医療をしないと、入院料が下がるようになった、と言えるでしょう。
この改定内容は、どうも旧来の様なホスピスから「緩和ケアの拠点」化したいらしい意図が透けて見えます。
一方で、都市部の人的資源豊富な病院ならばともかく緩和ケアのマンパワーが少ない病院は「あれもこれも」的になり大変です。
なお、撤廃される「全員の平均入院日数が30日未満でないと低い報酬になる」という条件の他にも、入院日数が長くなると入院料は減る仕組みはあるので、長い入院が難しい事情は(病院差が大きいですが)変わらないでしょう。
【ポイント】入院平均日数が30日以上だと低い診療報酬となるのが緩和ケア医ら様々な人の働きかけによって撤廃されたのは、追い出しが減る可能性があり良い事でしょう。ただ31日以上で一段階、61日以上で二段階減算になるのは続くため一般に長期入院が難しいのは同様と考えられます。
具体的な費用は下記で解説しています。
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◎緩和ケアチームの医師が非常勤医師2名でも良いことに
興味深い改定としては、「週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務を行っている専任の非常勤医師を2名組み合わせることにより、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該2名の非常勤医師が緩和ケアチームの業務に従事する場合に限り、当該基準を満たしていることとみなすことができる」という条項が加わったことです。
なんと、常勤医師1名でなくても、非常勤医師2名で診療報酬上は緩和ケアチームの医師として認められることになったのです。
ただ非常勤医師を各々週3で2名確保するのは難しいような。
緩和ケア関連の2020年診療報酬改定のまとめ
・末期心不全緩和ケア要件の整備
・緩和ケア病棟入院料の平均在院日数30日以上での診療報酬低下が廃止
が主な変化と言えそうです。ただし、緩和ケア病棟の長期入院での減算が変わるわけではなく、基本的には大筋は変わりがないでしょう。
がんの患者さんの視点でいうと、実質的な好影響も悪影響も大きくはなさそうだと現時点では推測されます。
地方のホスピス・緩和ケア病棟では、高い診療報酬をキープするのにやらなくてはいけないことが増えるので、そこで働く緩和ケア従事者のことが心配です。疲弊や立ち去りが出て、患者さんに影響しないと良いとは思います。