がん闘病のコツを緩和ケアの専門医が解説します。
大切なのは「自律」
すでに実践されている方もいらっしゃると思いますので、釈迦に説法かもしれません。
今回お伝えする闘病のコツであり、苦しみの緩和策でもあるのは「自律」についてです。
「自立している」の自立ではありません。
「自律」すなわち、自分のことを、自分で対処できることを言います。
辞書を引くと、「自分で立てた規範に従って、自分の事は自分でやって行くこと」とあります。
病を患った際に、この「自律」をいかにして保つかが大きな問題になります。
例えば、衰弱しないように栄養をしっかり取り、筋肉量保持のために負荷をかけた運動も行うことは、身体の自律を保つことにつながります。
しかしもちろん自律は身体だけではありません。
心の自律
大切なのは、心の「自律」です。
ただそれはしばしば勘違いされ、「難しいことまで全部自分で対処すること」を自律と考え、袋小路に入り込んでしまっている方もいます。
病は確かに自律を脅かすものです。
だからこそ、自分がコントロールできる範囲と、人に委ねたほうが良い範囲をしっかり見極める必要があります。
あるいは自分がどうしようもないことまで、なんとかしようと悩んだり、活動して力を浪費してしまったりすることも良いとは言えません。
難しいことですが、その見極めが、病気を患った際には試されます。
特に、身体や心の苦痛に関しては、ある程度ご自身で何とかすることも良いですが、端から見ているともっと専門家を頼って良いと思われる方がたくさんおられます。
身体や心のつらさは、自力で何とかするよりも医療者を頼るのが良いでしょう。
自律を広げる
一方で、普段の生活や行動、ちょっとした心の持ちようや思考は、変えられます。
できるだけ、自分がコントロールできる範囲を、できうる限りで広げるのが良いでしょう。
具体的には、壮大な目標よりも、近い先にちょっとだけ背伸びした目標を立ててみます。
あるいはそれさえ自信がなければ、何でもできそうなことを考えて実行し、とにかくそれができた自身を褒めてあげることでしょう。
「できる自信」を培うことは、自己効力感につながります。
それが大変な状況をいつか乗り越えてゆく力につながります。
できないこと、人に左右されることを多く課題とすると、疲弊してしまいます。
自分ができること、自分が楽しいこと、人に煩わされずに行えること、それらを見つけて、実践してゆくのが良いことでしょう。
私の自律 それぞれの自律
軽くない病気を抱えて奮闘しておられる方々に比べれば小さなことですが、私もこの「自律」の大切さを最近実感しています。
医師になって18年の多くの時間、大きな組織に属してきました。
大きな組織は、(自分の)自律の対極にあります。
配置換えや退職もあり、仕事のパートナーが変わったり、あるいはトップで方針が変わったり、これはどこの世界にでもあるものでしょう。
そのような自分に何とかできないことが続くと、次第に「自律」が脅かされ、「自己効力感」も下がるかもしれません。
自分がコントロールできる範囲のことを増やせば、人は力を取り戻します。
それは患者さんが教えてくれたことでもあります。
かくして自分のコントロールできる範囲の小さなクリニックを設けましたが、ささやかな「自律」を感じています。
人それぞれ、様々な方法があると思いますが、自分が差配できることを増やすのは、きっと心身の力を強める方向に作用してくれると思います。
「こんなことができました」そう笑顔で仰る患者さんのお顔を見て、私は常にそんなことを感じています。