卵巣がん末期・進行卵巣がんの症状と、どうすれば苦痛が少なく穏やかに元気で長生きできるのかを解説します。
進行卵巣がんの緩和ケア
卵巣は腹腔内に露出しているため、進行例では腹膜播種との闘いとなります。
そのため、腹膜播種からの諸症状が問題になります。
腹膜播種は
①痛みの原因になる
②腸閉塞を起こす
③腹水を来たす
という特徴がありますが、卵巣がんは③が比較的早い段階から出ます。
逆に言うと、卵巣がんは推測余命が長くても腹水が出るので、腹水での病悩期間が長いという特徴が挙げられます。
卵巣がんも抗がん剤治療が行われますが、ベバシズマブ(商品名アバスチン)の他、2018年よりオラパリブ(商品名リムパーザ)などの分子標的薬も使用されるようになりました。
これら抗がん剤などのがん治療の副作用対策も必要になります。
罹患の数は多くないがしばしば手強い卵巣がん
卵巣がんは、女性がなるがんの中では、1位・2位といった位置を占めてはいません。
女性のがんの中では、乳がんは頻度が圧倒的に多く(1位)、次が子宮がん(5位)です。
しかし卵巣がんは、なかなか手ごわい側面があります。
それなので、患者数あたりの死亡率は婦人科癌のなかでもっとも高いとされています。
何が問題となるのでしょうか。
早期発見を妨げる特性
卵巣がんは早期の発見が難しいという特徴があります。
それなので病期が進んでから診断されます。
それが予後と関係しえます。
卵巣は腹腔内に露出しており、容易に腹腔内に進展します。
しかしなかなか症状が出ません。
そのため、治療の開始が遅くなりがちです。
他に、デノボがんといった、急速に発生するがんがあることも知られています。
このような容易ではない特徴があるのです。
治療選択肢も乳がんや肺がんほどはない
「これが効かないと、もうあまり効く治療がないですね」
と早めから言われる傾向があることも、患者さんの声からわかります。
卵巣がんは一般に、化学療法のプラチナ系製剤、タキサン系製剤への感受性が強いことが知られています。
上の記事にもあるように、すでに使用可能となっているPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)阻害薬のオラパリブの他、今後出るだろうPARP阻害薬ニラパリブや、免疫チェックポイント阻害薬(上の記事だとニボルマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ、アテゾリズマブが挙げられています)なども新規治療として採用されてくるでしょう。
ベバシズマブがらみの多剤併用療法でも、様々な知見が出てきていますね。
基本的には長期生存が、さらなる新治療が適応される時期となることを呼び込みます。
心身の消耗を減らすべく、また抗がん剤治療等による損耗を防ぐべく、早期緩和ケアは欠かせません。
腹水や腸閉塞が問題になる
卵巣がんでは腹水や腸閉塞が問題となるのは既報通りですので、ぜひ下記をご覧ください。
腹水に関しては、大腸がんの治療に使われるVEGF阻害剤のアフリベルセプトが奏効したという報告はありますね。穿刺の期間が延長しました。
ただ日本では、卵巣がんの腹水マネジメントへの適応はありません。
アフリベルセプトはVEGF阻害剤なので、基本的にはベバシズマブ(商品名アバスチン)と同じカテゴリーの薬剤です。
参考;アバスチン、サイラムザ、そしてザルトラップ。3つの血管新生阻害剤(VEGF阻害剤)の違いを3つのがん種別にまとめてみた
ということは、上記の参考にあるように違いはあれども、アバスチンは奏効する可能性がありますね。
しかし、アフリベルセプトもベバシズマブと同様に、消化管穿孔を起こしえますし、実際上記の卵巣がんの腹水に用いた研究でも、消化管穿孔が3例出ています。
なかなか難しいところですね。
卵巣がんの苦痛症状
緩和ケア情報をお届けする早期緩和ケア相談所ページでも、卵巣がんの緩和ケアを紹介しています。
腹膜播種は痛みの原因になります。
医療用麻薬が疼痛の緩和に有効です。アセトアミノフェン、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などを組み合わせることもあります。
先述したように、腹膜播種は痛みの原因になる他、腸閉塞を来します。
腸閉塞もかなり強い疝痛(せんつう。発作的に起こるはげしい腹痛)の原因になります。
腸閉塞は、オクトレオチドやステロイドで加療します。
腹水に関してはなかなか有効な薬剤がなく、穿刺排液(針を刺して腹水を抜くこと)が中心になります。
腹水濃縮再静注(腹水中のアルブミンなどを抽出して血液に戻す)が、単なる腹水穿刺排液よりも優れているかは議論があります。
私は無理に行わなくても良いと考えています(個人的見解です)。
最終末期の身の置き所のなさは鎮静で対応
末期卵巣がんになると、倦怠感やせん妄が出現・増悪します。
コントロール不能の腹水による腹部膨満感も、患者さんによっては大きな苦痛となります。
余命数日となると、身の置き所のない様態を示し、患者さんは苦しまれ、看ているご家族もつらいです。
このような時の緩和策が「鎮静」を受けることです。
上記の参考資料や動画もご覧ください。
命を縮めず、眠った状態に導かれることで、苦痛緩和されます。
卵巣がんの患者さんは、他の腫瘍の最終末期と同様に、身の置き所のない様態を示すことがしばしばあるため、鎮静ができる医師にかかると安心だと考えられます。
まとめ
卵巣がんの緩和ケアに関して解説しました。
全期間を通じた症状緩和や不安の解消、正しい選択の支援が必要となるでしょう。
容易ではない病気だからこそ、いざとなってからではなく、早期から緩和ケアをしっかり併用していきたいところです。