リンパ浮腫・リンパのむくみはしばしばある症状
がんの患者さんにとって、リンパ浮腫はしばしばある症状と言えるでしょう。
体中に、リンパ管が張り巡らされています。
まずがん治療で、リンパ浮腫になることがあります。
手術や放射線治療の影響で、リンパの流れが滞り、リンパ浮腫が出現することがあります。
ただ、がんが進行・転移してリンパ節やリンパ管に病変が及ぶと、そこでリンパの流れが妨げられ、リンパ浮腫となることがあります。
私が関与する領域では、後者の浮腫が多いです。
ただ大切なのはむくみの原因の鑑別 原因はいろいろ
注意しなければならないのは、がんの患者さんがむくんでいる=リンパ浮腫、と一概には言えないことです。
むくみはいろいろな原因で起こります。
低アルブミン血症の場合もよくあります。
下大静脈の高度狭窄が腫瘍によって起こっているケースもあります。
腫瘍ではなく、他の病気が合併して、そこから浮腫が起きているようなこともないとは言えません。
例えば、心不全が起きているとか、甲状腺機能低下症があるとか。
しかも複数の原因が併存していることも多々あります(低アルブミン血症+リンパ浮腫など)。
それらをしっかり鑑別するのが、医師の仕事です。
実際に、緩和ケアチーム在籍時には、浮腫の原因についてよく相談がありました。
原因が異なれば治療も異なるのは、他と一緒です。
医学的なアセスメントがとても重要となります。
必ずしも全ての医師が、がんの方のむくみのアセスメントが得意なわけではないので、緩和ケアの医師の助力を希望することが良い手段と考えられます。
リンパ浮腫は特効「薬」はない スキンケア・保湿は大事
リンパ浮腫は、薬としては特効的な作用を示すものはありません。
したがって、薬以外の対処が重要になります。
と言いますか、薬以外こそ重要です。
まずスキンケアが大切です。
むくみで伸展された皮膚は微小な傷がつきやすく、皮膚のバリア機能の破綻も考えられます。
そのため、容易に感染症を来します。
対処としては保湿が重要になります。
ヒルドイドやワセリンを処方してもらい、塗布継続する必要があるでしょう。
膨らんだ、あるいは膨らみ始めた四肢にはリンパドレナージと圧迫療法
先程述べたようにリンパ浮腫には薬は効きません。
滞ったリンパ液を流すリンパドレナージという特殊なマッサージと、弾性ストッキングや弾性スリーブ等による圧迫療法が基本となります。
リンパドレナージ(同名)やリンパドレナージュ、リンパマッサージと呼ばれている美容目的のマッサージもあります。
けれども医学的なリンパドレナージは、専門的な知識と経験が必要です。美容目的のリンパドレナージは避け、医学的なものを受けましょう。
まずはご自身のかかっている病院で、リンパ浮腫の専門家がいるかどうかを尋ねていただくのが良いでしょう。
いないとのことであれば、同病院の緩和ケアの担当者に相談してみると、対策を教えてくれたり、専門家を紹介してくれるかもしれません。
リンパドレナージは、優れた専門家の手にかかると、驚くほど脚や腕が細くなります。
ただしリンパドレナージだけでは不十分で、圧迫療法を継続することが大切です。
圧迫療法には、弾性ストッキングや弾性スリーブ、場合によっては弾性包帯を用いることもあります。
ちなみに手術の経験がある方は、深部静脈血栓症予防のストッキングをはいたことがある方もおられるかもしれません。
それらの深部静脈血栓症用のものは、治療用のものより圧迫が弱めで、それを使うわけにはいきません。
その方に合った弾性着衣を選択する必要があり、十分詳しい医療者等に相談して決めるのが肝要です。
実店舗がある弾性着衣専門店もあるので(→リンパレッツ)検討されるでしょう。
蜂窩織炎には注意
リンパ浮腫があると、蜂窩織炎を起こしやすいです。
蜂窩織炎は皮下の炎症で、細菌感染症です。
発赤や腫脹、熱感、圧痛、発熱などが認められます。
医療機関を受診し、抗生剤の投与を受ける必要があります。
内服で治まる場合もありますが、点滴や入院が必要になったり、重篤だと敗血症になることもあり、注意が必要です。
リンパ浮腫・むくみと運動 上肢の場合と下肢の場合
リンパ浮腫があると、むくみを増やしたくないと運動を控える方もおられます。
確かに動かし過ぎはよくありませんが、動かさないのは逆効果です。
しっかり圧迫療法を行った上で、体操を行うことは有用です。
筋肉を動かすことが、むくみの改善に働きます。
<上肢のリンパ浮腫の体操>
◯ゆっくり手を握ったり開いたりする。
◯肘や手首の関節の曲げ伸ばしを行う。
参考;乳がん術後の腕や肩の障害を防ぐマッサージ・運動のポイント Vol.2
<下肢のリンパ浮腫の体操>
◯ゆっくり膝や足首の曲げ伸ばしを行う。
リンパ浮腫と痛み
浮腫が著しいと、物理的圧迫からの痛みが出現することがあります。
蜂窩織炎を起こすと、炎症からさらなる疼痛の増悪を招くことが多いです。
非ステロイド性抗炎症薬であるロキソプロフェンやジクロフェナクを疼痛緩和で使用することもあります。
炎症が強いので、医療用麻薬単独よりは、非ステロイド性抗炎症薬の併用を考慮するのが良いでしょう。
まとめ
以上のように、リンパ浮腫対策には広範な医学知識と複数の専門家とのコラボレーションが必要となります。緩和ケアの担当者とよく相談すべき症状と言えるでしょう。