がん治療を「しない」という選択は、必ずしも間違いではありません
がんと診断されたあと、
「治療は受けない」「抗がん剤はしない」「今は何もしない」
そう考える方は、決して少なくありません。
私は緩和ケア医として、その選択自体を否定することはありません
治療をするかどうかは、本来とても個人的な決断です。
ただし、長年の臨床経験からはっきり言えることがあります。
治療しない選択で後悔が少なかった人には、共通点があるというこ
確認①「治療しない=苦痛が少ない」と思い込んでいないか
治療をしない理由として、よく聞くのが
- 「治療はつらそうだから」
- 「自然に任せた方が楽そうだから」
- 「何もしなければ苦しまないのでは」
という考えです。
しかし実際の臨床では、
治療をしなかったから苦痛が少なかった、とは限りません。
がんの進行に伴い、
- 痛み
- 呼吸の苦しさ
- 不安やせん妄
- 急激な体力低下
が生じることも少なくありません。
治療は「病気を治す」ためだけでなく、
結果的に痛みやつらさを軽くする役割を果たすこともある
――これは必ず知っておいてほしい事実です。
確認②「様子を見る」と「放置」を混同していないか
医学的にいう「様子を見る」「経過観察」とは、
- 定期的な診察や検査
- 進行スピードの把握
- 症状変化への備え
を前提とした、能動的な選択です。
一方で、
- 不安だから決められない
- 情報収集だけを続けている
- 医療機関から距離を置いてしまっている
この状態は、医学的には経過観察ではなく「放置」に近づいていきます。
緩和ケアの現場では、 「放置していたつもりはなかった」 「考えていなかったわけじゃない」 そう語られる方を何人も見てきました。
時間と体の変化は、待ってくれません。
確認③「困ったときに相談できる専門家」がいるか
治療をしない選択で後悔が少なかった方に共通しているのは、
- 一度は専門家に相談している
- 治療しない場合の見通しを聞いている
- 症状が出たときの対処先が決まっている
という点です。
特に重要なのは、
「治療を勧めるためだけではない相談先」があるかどうか。
緩和ケアは、
- 治療を強制する場所ではありません
- 何かを決めさせる場所でもありません
「治療しない場合、何が起こりうるか」
「どこまでなら耐えられそうか」
「途中で方針を変えてもいいのか」
こうしたことを、一緒に整理するための分野です。
苦痛が少なく最後まで穏やかに過ごされた方は、
私の経験でも、緩和ケアなどの専門家と継続的に相談し続けた方が
多いです。それはとても大切な要素だと思います。
「治療しない」という選択も、医療の一部です
誤解してほしくないのは、
この記事は「治療を受けるべきだ」
- 年齢
- 体力
- 価値観
- 家族の状況
によって、治療をしない選択が妥当な場合も確かにあります。
大切なのは、 「選んだかどうか」ではなく、「理解した上で選べているか」です。
まとめ
治療しない選択をするときに、必ず確認してほしい3つのことは、
- 治療しない=苦痛が少ない、と思い込んでいないか
- 「様子を見る」と「放置」を混同していないか
- 困ったときに相談できる専門家がいるか
治療をする・しないの前に、
一度立ち止まって考える場所があることが、後悔を減らします。
迷いがある時点で、相談してかまいません。
緩和ケアは、そのために存在しています。

















