「がんを放置して後悔した人」は、実は少なくありません
がんと診断されたあと、
「今は治療をしない」
「もう少し様子を見る」
「自然に任せたい」
と考える方は、決して珍しくありません。
それ自体が間違いだとは、私は思っていません。
治療を受けるかどうかは、本来とても個人的な選択です。
ただ、緩和ケアの現場で数多くの患者さんを診てきた中で、
あとから強い後悔を口にされる方が一定数いるのも、事実です。
その後悔は、
「治療をしなければよかった」
というよりも、
「あのとき、きちんと考えきれていなかった」
という形で語られることが多いのです。
がんを放置して後悔する原因は『放置』 そのものではありません
多くの人が誤解していますが、
後悔の原因は
「治療をしなかったこと」そのものではありません。
本当の原因は、
- 情報が偏っていた
- 自分の状況を正確に理解していなかった
- 相談できる専門家がいなかった
その結果、
「選んだつもりで、実は選んでいなかった」
という状態に陥ってしまうことです。
「様子を見る」は、医学的には“何もしない”とは違います
医療の世界でいう「経過観察」や「様子を見る」は、
- 定期的な検査
- 進行スピードの評価
- 症状の変化の確認
を前提とした、能動的な選択です。
一方で、
- 情報収集だけを続ける
- 不安だけが増えていく
- 医療機関から距離を置いてしまう
この状態は、医学的には
「経過観察」ではなく「放置」に近づいていきます。
緩和ケアの現場で見てきた「後悔」の瞬間
私の外来には、
「もっと早く相談すればよかった」
と口にされる方が少なくありません。
それは、
- 痛みが強くなってから
- 生活が急に立ち行かなくなってから
- 選択肢が限られてから
相談に来られるケースです。
そのとき多くの方が言います。
「放置していたつもりはなかった」
「考えていなかったわけじゃない」
と。
でも、体と時間は、待ってくれません。
がんは個人差が大きく容易ではない病気です。
確かにある人においては何もしなくても、苦痛が少ないという場合もあります。
それはその方のがんが、そういう性質を持っていたからと言えます。
しかし私は緩和ケア医として数千人のがん患者さんと接してきているので、
放置された結果、痛みやつらさがかなり強くなったという事例も数多く経験しています。
治療は「病気を治す」だけでなく、痛みやつらさを和らげるために
これは、
「治療しない」という選択も、医療の一部です
一方で誤解してほしくないのは、
「必ず治療をしなければならない」
- 年齢
- 体力
- 価値観
- 家族の状況
によって、
治療をしないという選択が妥当な場合も、確かにあります。
がんの種類や進行度によっては、積極的治療を急がず、
ただしそれは、
情報を整理し、見通しを理解した上での選択である必要があります
何がもっともつらさが少なく、ご本人の希望に沿うのか。
それを公平中立な情報のもと、十分考えることが何よりも大切なのです。
がんを放置する前に:後悔を減らすために最低限必要なこと
後悔が少なかった方に共通しているのは、
次のような姿勢でした。
- 一度は専門家に相談している
- 「治療しない場合、何が起こりうるか」を聞いている
- 不安や迷いを言葉にしている
その結果、
「これでよかった」と納得して進まれています。
まとめ
がんを放置した結果、後悔する人が多い理由は、
病気そのものではなく、「選択の過程」にあります。
大切なのは、
- 治療するかどうか
ではなく、 - 自分の状況を理解した上で選べているか
迷ったとき、立ち止まったとき、
緩和ケアは「治療を勧める場所」ではなく、考えるための場所です
「まだ先の話だから」と思わず、
違和感を覚えた時点で、相談していい分野です。



















