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多発性骨髄腫 緩和ケア

多発性骨髄腫の最新治療と副作用、症状と緩和ケア

多発性骨髄腫と緩和ケアの解説です

多発性骨髄腫とは?

多発性骨髄腫。

知っている方は知っているでしょうし、知らない方も少なくないでしょう。

本記事は、多発性骨髄腫をもっと知りたい方、医療者でもあまり詳しくない方にわかりやすく解説するものです(※血液がんの専門家ではない方に易しくお伝えすることを目的としています)。

多発性骨髄腫は血液のがんの一種類です。

人口10万人あたり約5人という少ない発症率です。

全悪性腫瘍の約1%、全血液がんの約10%を占めています。

基本的には高齢になると発症する腫瘍なので、発症率が年々増加傾向にあります。

多発性骨髄腫は、血液細胞の1つである形質細胞(けいしつさいぼう)のがんです。

形質細胞は、白血球の一種であるB細胞から分かれてできる細胞ですが、この細胞ががん化して骨髄腫細胞になって発症する病気が多発性骨髄腫です。

形質細胞は免疫に関係していますが、骨髄腫細胞はその働きがなく、さらに役に立たない抗体(Mタンパクと言います)をつくり続けてしまいます。

下記のような病態が形成されます(個人差があります)。

◯正常の造血が障害され、貧血や白血球減少、血小板減少が起こります。

◯白血球減少や、正常形質細胞の減少から、感染を起こしやすくなります。

◯Mタンパクは役に立たないばかりか有害で、腎機能の障害や血液循環の障害を起こします。

◯骨髄腫細胞は骨を壊す細胞である破骨細胞を刺激するので、骨破壊が進み骨病変が出現し、骨のカルシウムが血中に出ての高カルシウム血症も起こします。

 

 

治療が日進月歩の多発性骨髄腫

私が内科研修医を終えて内科専修医となり、多発性骨髄腫の患者さんも主担当医として診療を行っていた頃、多発性骨髄腫の患者さんと言えば、MP療法(メルファラン+プレドニゾロン)やVAD療法(ビンクリスチン、アドリアマイシン、デキサメサゾン)が中心でした。

緩和ケアの視点で言えば、その頃は骨病変が進行して疼痛が主問題となる方が多く、医療用麻薬などを用いて緩和にあたっていました。

多発性骨髄腫末期・進行期の骨の痛みと対処法・緩和ケア

ところが2010年、大学病院に赴任すると、治療の変化に目を見はりました。

2006年に新たにボルテゾミブ(商品名ベルケイド)が発売され、今までと治療が様変わりしていたのでした。

それに伴い、骨痛での相談だけではなく、ボルテゾミブのしびれ(ボルテゾミブの末梢性神経障害の頻度は、添付文書上39.1%)などの治療の副作用対策や、長期療養での精神的なつらさなどの依頼が増えたのでした。

 

令和元年(2019年)の誰でもわかる多発性骨髄腫治療

まず65歳未満か65歳以上かによって異なります。

65歳未満の場合は自家造血幹細胞移植適応なので、それを目指します。

65歳以上だと自家造血幹細胞移植は非適応になります。

多発性骨髄腫の治療は、複数の治療薬を組み合わせた治療になります。

組み合わせをまとめた表をオンラインで閲覧できるようにしている機関もありますが、例えば次のようなものがあります。

多発性骨髄腫化学療法レジメン

見て頂ければわかりますように、たくさんの組み合わせがあります。

多発性骨髄腫の治療薬は複数の系統がありますので、違う種類のものを組み合わせて治療します。

治療薬は次のような種類と名前のものがあります。()内は商品名です。

 

① プロテアソーム阻害薬

プロテアソームは全ての細胞に存在し、細胞の機能や成長に重要な役割を果たしています。プロテアソーム阻害薬はそれを阻害し、がん細胞が死滅したり成長が停止したりします。

がん細胞は他の細胞よりもこの作用によく反応するため、この薬剤が有効なのです。

造血障害や手足のしびれ、呼吸器の障害などが副作用です。

プロテアソーム阻害薬には下記の種類があります。

・ボルテゾミブ(ベルケイド)

・カルフィルゾミブ(カイプロリス)

・イキサゾミブ(ニンラーロ)<経口薬>

② 免疫調節薬

骨髄腫細胞の増殖を抑えたり、骨髄腫細胞を攻撃する細胞の働きを助けたりする等で、抗腫瘍効果を示します。

レナリドミドによる造血障害や血栓症、サリドマイドによる血栓症や眠気や便秘等の副作用が知られています。

・レナリドミド(レブラミド)

・サリドマイド(サレド)

・ポマリドミド(ポマリスト)

③ ステロイド

骨髄腫細胞の増殖を抑え、かつ他の骨髄腫の薬剤との併用で効果を高める作用があります。

・デキサメタゾン(レナデックス)

・プレドニゾロン

④ アルキル化剤

アルキル化剤は抗がん剤です。DNAに強力に結合し、細胞分裂を止めて死滅させ、がん細胞の増殖を抑えます。

自家造血幹細胞移植を行う場合は、このアルキル化薬のメルファランを大量に使用します。

・メルファラン(アルケラン)

 

これらの①~④は治療の基本となる薬剤で組み合わせて使用します。

 

多発性骨髄腫は他にも様々な新薬が使われるようになりました

他にも様々な新薬が使われるようになっています。

⑤ 抗CD38抗体

多発性骨髄腫を含む血液がんの細胞表面に発現するCD38 抗原に結合することにより、抗腫瘍効果を示す薬剤です。

・ダラツムマブ(ダラザレックス)

⑥ ヒト化抗ヒトSLAMF7モノクローナル抗体

SLAMF7という骨髄腫細胞の表面、あるいは免疫細胞のNK細胞の表面に発現しているタンパク質に付着して、直接骨髄腫細胞を標的として傷害し、またNK細胞の骨髄腫細胞を殺す能力を増強するという作用です。

・エロツズマブ(エムプリシティ)

⑦ ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬

ヒストンのアセチル化を促進させ、がん抑制遺伝子を含む遺伝子発現が増加、結果として抗腫瘍効果を示す薬剤です。

・パノビノスタット(ファリーダック)

 

これらの標準治療等をわかりやすく表にしたものが下記のリンクから読めます。

骨髄腫 治療開発マップ

移植非適応の患者さんにD-VMP療法(ダラツムマブ+ボルテゾミブ+メルファラン+プレドニゾン)やVRD療法(ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン)の効果を示す研究も出て来ています。

そして話題のCAR-T療法も今後は多発性骨髄腫に適用されてくるかもしれません。

 

まとめ

最近の多発性骨髄腫の治療を簡単に述べました。

多剤併用療法が標準となっているので、副作用も様々なものが出現しえます。

そのため、かつては進行期の骨痛の治療が中心だった緩和ケア的な関わりも、治療の副作用対策や心理的諸問題の対応など、様々な要素が求められるようになりました

血液がんは血液内科の高度の専門性の下に治療されることもあり、緩和ケアの専門家の関わりが他の非血液がん(固形がん)より少ない印象も否めません。

それ自体も、緩和ケア担当者が血液がんの緩和経験を深めることの障害となることもあります。

私は幸いにして、積極的に(必要性を感じて)緩和ケア医に併診してくれる血液内科医と長く協働してきたので、豊富な血液がん緩和ケアの経験をすることができました。

臨床医にとっては数は力なので、多く診ているほうが一般には力を発揮できます。

多発性骨髄腫をはじめとする血液がんの方への助言としては、全人的な観点から支援する緩和ケアの働きは大切であり、血液がんに詳しい緩和ケア医の併診が望ましいとは考えられます。

 

 

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