安楽死と緩和ケアについて説明
2019年6月2日、NHKでスイスで安楽死を遂げた女性の話が報じられました。
安楽死と緩和ケアはしばしば混同されるので、改めて解説したいと思います。
緩和ケアも、早期からの緩和ケアも、より良く生きることに焦点を当てています。
そして定められた生を使い切って頂くことを目的としています。
緩和ケアは元々、終末期のケアから出発しました。
そのため、死に関するケアというイメージが色濃くあります。
もちろん穏やかな死を迎えられるように援助することは、緩和ケアの一環です。
一方で、世界保健機関(WHO)の緩和ケアの定義文の一部にも
「intends neither to hasten or postpone death」
とあり、死を早めも遅らせもしない、と書いてあります。
一方で安楽死は、世界的には、医師の手によって致死的な薬剤を投与することで死をもたらすことです。
これはオランダやベルギーなど一部の国だけが認められています。
そのため、スイスで行われているのは、厳密には安楽死ではありません。
医師幇助自殺といって、医師が薬物を処方・提供することによって、その方が自ら薬剤を服用して自殺するのを助けることを言います。最近は医師以外が致死薬を準備することもあるとして、医療的幇助自殺とも呼ばれることが増えて来ているとのこと。
なお日本で使われる「尊厳死」は、世界標準の尊厳死とは意味が異なり、例えばアメリカ・オレゴン州の「Oregon Death with Dignity Act」のように、尊厳死=医師幇助自殺と捉えられています。
日本では、わかりやすさ重視で医師幇助自殺まで一緒くたに「安楽死」と呼称しています。
今後議論を深める際には、そろそろ世界標準の用語を使うのが良いのではないかと個人的には感じています。
2018年5月現在の、世界各国の状況は下記になります【引用;世界の安楽死概観<一部改変>】。
①安楽死のみ容認されている国・地域・・・カナダ・ケベック州、コロンビア
②医師等自殺幇助のみ容認されている国・地域・・・米国の一部州<オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、コロンビア特別区、モンタナ州(判例)、ワシントン州、バーモント州>、スイス(刑法解釈)
③両方が容認されている国・地域・・・オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ連邦、(2019年6月施行予定)豪ビクトリア州
安楽死と緩和ケアは別物
安楽死と緩和ケアは先述したように目的が異なります。
そのため、ヨーロッパでも例えば欧州緩和ケア学会は、安楽死は緩和ケアの一部ではないと述べています。
一方で、安楽死を容認している国では緩和ケア医もその決断に関与することがあります。
そのオランダでも、医師は患者の積極的安楽死の要求の半数近くを拒否しているという調査結果があります。
また医師幇助自殺が発展しているスイスでは、そちらが先に進歩したため、緩和ケアのほうが発展していないことを指摘する声が上がっています。
安楽死や医師幇助自殺があっても、それだけでは問題が解決しないことはわかります。
一方で、緩和ケアは欧州緩和ケア学会の先ほどの白書にもあるように、どんな悲惨な状況であっても、生きることには価値があるという思いを支え続けます。けれども確かに、それでも難しいケースもあるでしょう。
緩和ケアとは別個に、安楽死や医師幇助自殺の是非は日本でも今後十分話し合われることが大切と考えます。
そのためにこそ、正しい用語と理解の深まりが重要だと考えます。
まとめ
日本でも鎮静という、安楽死や医師幇助自殺とは異なる方法があり、それを行える医師が適時にそれを開始することで、苦痛から解放されて最期を迎えられるようにはなって来ています。
それなので、余命が限られている場合の死の前の苦痛に関しては、適切な医療者に関与してもらうことによってだいぶ免れることができるようになっています。まだその鎮静が、その考えや方法が正しく理解されて、広くは普及していないことは問題ですが。
安楽死と緩和ケアの違いをまとめます。
一言で言えば、安楽死と医師幇助自殺は死をもって苦しみから解放され、死ぬ自由を行使する手段であり、死によって自分が望んだように生を終える方法です。
一方で、緩和ケアは苦痛を緩和してより良く生きることに焦点を当て、与えられた寿命を早めも遅らせもせず使い切ることを支えるケアです。
それぞれは異なった手段・アプローチであり、ますます理解が深まると良いと考えます。