緩和ケア科にかかりたくない人に受診を勧める3つの方法を解説します。
緩和ケアを伝えるのを恐れる症候群
緩和ケアは末期というイメージが長らくありました。
国は、国の方針として、「診断された時からの緩和ケア」を謳っています。
第二次のがん対策推進基本計画から「診断された時からの緩和ケア」は明示されています。
すなわち5年以上、方針はそうなっています。
したがって、本来緩和ケアの並行受診を伝えるのに一切の躊躇はいらないはずです。
「末期に限っていない」と力強く伝えれば良いからです。
また、このクリニックのサイトや、早期緩和ケア相談所など、末期限定ではないということや、緩和ケア一般に関して説明しているサイトもあります。
それらを読んでもらうように伝えれば、「自分ではなかなか伝えるのが大変で……」という場合もやりやすいと考えます。
今回改めて、緩和ケアの伝え方に関しても動画を作成しました。
ぜひ、進行がんの方(無症状の場合を含む)、寛解しているが再発が不安な方、がん以外の病気で苦痛に悩んでおられる方へ、動画を参考に緩和ケアが末期に限らず受ける意味があることをお伝え頂ければと思います。
さて、ひと口に緩和ケアを伝えると言っても、立場によって多少傾向と対策が異なります。
今日はそれを皆さんにお伝えしたいと思います。
① 自分は医療者で、患者さんに緩和ケアを伝える場合
皆さんが看護師や医師、薬剤師などの医療者である場合は、緩和ケアが末期に限らないで受ける意味があることは当然知っていなければなりません。
そして、伝え方も自信をもって勧めることです。
例;「末期ではない緩和ケアがあります。◯◯さんは受けたほうが良いです。紹介しますね」
例;「緩和ケアは末期ということではなく、治療と並行していつでも症状や不安を和らげ、生活の質を向上することです。私たちもそのように努めますが、いつでも専門家にも相談できます。この病院には緩和ケア科があり、それに該当します」
というような形ですね。
変に気遣って、「緩和ケアって言うと心配するかもしれませんが……」とおずおずと伝えると、誤った非言語的メッセージを送るので注意しましょう。
患者さんは医療者の一挙手一投足をご覧になっています。
このブログ等で述べているメリット(生存期間延長や生活の質の向上、苦痛緩和等)もはっきりとお伝えしましょう。
ご家族が「本人に緩和ケアと言わないでください」というケースもあります。
ご家族にも患者さん以上にしっかりと伝えることが重要です。
緩和ケア=末期ではない、のですから、変に気遣って”緩和ケアという言葉を使わない”というのはあまりお勧めしません。
実際、私も治る見込みの患者さんや、過去に治った患者さんも多く拝見しています。
例;「これまでの言葉の理解が間違っていたのです。しっかり伝えましょう。伝える側はついつい心配してしまいますが、しっかり説明すれば患者さんはちゃんと理解してくださっていますよ」
等と説明しましょう。
良いものを隠す必要はないのです。
② 自分が友人・知人(家族ではない)で緩和ケアを伝える場合
実はこのようなケースが意外に難易度が高いです。
というのは、望んでいる範囲を超えた情報提供は「おせっかい」になることがあるためです。
①のように自信をもってはっきり勧めるのは、もしかすると患者さんやご家族は希望されていないかもしれないので、必ずしも良い方法とは断言できません。
例;「緩和ケアって末期ではなくても問題解決の支援をしてくれるみたいよ」
のような、やんわりとした勧奨で、あとは自主的なお働きに任せるというほうが良いかもしれません。
もちろん友人・知人と言っても、関係はかなりの濃淡があるでしょう。
親友という立場ならば、①に近くはっきり勧奨しても良いでしょう。
たとえいっとき耳が痛く感じても、それが相手のためになることだからです。
しかし関係性が深くない場合は逆効果になることもあるので、勧めるにしてもまずはやんわりと情報提供し、それに対する興味の度合いでどうするかを考えると良いでしょうね。
③ 自分が家族の立場で、病気の家族に緩和ケアを伝える場合
ケースによっては一番大変になるのが、この③のケースです。
家族の言うことが一番聴けない、という方は少なくありません。
緩和ケアの医療者に助力を求めるのも良いでしょう(緩和ケアの伝え方の巧拙に差異があるので、難しいケースでは緩和ケアが専門の医師や看護師に任せたほうが良いと一般的には考えます)。
関係性はその家庭ごとにかなり異なります。
何でも話せて、受け入れてもらえる、そのような場合は、忌憚なく①のように緩和ケアを勧奨しましょう。
けれども、言っても難しい場合は、②のようにやんわりと情報提供し、それをしつこくない程度に繰り返し、少しずつ気持ちが変わるのに期待するしかない場合もあるでしょう。
私の経験でも、過去何例も、ご家族が勧めてもご本人が要らないといって、以後なしのつぶてとなってしまっているケースがあります。
ご本人が感じている必要性の有無と関係なく緩和ケア外来を定期的に受診することによって、長期生存や問題の予防などが図れるのが早期緩和ケアの効果なのですが、必要性がないと断じて一切受診を希望されないケースもあります。
このようなケースの場合は、本当に、緩和ケア受診が遅れがちになり、問題の深刻化や支援の遅延が懸念されます。
とはいえ難しいのは、ご家族が熱心に勧めても、どうにもならず、勧めれば勧めるほど頑なになる、という逆効果や悪循環も懸念されることです。
人の気持ちが変わるのには時間がかかりますし、理解しなければ結局行動は変わりません。
まずはやんわりと伝え、このサイトのような情報源を紹介し、様子を見るという方法も考えられますでしょう。
まとめ
いわば国策となっているにも関わらず、進行がんでも緩和ケアを受診していない方はものすごくたくさんおられます。
緩和ケアを伝えることに難儀されている方も多く、しばしば相談も受けるので、本稿がお役に立てれば幸いです。