末期になると緩和ケアは逆に伝えづらいという事実
早期からの緩和ケアの伝え方について前記事で解説しました。
実は、末期になると緩和ケアは逆に伝えづらいケースが散見されます。
というのは、早期でも心配していた、「緩和ケアと伝えることで末期と本人が感得するのではないか」という危惧が実際のものとなる可能性が高いからです。
ただその頃には、患者さんも薄々ご自身の病気がかなり厳しいことを体得されていますから、この場合でも過剰に忖度して緩和ケアを伝えないというのも、良くはありません。
緩和ケアというと内容もわからず、ただ末期だと言葉だけで一喜一憂しているケースがあります。
緩和ケアは何なのかをしっかりと伝えることが肝要です。
では緩和ケアの何を伝えるか
末期になってからの緩和ケアは、始める時期としては正直遅いです。
過剰な期待を抱かせるような説明もふさわしくはありません。
一方で、死期が近づけば、一般に様々な苦痛が出現してくる可能性があります。
まず、緩和ケアはそのような苦痛をできる限りで和らげることを目的としていることを伝えるのが肝要でしょう。
例;「緩和ケアはできる限りで苦痛を和らげるための医療です。良い時間を過ごせるように支援します」
緩和ケアと治療の終了を等号で結んで理解している方がいます。
「緩和ケアってことは、もうやれることはないんですね」
「緩和ケアってことは、治療が終わりなんですね」
しかし皆さんもご存知のように、治療ができなくなったから緩和ケアになったのではないのです。
それは本来別のものです。
けれども一緒くたに、治療か緩和ケアかの一択と思われている方はたくさんおられます。
例;「◯◯さんが治療を受ける受けないにかかわらず、緩和ケアは提供されますのでご安心ください」
「緩和ケアを受けているから治療終了になるわけではありません」
そのような説明が妥当となるでしょう。
一方でこの時期で難しい緩和ケア病棟・ホスピスの説明は?
本当は、治療法がない時期である末期に至る前に、緩和ケア病棟やホスピスについてガイダンスを受けておくことが望ましいです。
というのは、めぼしい治療がなくなった際に(あるいは可能ならばその前に)「即」動かなければ、緩和ケア病棟やホスピスへの入院が間に合わない可能性があるからです。
しかし、突然それを伝えられると、多くの患者さんが戸惑います。
緩和ケア病棟やホスピスは、最期を過ごす場所との認識が強いためです。
治療終了時期にはまだ身体が普通に動くことも多いため、「なぜそのような準備をしなければいけないのか」ピンとこない場合も少なくないのです。
さらには、緩和ケアにあまり詳しくない医療者は、「早期からの緩和ケア」も「緩和ケア病棟・ホスピス」も同じように「緩和ケア」という言葉で代表して説明することがあるので、ますます混乱に拍車がかかることがあります。
その「緩和ケア」は一体何を指し示しているのか、聞いた側は十分尋ねることが重要です。
そして、一般の医療者が「緩和ケア病棟やホスピス」を勧める際は、それでもタイミングが遅いことも多いので、勧めに乗ったほうが良いと考えます。
申込みは早すぎるということはありません。
一方で治療中は、面談のエントリーもできない緩和ケア病棟もありますから、早期から携わっている緩和ケア担当者などとも十分相談して対策を練る必要があります。
このような点からも、早期から力量ある緩和ケアの担当者が関わってくれていると安心です。
そのためにも早期からの緩和ケアを受ける意義がある、とも言えるでしょう。
末期ですか? と尋ねられたら
皆さんが家族や医療者の立場で、ご本人から「緩和ケアを勧められるってことは末期ですか?」と尋ねられた時の望ましい回答も、人それぞれだと思います(もちろん末期ではない場合は、前回の記事を踏まえて答えましょう)。
直截に言ってほしい方もいれば、やんわりと伝えてほしい方も、場合によっては一切言わないでほしい方もいるでしょう。
ただ、緩和ケア病棟やホスピスを勧めるのならば、伝え方に配慮しながらも、ある程度のことは情報提供する必要があります。
例;「末期だと落ち込む必要はありませんが、先のことを十分考えねばならない時期です」
「末期とは確定的には言えませんが、相当進行していることは事実であり、準備することは必要です」
等が考えられますでしょう。
大切なのは伝える伝えないではなく、いかに伝えるか、です。
ご家族もよくどう伝えるのか心配されますが、熟練の緩和ケアの担い手はその人に合った説明を行うように心がけており、過剰に心配しすぎないと良いと思います。
末期であっても、言葉や感情に配慮しながらもしっかり伝えてほしいという方は少なくありません。
周囲が過剰に心配して、ご本人が疑心暗鬼になったり、必要な準備ができなくなるのは避けたほうが良いでしょう。