がんを「放置する」という選択について、よく相談を受けます
「がんは治療せず、自然に任せたほうがいいのではないか」
「手術や抗がん剤は怖い。できれば何もしないで過ごしたい」
外来では、このようなご相談を受けることが少なくありません。
背景には、不安、恐怖、過去に見聞きした情報、あるいは
「治療でつらい思いをするくらいなら……」
という、とても人間らしい気持ちがあります。
まず最初にお伝えしたいのは、
そう考えてしまうこと自体は、
「がん放置」が話題になった時代がありました
10年以上前、「がんは放置したほうがよい」
実際に、その影響を受けて治療を控えた方もいらっしゃいます。
しかしその後、医療の現場では、
- 放置しても進行しなかった例
- 一方で、放置したことで手遅れになった例
その両方を見てきました。
残念ながら後者も、決して少なくありません。
がんを放置しても大丈夫な場合は「ゼロではない」
ここは、誤解なくお伝えしたい点です。
確かに、
- 非常に進行がゆっくりなタイプ
- 高齢で他の病気の影響が大きい場合
- 医学的に慎重な経過観察が選択されるケース
など、「積極的治療を行わない判断」が妥当なこともあります。
ただしこれは、
専門的な評価と、継続的な観察が前提です。
問題なのは「自己判断での放置」です
外来で特に心配になるのは、
- 誰にも相談せず
- 検査や説明を十分に受けないまま
- 「何もしない」と決めてしまうこと
です。
がんは、
「放っておいても変わらないもの」と
「気づいたときには進んでしまうもの」があります。
その違いは、素人目にはほとんど分かりません。
放置していたがんが、あとからつらさを生むこともあります
緩和ケア外来では、
「もっと早く相談していれば選択肢があったかもしれない」
「治療を完全に諦める必要はなかったかもしれない」
そう感じる場面に、時々出会います。
放置によって、
- 痛みや症状が強くなる
- 治療が難しくなる
- 心の後悔が残る
ということも、現実として起こり得ます。
「治療するかどうか」を決める前にできること
大切なのは、
すぐに治療を始めることではありません。
一人で決めないことです。
- 今のがんの状態はどうなのか
- 放置した場合の見通し
- 治療した場合の選択肢
- 生活や価値観との折り合い
これらを一度、整理してから決めても遅くありません。
緩和ケア外来は「治療を勧める場所」ではありません
緩和ケア外来は、
- 無理に治療を勧める場所ではありません
- 放置を否定する場所でもありません
「どうするのが自分にとって一番納得できるか」
を、一緒に考える場所です。
実際に、
外来で話をする中で、治療に臨む決断をされる方もいれば、
慎重に経過を見ていく選択をされる方もいます。
迷っているなら、まず相談してください
「放置しても大丈夫なのか」
「治療が怖くて踏み出せない」
「このまま様子を見るのは危険なのか」
その迷いを抱えたまま、一人で耐える必要はありません。
相談することは、治療を始めることと同義ではありません。
立ち止まって考える時間を持つこと自体が、
あなたにとって大切な医療の一部です。

















