再発と転移は違う
乳がんが転移したらどうするかについて解説します。
「再発と転移」と言いますが、手術後の乳房やその周辺の再発は「局所再発」と呼び、治るケースがあります。
一方で、乳房から離れた場所の再発は、一般に「転移」あるいは「遠隔転移」と呼び、2019年現在の治療では完全に治る(根治あるいは完治する)のは一般に難しくなります。
もちろん多くの患者さんはその事実を知っておられるので、遠隔転移するとお気持ちはつらいのが当然だと思います。
ただ治療も日進月歩です。
確かに現行の医療では根治は難しいですが、生活の質を保持して、できるだけ命が延びれば良いのです。
かつて不治かつ短命だったHIV/AIDSは、今や病気を抑え込んで生涯を全うできるようになりました。
がんもそうなれば良いですし、次々と新たな治療が開発されています。
長く生きられれば、また新たな治療ができてさらに生きられる。
それなので、希望を捨てないで大丈夫です。
乳がんが転移したらどうするか?
転移する臓器としては、骨、肝臓、肺、脳などがあります。
骨ならば痛みが、肝臓ならば右上腹部の異和感が、肺だと咳等が、脳だと神経症状が出ることもありますが、症状がなくて定期検査の画像でわかる場合もあります。
再発時期は術後2~3年以内が多いですが、乳がんの場合は10年後等もあるというのが厄介な部分です。
ご存知だと思いますが、転移=末期ではないですから、その点はご心配はありません。
また脳以外は、薬物治療が奏効することが知られていますから、乳がんの治療を行うことで、奏効すれば転移した病変(転移巣)も縮小させることが可能です。
脳の場合は、放射線治療等を行う必要があります。
転移がわかったら、まずは再び治療を行うことになるでしょう。
乳がんにはいくつかのタイプがありますが、ホルモン受容体陽性の人はホルモン治療を行い、HER2陽性の人は抗HER2薬による治療を行い、それ以外の人及びホルモン療法が効かなくなった人は抗がん剤治療を行います。
それぞれの転移先別の留意点は下記でも解説しています。
再発後はうまく病気と付き合うことが重要
再発後は、基本的には病気を治す治療というよりも、がん病巣を抑えて、症状を緩和し、治療の副作用を抑えつつ、長期延命を図るというのが治療目的になります。
病気が進行すると、病気自体の症状が出現してきます。
しかし治療が効いている間は、むしろ治療の副作用が問題となります。
副作用は抑えることができるものもあれば、なかなかそうでもないものがありますが、大切なのは何らかの対処法は必ずあるということです。
そのため、よく担当医や、その他のスタッフに対処法を尋ねることが重要です。
ただ大病院の外来は忙しいので、なかなか担当医とよく相談できないという話は伺います。
そのような時に頼りになるのが、緩和ケア外来です。
患者さんのための乳癌治療ガイドラインでも次のように書かれています。
療養中は,痛みや苦しみなど,いろいろな症状が出ることがあります。これらの症状を和らげるためには,専門的なケアが必要とされ,「緩和ケア」と呼ばれています。緩和ケアは,以前は「終末期に提供されるケア」とされた時期があったため,がんの治療ができなくなった人のための最後の医療・ケアと誤解されがちでしたが,現在は「がん治療の早期から並行して始めるケア」というように考え方が変わりました。一般病院でも緩和ケアチームという多職種の医療スタッフ(医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカーら)がかかわることによって,症状緩和を行うようになってきたので,これらの専門家の力を借りるのもよいことだと思います。
なお、主としてがん治療の副作用対策を「支持療法」と言いますが、緩和ケアと支持療法は重なります。
治療は長期に及ぶことも多いため、◯良い生活習慣を保つこと、◯抑うつなどに陥ることもあるため気持ちにも注意を払うこと(調子が悪ければ速やかに担当医と相談し専門家につないでもらうこと)、◯副作用対策を十分行いストレスが少なく治療ができるようにすること、などの諸配慮が必要となります。
可能ならば患者会や早期からの緩和ケア外来なども利用し、穏やかに療養できるようにすることが大切だと言えましょう。