「緩和ケアに移行します」と言われたとき、何が起きているのか
がん治療の経過の中で、
「そろそろ緩和ケアに移行しましょう」
という言葉を聞いたことがある方は少なくありません。
この一言をきっかけに、
- もう治療は終わりなのではないか
- 見放されたのではないか
- もう先が長くないのではないか
と、強い不安や動揺を抱く方を、私は何人も診てきました。
問題は緩和ケアそのものではありません。
問題なのは、「移行する」という言葉の使われ方です。
「移行する」という言葉が暗示してしまうもの
「移行」という言葉には、
- これまでの治療は終わる
- フェーズが切り替わる
- もう元には戻れない
医療者にとっては説明のつもりでも、
患者さんにとっては「線を引かれた感覚」になりやすい言葉です。
特に日本では、
緩和ケア=最期の医療
という誤解が根強く残っているため、
そもそも、緩和ケアは「移行先」ではありません
緩和ケアは本来、
- 痛みや息苦しさなどの身体的つらさ
- 不安・落ち込み・迷いといった心理的負担
- 生活や仕事、家族関係の悩み
を、病気の時期を問わず支える医療です。
つまり、
- 治療と「対立」するものではなく
- 治療が終わってから始まるものでもありません
「移行する医療」ではなく、「重なり合う医療」です。
国も「がんと診断されたときからの緩和ケア」を謳っています。

緩和ケアは最後だけに与えられるものではなく、図に示しているように、
全病期を通して、病気の進み具合を問わずに「並行して」受けられるものが緩和ケアの本来の形なのです。
「移行」と言われた瞬間に、相談が止まってしまう現実
「緩和ケアに移行」と言われたあと、
- もう希望を言ってはいけない気がした
- 主治医に質問しづらくなった
- 不安を口にするのが申し訳なくなった
という声を、外来ではよく耳にします。
本来、緩和ケアは
「話していい」「迷っていい」「弱音を吐いていい」場所であるは
言葉一つで、その入口が閉じてしまうことがあるのです。
本当に伝えるべきだった言葉
多くの場合、必要だったのは
- 「治療は続けながら、つらさの相談もできます」
- 「今の段階から緩和ケアを併用できます」
- 「困ったことを専門に一緒に考える医療です」
といった説明です。
「移行」ではなく、「併用」「追加」「相談」
こうした言葉のほうが、実態に近いことも少なくありません。
緩和ケアの誤解は、言葉から始まる
緩和ケアが誤解され続けてきた背景には、
- 歴史的に終末期医療として発展してきたこと
- 医療者側の説明不足
- 言葉選びへの無自覚
があります。
その象徴が、
「緩和ケアに移行する」
という表現です。
残念ながらこの言葉は、こう言われた、あるいはそのような理解のもとに、
継続的に様々なところで認められ、発信されているという現状があります。
そろそろ変わってゆくと救われる方がもっと増える、私はそう思うのです。
まとめ
「緩和ケアに移行する」という言葉が問題なのは、
それが事実以上の意味を患者さんに背負わせてしまうからです。
緩和ケアは、
- あきらめの医療ではなく
- 最期だけの医療でもなく
- 治療をやめる宣言でもありません
つらさを一人で抱え込まないための、早く使っていい医療です。
もしその言葉に違和感を覚えたなら、
それはあなたの感覚が間違っているのではありません。
ひとこと
緩和ケアは「移行する場所」ではなく、
必要になったときに、いつでも並走できる場所です。
そのことが、もっと自然な言葉で伝わる社会になることを、
私は願っています。





















