――断れない苦しさと、後悔しない考え方
がんと診断されてから、
思いもよらないことを言われるようになった。
- 「この治療、すごく効くらしいよ」
- 「○○さんがこれで治ったって」
- 「お金は気にしなくていいから」
それが家族・親族・友人からの言葉であればあるほど、
断ることは簡単ではありません。
なぜ「高額な非標準治療」を勧められるのか
多くの場合、
勧めてくる側に悪意はありません。
- 何かしてあげたい
- 後悔したくない
- 「あの時、勧めなかった」と思いたくない
これは善意と不安の混ざった行動です。
しかし、その善意が
患者さんを追い詰めてしまうことがあります。
「断れない苦しさ」は、病気とは別のつらさ
患者さんから、実際によく聞く言葉があります。
「治療そのものより、断ることの方がつらい」
- 空気が悪くなる
- 恩を仇で返す気がする
- 自分がわがままな気がする
この心理的負担は、
治療の一部として扱われるべき問題です。
科学的に分かっている重要な事実
ここは、あいまいにせず、
はっきりお伝えします。
海外の大規模研究では、
標準治療を行わず、代替医療・
非標準治療のみを選択した患者さんは、
生存率が低下する可能性がある
と報告されています。
※「標準治療+補完的なケア」と
「代替医療だけ」は、全く別物です。
「試すだけ」は、実は試すだけではない
よくある言葉です。
- 「ダメ元でやってみれば?」
- 「どうせ治らないなら」
しかし現実には、
- 時間を失う
- 体力を失う
- お金を失う
- 標準治療に戻れなくなる
という不可逆な影響が生じることがあります。
医師として大切にしてほしい考え方
治療の選択は、
「どれが効きそうか」だけではありません。
- 今の体力で耐えられるか
- 本人が納得しているか
- 後悔が少ない選択か
治療は人生の一部です。
周囲を安心させるための治療で、
本人が苦しむ必要はありません。
角が立ちにくい「うまい断り方」
実際に患者さんが使って、
関係が壊れにくかった言い方を紹介します。
① 医師をクッションにする
「主治医と相談して、今回は見送ることにした」
② 期限を区切る
「今の治療が一段落してから、また考えるね」
③ 感謝を先に伝える
「心配してくれて本当にありがとう。その気持ちが嬉しい」
④ 決定権を明確にする
「最終的には自分で決めたいと思ってる」
説明しすぎないことが、実は大切です。
緩和ケアで扱えるのは「症状」だけではありません
緩和ケアでは、
- 痛み
- 副作用
だけでなく、 - 家族との関係
- 治療選択の葛藤
- 断れない苦しさ
こうした問題も、正面から扱います。
「治療をやめる場所」ではありません。
迷いを整理する医療です。
最後に
もし今、
- 勧められるたびに苦しくなる
- 断れずに悩んでいる
- 本当は違和感がある
そう感じているなら、
その感覚はとても健全です。
治療を選ぶのは、
周囲ではなく、あなたです。














